【5月08日(木)】


【某】
「なんや一条、ぼやーっとして元気ないで?」

【一条】
「ここ最近寝つきが悪いんだよ、なんかすごく疲れてるんだ」

【某】
「疲れてるんやったらよく眠れるんとちゃうんかい?」

【一条】
「そう思うだろ、だけど駄目なんだよ、寝るのも疲れるって云ったら良いかな」

このところ布団にもぐってもちっとも眠れない、眠気はあるはずなのに眠ることができない。

【美織】
「そのくせ学校ではよく寝てるわよね、そのせいで眠れないだけなんじゃないの?」

【一条】
「それとこれとはちょっと勝手が違うんだ、肩でもこってるのか?」

【某】
「どらかしてみ……別に肩がこってるっちゅーことはなさそうやな」

【一条】
「そうか? 全身にダルさみたいなのを感じるんだけど、気のせいかな?」

【美織】
「それって病気か何かなんじゃないの、病院に行って見てもらったらどうよ?」

【一条】
「そこまでは酷くないから良いよ、それに学校でならよく眠れるし」

【某】
「おいおい、そんなんでテストとか大丈夫かいな……」

……

授業中は本当によく眠れる、家での寝つきの悪さが嘘のようだ。

【一条】
「ふああぁぁ……」

【美織】
「やっと起きた、よく寝るわねー」

【一条】
「よく寝るって今何時限目が終わったころ、二時限目くらいか?」

【美織】
「今はもう昼休み、午前中は一切起きてなかったよ」

【一条】
「昼休み?! 何それ俺ってそんなに長時間寝てたの!」

【美織】
「ぐっすりとね、それでちょうどお昼の時間だけど、何か食べる?」

寝ていただけなのに腹だけはきっちりと空いている、これが人間の厄介な所。

【一条】
「学食でトンカツ食べる……」

【美織】
「うわぁ……寝起きによくそんなもの食べられるわね、だけどトンカツだったら学食に行く必要ないかもね」

【一条】
「どういうことだよ?」

【美織】
「運が良かったらもうすぐわかるわよ、ちょっとの間待ってなさい」

何やら企みでもあるんだろうか、云われたとおり少し待ってみるか。

【某】
「おまっとさーん、今日も収穫は上々やで、一条もようやく起きたんか」

【美織】
「某、カツサンドとか買えた?」

【某】
「抜かりなしや、ほれ」

【美織】
「よっと、はい注文のトンカツ、学食行かなくて良かったでしょ」

【一条】
「これ貰って良いのか?」

【某】
「かめへんかめへん、どうせ調達には一銭も使ってへんねやから」

またこの男は裏工作か何かしたな、いつも思うけどこの男のどこにそんな権力があるんだ?

【一条】
「そういうことなら、ありがたくいただくよ」

【某】
「せやけどおまえ、寝起きにトンカツて重すぎるんとちゃうんか?」

【一条】
「午後の授業も寝て過ごすんだから腹持ち良い物食べないと」

【美織】
「あんたまだ寝る気なの、朝の寝不足発言はどこにいったのかしらね」

【一条】
「俺が知るか……トンカツ美味いな……」

もしゃもしゃとカツサンドを平らげる、これで午後もぐっすりだな……

……

【美織】
「ほら、そろそろ起きなよ」

【一条】
「うぅあ……」

【美織】
「呆れた、一体何しに学校来てるのよ」

【一条】
「すると……もう放課後?」

【美織】
「そういうこと、ボサっとしてないでさっさと帰るよ」

今日の学校は寝るだけで終わってしまった、たまにはこんな日があっても良いよな……良いわけないか。

……

【一条】
「それで、今日の授業って何か変わったことやった?」

【美織】
「特に変わったことはなかったけど……レポート書きがあった位かな」

【一条】
「ごくろうなことだね……」

【美織】
「人事みたいに云わないの、マコだって書かなくちゃ駄目なんだよ」

【一条】
「そりゃそうだ……いつまでに書けば良いの?」

【美織】
「明日まで」

【一条】
「なんですとー!!!!!」

【美織】
「うわあ、びっくりした……急に大声上げないでよ」

【一条】
「それってやっぱりできないと何か罰があったり……?」

【美織】
「1週間ずっと教務室の掃除だってさ」

ゴアーンと頭の中で神社の釣鐘が鳴るような感覚が突き抜ける、変な汗まで出てきたぞ……

【一条】
「終わった……これから1週間教務室掃除だ……ははは」

【美織】
「あまりのショックに壊れちゃったか、でもまだ1日残ってるんだしさ諦めるのは早くない?」

【一条】
「1日でテーマもわからずレポートなんかまとめられるわけ……そうだ!」

横にいた美織の肩をがばっとつかむ、いきなりのことに美織の眼がきょとんとしている。

【美織】
「な、何、かな?」

【一条】
「頼みがあるんだが……手伝ってくれないか?」

【美織】
「そんなことだろうと思った、だけどあたしも書きあぐねてるからあんまり役に立てないと思うんだけど」

【一条】
「俺1人じゃ明日白紙で提出しないといけないんだ、頼むこのとおり!」

【美織】
「うーん……だったらあたしの家で一緒にやる?」

……

【一条】
「お邪魔します」

【美織】
「今お茶でも淹れてくるからその辺でくつろいでて」

美織の提案により俺は美織の部屋にいる、前にも入ったことがあったけどあれは勝手に入ってしまったようなものだし。

【一条】
「あらためて来ると……なんか照れくさいな」

視線をどこにやったら良いのかわからない、どこに視線をもっていっても悪い気がして宙をさまよってしまう。
早く戻って来てくれー(泣)

【美織】
「お待ちどうさま、タンスの中とか開けなかったでしょうね?」

【一条】
「莫迦なことを云うな、そこまで思考がめぐらなかった……」

【美織】
「なーに、マコ緊張でもしてるの? 前にも入ったことあるじゃない」

【一条】
「病人を運んできただけで部屋の中なんかほとんど気にしてなかったから
それよりもレポートの話だよ、題材は何を出されたの?」

【美織】
「確か……「自分が生きる意味」だったかな」

【一条】
「自分が……生きる意味」

【美織】
「そ、それをレポート用紙3枚までにまとめてこいって云ってた」

【一条】
「ちなみに美織はもう書き終わったのか?」

【美織】
「まだに決まってるじゃない、生きる意味とかそんな難しいこと云われてもね」

はぁーと大げさに肩を落としてみせる、美織らしいちょっと冗談の入った表現。

【一条】
「なんだ、そんなことか……」

【美織】
「そんなことってマコは大丈夫なの? 用紙3枚だよ」

【一条】
「3枚きっちり埋めろってわけじゃないし、題材がそれだったら問題ないさ」

【美織】
「すごい自信ね、それに比べてあたしなんか何書いて良いかも見当つかないのに」

【一条】
「題材をそのまま考えるから難しく感じるんだ、ちょっと考え方を変えてみれば良いことだろ」

【美織】
「そう簡単に云ってくれるけどね、その変え方がわからないんじゃない」

【一条】
「それじゃあヒントだ、美織は何の為に生きてるんだ?」

【美織】
「何の……為にか……」

……

【一条】
「それじゃ俺はこの辺で」

【美織】
「うん、マコのおかげでレポートもまとまったことだし、今度何かお礼しなくちゃね」

【一条】
「また料理でも教えに来てくれ、んじゃまた明日」

【美織】
「またね、おやすみなさい」

あの後美織はあっという間にレポートをまとめた、ちょっとした転換で案外簡単になったりする。
何を書いたのかは知らない、見せてもらおうとしたら叩かれたくらいだからな。

【一条】
「俺も家帰って書いちゃうか……」

レポートの題材があれで本当に助かった、俺にとってこれほど自分の答えがはっきりとした題材は他にないから……





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