【5月11日(日)】


鳥のさえずりが聞こえる、もう時間は朝を迎えているようだ。

【一条】
「ふあぁぁぁ……朝か……」

昨日は家に帰ってきたらすぐに寝てしまった。
よっぽど疲れていたのだろう、食事をすることもなくベッドに横になりそのままぐっすりと……

【一条】
「腹減ったな……」

空腹を感じ取り何か食べる物を求めるように体を起こす。

【一条】
「あつっ!」

体中に鈍い痛みが走る、中でも特に腰骨が痛む。
昨日のような鋭い痛みではなく、何かで圧迫されるような嫌な痛みが腰骨を襲う。

【一条】
「やっぱり無理しすぎたのかなぁ……」

どう反省したところでもう遅いのだからしょうがないな。
今度からは翌日のことも考えて行動しよう……

……

さすがに昨日の今日で音々に会いに行くのは恥ずかしい。
体が痛くて病院まで行くのも苦労しそうだし、たまには家でゆっくりと掃除でもして過ごそう。

【一条】
「さてと……まずは掃除機から始めるか」

……

【一条】
「よし、ざっとこんなもんかな」

掃除機の電源を止め、次は窓の水拭きに移ろうかな。

ピンポーン

【一条】
「誰か来たか?」

呼び出しのチャイムが鳴る、日曜の朝から俺にようがある人間なんているのか?

【一条】
「どちらさまで……?」

【萬屋】
「……」

【一条】
「萬屋さん! どうして俺の家を?」

【萬屋】
「そんなことはどうでも良い、君に2、3訊ねたいことがあるのでね。
悪いが拒否黙秘は認められないからそのつもりで」

【一条】
「萬屋……さん?」

いつも不思議な人だとは思っていたけど、今日の萬屋さんはいつにもまして不気味な怖さがある。

【萬屋】
「まず1つ、君は今体に妙な痛みを覚えていたりしないか?」

【一条】
「え、それは……」

【萬屋】
「覚えが有るのか無いのか、どちらだ?」

【一条】
「どちらかといえば有りますけど、どうして萬屋さんがそのことを?」

【萬屋】
「なるほど、では2つ目、君はよく病院にある女性に会いに行っているな」

【一条】
「はぁ、まあ行ってますけど……」

【萬屋】
「『姫崎 音々』という名前だったな、彼女と君の関係を教えてくれ」

【一条】
「ちょ、ちょっと待ってください、どうしてそんなことを萬屋さんに」

【萬屋】
「初めに云っただろ拒否権は無いと、君は黙って私の問いに答えればそれで良い」

【一条】
「あいつは俺の……彼女ですけど」

俺はどうして萬屋さんにこんなことを話しているんだ、大体なんで強制的に答えなければならないんだ。
そう思いつつも、そのことを萬屋さんに云うことはできなかった。

【萬屋】
「最後の質問だ、君はこの世界との共存を望むか、それとも否か?」

【一条】
「萬屋さん一体なんだって云うんですか、さっきから変なことばかり……」

【萬屋】
「黙って質問に答えろ!」

萬屋さんの剣幕にたじろいでしまい、一瞬だけその表情に鬼の形相を感じた。
今までの萬屋さんからは考えられない強く攻撃的な口調だ。

【萬屋】
「さあ、君が求むのはどちらだ!」

【一条】
「俺は……」

【萬屋】
「……」

【一条】
「俺は、共存を望みます」

正直前まではこの世界に存在していること自体が嫌になっていた。
しかし今は違う、こんな世界の中でも生きて行こうと俺を変えてくれた人物。
音々の存在があるから、あいつがいるから、俺はこの世界との共存を望もう……

【萬屋】
「なるほどな……それが君の答えか」

【一条】
「萬屋さん?」

小さく息を吐き、ゆっくりと萬屋さんのてが俺の眼の高さまで上がる。

【萬屋】
「君がそう考えているのなら、致し方ないか……」

【一条】
「な、何を……?」

【萬屋】
「さらばだ、できることならもう2度と出会いたくないものだな」

パチン

眼の前で萬屋さんの指が鳴らされる、次の瞬間俺の中で世界が反転した。
空間が歪み、視線は宙を彷徨い、激しい嘔吐感までもが体を支配する。
もうはや俺に立っていることはおろか、意識を繋いでいることさえできなくなっていた……





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