【四章・ 交差 〜すれ違い〜】


ばたばたと部屋の中を行ったり来たり、本を束ねたり、バケツの水を替えたり。
今日は日曜日、久しぶりに部屋のお掃除をしようと思ってやってるわけだけど……
これが結構終らない、2部屋しかないくせに案外手間取るものだ。

とりあえず掃除機かけは終ったから、後は箒かけて、床拭いて、窓拭いて、要らない雑誌類をまとめて……いつ終るかな。
考えていても埒があかないので、頭よりも手を動かそう。

とか思っていると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った、なんともタイミングの悪い。
新聞とか消火器ならすぐに帰ってもらおう、今はそんなことしてる時間も勿体ないの。

「やっほー、れーんー」

ドアを開ける前に、外から私を呼ぶ声、なんだ澄ちゃんか。
ドアを開けると予想通り澄ちゃんの姿、予想外だったのは横に宇崎君の姿があったことだ。

「遊び来たよーって、何してたの? 料理?」

「え?」

「頭、頭」

ちょんちょんと澄ちゃんは自分の頭を叩く、頭って何か……あぁ、これか。
そういえば今私、髪の毛が落ちないように三角巾してたんだ、まるで家政婦さんみたいって思ったんだっけ。

「あ、ごめんね、今ちょうどお掃除してたから」

「掃除ですか、家庭的で良いですね」

宇崎君に褒められた、その横でなんだか澄ちゃんが不機嫌そうな顔になった。

「観澄は掃除とか下手ですから、教えてもらったらどうですか?」

「ば!莫迦、 言わなくても良いこと言わないでよ!」

澄ちゃんは顔を赤くして、宇崎君のわき腹に肘鉄を打ち込んだ、うわ、痛そう。
宇崎君が小さく声を漏らし、苦悶の表情をしている、そりゃ痛いよね。
だけどちょっと変だ、宇崎君って澄ちゃんのこと「観澄」って本名で呼んだっけ?

「掃除中だったら遊ぶどころじゃないね、よし、それじゃあ私たちも手伝いますか」

「そうしますかね」

「え、良いよそんなことしてくれなくても、服汚れちゃうよ?」

軽く腕まくりをしてやる気満々の2人に、やる気をそぐような私の一言。
それに、あんまり汚れている部屋を見られるのは女の子としてどうかと……

「掃除をすれば服が汚れるのなんて当然だよ、ちゃっちゃっとやっちゃおう、おじゃま〜」

「迷惑じゃありませんか?」

腕をブンブン回して入っていく澄ちゃんとは対照的に、宇崎君は結構遠慮がちだった。
いや、澄ちゃんが少し強引過ぎるのかな?

「ああなっちゃったらもう澄ちゃんは止められないよ、どうぞ」

「それじゃ、お邪魔します」

軽く頭を下げ、丁寧に靴を脱ぎそろえるところなんかいかにも宇崎君らしい。

「れーんー、窓拭き終わったー?」

「あんまり勝手に動くと迷惑ですよ、三田村さん、終ってない仕事は何がありますか?」

「えっと、窓拭きと床拭きと箒がけと雑誌まとめ、後お風呂掃除くらいかな」

お風呂掃除が追加された、毎日洗ってるからさっきは候補から抜いてしまっていた。

「では私は箒がけと床掃除をしましょう、1番汚れる作業は私がやりますよ」

「そんじゃあ私は窓拭きするねー」

澄ちゃんと宇崎君を加えての掃除は、予想をはるかに上回る効率のよさだった。
テキパキと宇崎君が澄ちゃんに指示を送り、窓の隅がきっちりと拭けていないとか言われていた、まるで姑さんみたい。

私は1人で要らない雑誌をまとめて縛っていたわけだけど、なんだろうなあの2人。
なんだかとても近い、私が間に入るのはためらわれるようなあの感じ。
やっぱりあの2人、もうそうなのかな……?

「さて、後はこれを捨ててくればお終いですね、行ってきます」

いいって言ったんだけどゴミ捨てまで宇崎君がやってくれた、2人のおかげで掃除はあっという間に終わってしまった。

「うぅーん、捗ったね」

「うん、ありがとうね、今お茶淹れるから」

紅茶の茶葉をポットにうつし、そこに熱々の熱湯をなみなみと注ぐ。
あんまりお茶の淹れ方にこだわりとかはないけど、私はいつもこうやって淹れている。
いつも1人でこんなにたくさんの紅茶を飲んでるんだと、、前澄ちゃんに言われたこともあったっけ。

茶葉がお湯の中で開くまで時間があるので、しばらく我慢我慢。

「あんまりおもてなしは出来ないけど、適当にくつろいでてね」

「良いって良いって、私たちが勝手に来たんだから何も構わないで良いよ。
だけどさ、掃除するほど憐の部屋汚れてなかったよ?」

「そうかな、結構掃除してなかったんだけど」

あ、そういえば、さっき宇崎君こんなこと言ってたよね。

「澄ちゃんって、お掃除下手なの?」

試すように、かるーく微笑みながら聞いてみた。

「なっ、そ、それは言わないでほしいんだけど……あいつが来たときにたまたま散らかってただけで。
大体あいつは細かすぎるんだよ、ボールペンとか出なくなるまで使いきるタイプだよ」

「宇崎君、澄ちゃんの家によく行くの?」

「え、それはその……」

私から視線を外し、ポリポリと照れたように頬をかいた。
これはきっと、私の考えで間違いないのかな……

「そっか、おめでとう」

要点はあえて言わなかった、きっと、これで通じるはずだから。

「うん……ありがとう」

ほらね、やっぱり通じたでしょ。
澄ちゃんは少しだけ頬を赤く染め、はにかんだような照れ笑いを浮かべた。

「いつごろからなの?」

「二週間くらい前から、かな……2人だとまだ話もおぼつかないんだよ。
今日も本当は2人だったんだけど、なんだかいづらくなっちゃって、勝手に押しかけてごめんね」

あの澄ちゃんが宇崎君とね、普段は結構はっきりとものを言う澄ちゃんが宇崎君とは上手く喋れないんだ。
私が思っていたよりも、澄ちゃんってずっと初心で、とっても可愛らしい女の子なんだ。

「だけどちょっと意外だな、澄ちゃんが彼氏をつくるなんて、それも高校の同級生と」

「私も最初はそんなんじゃなかったんだけど、なんて言うのかな、放っておけないって言うのかな……」

「へえ、宇崎君ってそうは見えないけど」

「見かけ上はね、だけど、あいつも結構ナイーブなやつだから」

私が入り込めないようなことが、きっと2人にはあるんだろうな。
澄ちゃんの顔を見ていればわかる、私といる時にはほとんど見せなかった、女の子らしい顔をしているもの。

口の前で両手を合わせ、てれてれとしている澄ちゃんは、以前では考えられない可愛い仕草だった。

「ただいま戻りました」

宇崎君の声に澄ちゃんがどきりと肩を震わせた、わたわたという表現が正しいのかわからないけど、そんな感じだった。
次に宇崎君に振り向いた時、そこにさっきまでの恥らう女の子の表情はなく、いつもの澄ちゃんの顔に戻っていた。

「そろそろ飲み頃だと思うから、お茶もって来るね、宇崎君もそこらでくつろいでて」

ティーポットの蓋を開け、香りを確かめてみる。
ふんわりと紅茶の香りが立ち上り、鼻を抜けた芳香がとても気持ち良かった、もう飲み頃かな。

「お待たせー」

「何にも構わなくて良いって言ったのに、だけどお言葉に甘えちゃおうかな」

「頂きます」

日曜の午後に3人揃って紅茶を飲む、よくよく考えたら、これって初めてのことじゃないかな。

「あ、これ美味しい、憐ってお茶淹れるの上手いね」

「本当に、茶葉云々もそうでしょうが、淹れ方も中々ですね」

2人とも褒めてくれるけどそうなのかな? 私の飲み方って結構乱暴なんだけど。
たっぷりの茶葉とたっぷりのお湯、そうやって出来た紅茶と長い時間をかけてゆっくりと飲む。
それが私流、1日中紅茶と小説片手に過ごすことだって少なくはない。

「そういえば、さっきゴミを捨てに行ったらこんな物をいただきましたよ」

宇崎君が差し出した物は、どこかのお店の割引券だった。
見た感じ、お酒とかそういったものを主に扱っているお店に見えた、だって真ん中にバーテンダーが映っているもの。

「あ、ここって先月オープンしたお店だよね」

「知ってるの?」

「うん、大学でも結構話題に上ってたよ、お酒だけじゃなくて色んな飲み物あるんだって。
雰囲気が良くて、デートスポットにもなってるって話だったかな」

あご先に指を当て、視線を上にしながら思い出すように澄ちゃんが応えた。

「へえ、お酒だけじゃないんだ」

「そういうことなら折角割引券を貰ったんですから、皆で行きますか?」

「あ、それ良いかも、お酒飲みたいしー」

澄ちゃんまだ未成年でしょ、学校にばれたら退学だよ。

「私は遠慮しておくよ」

折角の誘いだけど、私はあまり気乗りしていなかった。
お酒が飲めないというのもあるけど、それ以上に、そこがデートスポットっていうことなら……

「2人で行ってきなよ」

私の返答に、澄ちゃんはえぇーっと声を漏らしたが、澄ちゃんの耳元でこんなことを呟いてあげた。

「ちょうど良い機会だよ、邪魔はしないから、がんばって」

「ばっ、何言うのよ……」

一瞬声を荒げそうになったけど、宇崎君の前だということでそのまま押さえ込んだみたい。
本当に、付き合う人が出来るとこんなにも変わっちゃうんだね……

付き合って二週間か、まだお互いのことをよくわかっていない状態だもんね。
流行のデートスポットにでも行ったら、少しは距離も近くなるかもしれないよ。

「宇崎君、浮気とかしちゃ駄目だよ」

「え?」

突然振られた話に、紅茶に口をつけていた宇崎君の手がぱったりと止まってしまった。

「あぁーもー、余計なこと言うなー!?」

「うわ! ちょっと、澄ちゃん、止めてよ」

澄ちゃんに押し倒された、顔を赤くして小さく腕を振るっている。
たはは、ちょっとお節介が過ぎたかな。

そんな私たちを見て、宇崎君は笑っていた。
私の視線に気付いた宇崎君は、軽く笑いながら小さく頷いてくれた、宇崎君ならきっと大丈夫だよね。

その後、澄ちゃんの機嫌が少し悪くなってしまったので、私はそれを戻すのに一苦労。
むくれた澄ちゃんなんて初めて見た、そんなに照れくさいのかな?

そういえば、私にもこんな頃があったんだな……

ぼんやりと浮かんだのはあいつの顔だった、机に立てかけられた写真立て、そこには私とあいつの写真が入っている。
あんまり学校で親しげにはしていなかったため、会うのはもっぱら街の図書館とか公園だった。
ツーショットは嫌だと言うあいつを説得して、なんとか1枚だけ取ることが出来た写真。

私は笑顔、あいつは……随分と無理してるのか、照れすぎじゃないって顔してた。

「あと1年、だったよね」

「うん、よく覚えてたね」

「そりゃーねえ、散々ハモちゃんの話されたから、嫌でも覚えてるよ」

軽く肩をすくめ、やれやれといった感じのポーズをとった。
今までは私が悩みを聞いてもらってばっかりいたけど、彼氏が出来たんだから今度は私が澄ちゃんの悩みを。
……ないない、澄ちゃんは絶対相談なんかしてこなそうだよね。

私たちのお喋りはその後も続き、気が付けばもう時計の針は6時をまわっていた。

「あ、もうこんな時間なんだ、そんじゃあそろそろおいとましよっか」

「そうですね」

澄ちゃんはカップに残った紅茶をクイっとあおり、宇崎君に眼で合図を送る。

「また暇があったら遊び来てね、あ、事前に連絡くらい入れてよ」

いきなりだったから三角巾したまんま、ちょっと恥ずかしい恰好を見られちゃったから。

「わかってるわかってる、そいじゃまた学校でねー」

「お邪魔しました」

手を振る澄ちゃんに私も手を振り返す、2人揃って部屋を出ていったけど、どのくらい進んでるんだろうな?
私の前ではしなかったけど、外に出たら腕ぐらい組んでたりするのかな?

私もやってみたかったけど、ハモンは1回もやってくれなかったっけ。

机の上の写真だけが、私の元に残っている唯一のハモンの姿。
この頃は長かった髪も、今はどうなってるんだろう? 短くなってるかな、それともさらに長くなってるかな?
あれこれ考えてみてもわかるはずないのに、どうしても考えてしまう。

「はぁ、一体いつまでこんなことで悩まないといけないんだろうな?」

私以外誰もいない部屋で、ポツリと呟いた弱気。
楓さんの言っていた通り、帰ってきてごめんなさいの一言もなかったら1発くらい殴ってやろう。

ハモンの写真に向かって、私は軽く指で弾いてやった、今はこれくらいしか出来ないからね。

……

翌日学校に行くと、澄ちゃんと宇崎君の微妙な距離がなんだかおかしかった。
今までは特にこれといって変には思わなかったけど、付き合っていると聞いてからはなんだか1つ1つが妙に感じる。
どこかぎこちないような、それでいて2人ともがんばっているような、見ていてとても微笑ましい。

特に昼食時は1番見ていて微笑ましかった。
今まではまず断ってからにしていたのに、無言で澄ちゃんと隣同士に座る宇崎君、なんだか澄ちゃんは照れくさそう。
しかも、2人して私にばっかり話しかけて来るんだもん、もっとお互いに喋らないと駄目だよ。
なんてご飯の後、澄ちゃんに言ったらまたも顔を赤くして私に飛び掛ってきた、澄ちゃんはやっぱり初心だ。

そんなこんながあって、気が付けばもう放課後、そして私の隣には澄ちゃんが居る。

「たくもう、ドタキャンなんて最悪ー」

なんでも、放課後2人で待ちに買い物でも行こうと宇崎君が提案したらしいが、急な用事で宇崎君が駄目になってしまったらしい。
そこで暇になってしまった澄ちゃんに私が捕まってしまったわけだ。
私に会うやいなや、澄ちゃんの口からは「すっぽかされたー」だの、「冷血漢ー」などの言葉が飛び出した。

「まあまあ、宇崎君だって急に用事が入るなんて思ってなかっただろうし。
今回は仕方ないんじゃないかな?」

「だけどさあ、あっちから誘っておいて急な用事が入ったからって私を蹴るかね?
私との約束を先につけたんだから、後に入ってきた用事を蹴る方が彼氏ってもんじゃないの」

「うぅーん、どうだろう……?」

なんとも返答に困ってしまう、確かに彼女側からすれば用事よりも自分を取ってほしいって思うだろうけど。
彼氏側からすれば、彼女との約束以上に重要な事だっていくつか考えられるわけで。

結局は宇崎君がどんな急用なのかわからないことにはどうも言えない。

「ムカつくー、こんな時は甘い物でも食べないと機嫌直らないよ」

「わかったよ、付き合えば良いんでしょう?」

「さっすが憐、話がわかる〜♪」

はぁ、わかりやすいほどに直球で誘うんだね……

いくつかの甘味のお店から選んだのは、姫恋歌というケーキ屋さん。
前に一度、澄ちゃんと2人で食べに来たことがあったっけ。

「んくんく……すいませーん、同じのもう1つお願いしまーす」

抹茶のケーキを早々と1つ平らげると、すぐにお代わりを注文した。
もしかして澄ちゃん、やけ食い? 止めようよー……

「あいつは本当に付き合ってるって自覚あるのか?」

愚痴まで混ざってきたよー、なんか澄ちゃん怖いよー……

「いつまでも根に持っちゃ宇崎君に悪いよ……あ、ねえ、昨日あれからあのお店行ったの?
確か……」

「リセット、でしょ」

「そうそうそれそれ、2人で行ったの?」

昨日からそれが1番気になっていた、少しは進展するかなーって思ってたけど、あの様子だと行ってないのかな。

「勿論、行ったよ」

あ、行ったんだ、よし、これで話の流れを変えられるぞ。

「どんな感じのお店だったの、やっぱりカップルとか多かった?」

「そこまで多くはなかったよ、まだまだ隠れ家って感じのほうが強かったかな。
あ、でもお店の雰囲気とか良かったよ、憐も来たら良かったのに」

「そうなんだ、それじゃあ今度行ってみようかな」

「パートナーが居ないんだったら、私が付き合ってあげるよ」

「ふふ、その時はお願します」

宇崎君に対する愚痴もなくなったことだし、良かった良かった。
だけどデートスポットって言われるくせに、お店の名前がリセットっていうのはどうだろう?
カップルが関係をリセットするみたいで、なんだか縁起悪いんじゃないのかな?

愚痴は確かになくなったんだけど、食欲は全くなくなっていなかった。
2つ目の抹茶ケーキを軽く平らげ、さらに追加でりんごのソルベを頼んだ。

「お腹、大丈夫?」

「大丈夫、そこまでやわなお腹じゃないって、それにこれくらい食べないとむしゃくしゃは消えないっての。
大体あいつはに女心って言うのが……」

なんだ、まだ宇崎君許してなかったんだ、というか話が元に戻っちゃったよぉ……

その後も澄ちゃんの愚痴は続き、私もそのたびに苦笑いをしたり宇崎君の弁解をしたり、もうくたくたです。
むしゃくしゃが収まるころには、もう辺りはすっかり夕暮れ空にまで変わっていた。

「あー、なんだかすっきりー」

ぐいーっと伸びをする澄ちゃんとは対照的に、私はなんだかどっと疲れたよ。
唯一の救いは、澄ちゃんが全部奢ってくれったてことかな。
だけど、今まで2人は全く逆の立場だった、いつも澄ちゃんにはこんなに疲れさせちゃってたんだね……

「そろそろ帰ろうか、駅まで送るよ」

「普通それは男の子の台詞だと思うんだけどね、女の子に女の子が送ってもらうのもなんか変な構図」

それはいえてる、普通は男の子が物騒なことに巻き込まれないように駅まで送るものだよね、ドラマとかでは。
私みたいな弱い女が一緒にいても、護衛も何もあったもんじゃない、というかは2人いるから不利だよ。

「変なやつに絡まれたら私に任せといてね」

グッと澄ちゃんが拳を握る、あれ、立場が逆転してるよね?
私が姫で、澄ちゃんが騎士? 送る方が騎士の役目をもらえるんじゃないのかな?
私みたいな弱い騎士、誰もいらないとは思うけどさ……

「……その時は、お願いするね」

さっきもほとんど同じような台詞を言った気がする、この2人の場合、澄ちゃんが男で出決まりみたい。
不意にもれた2人の笑み、縦横斜めに交差する信号を待っている間、私たちに間にはよくわからない笑いが続いていた。

私たちの進行方向の信号が青になり、待っていた人が一斉に流れ始める。
いつも思うけど、この街の人ってせかせかしすぎじゃないのかな、皆早いよ。
初めての人は、流れに巻き込まれて全く違う場所に行っちゃうなんてこともあるらしいし。
その点、一応私たちはもう慣れたもの、交差する人を交わしながら前へ前へ。

普段は交差する人の顔なんか見ないのに、今日は何気なく人の顔を目で追ってみた……

「え……」

私の横をするりとすり抜ける男性、少しブロンドの混じった髪に、しゅっと伸びた鼻、そしてあの長身。
ドクンと、心臓を何かで弾かれたような衝撃というのは、まさにこんな感じなんだろう。

今すれ違った人物、私はあの人の顔を知っている。
顔だけじゃない、他にも色々な事を知っている、だってあの人、あの人は……

「ハモン!」


……


賑やかな繁華街を抜け、地下へ伸びた階段をコツコツと降りていく。
レトロな電球が階段を照らしているため、歩き難さというものは感じられない。
階段を降りきったところで、これまたレトロ調の扉、扉には『preparations』という札がかけられている。
扉を開け放つと、カランカランと呼び鈴が控えめに客人の到来を告げた。

「お早うございます」

もう時間はとても「お早う」なんて時刻ではない、だけど、何故だか挨拶はこれで固定されている。
朝来ても「お早う」、昼に来ても「お早う」、夕方、そして夜も全く同じ。
日本の変な決まりの1つと言ってもいいのではないだろうか?

「お早う」

俺の言葉に、まるで違和感などない感じに、カウンター奥の人物は返してくれた。
まだ25歳という若さながら、この店のマスターを任されている人で、名前を前河さんという。
前河さんは俺の上司、ここは俺が厄介になっている仕事場だ。

「熱はもう下がったかい」

「はい、昨日休みをもらったので、もう大丈夫ですよ」

こっちに来てから久しぶりに風邪を引いてしまい、やむなく昨日は仕事を休ませてもらった。
この店は従業員全部で三名、俺と前河さんと、まだ来ていないけど久我瀬さんというのが居る。
マスターの前河さん、料理全般担当の久我瀬さん、そして雑務全般担当の俺。
これが1人でも欠けてしまうと、店は火の車状態になっちゃんうんだよな……

「それは良かった、結構結構、それじゃあ今日は昨日の分も働いてもらおうかな。
昨日は私も久我瀬君も、てんやわんやだったよ」

「すいません、まだ少し体が慣れなくて」

まだこっちに移ってほんの1ヶ月、上手く体内環境が整っていないようだ。
それに、あっちに比べると寒さがこたえる、毛布をもう1枚は買ったほうが良さそうかな。

「体調管理は仕事の基本だよ、今回のことで1つ学べたね」

「ですね、それじゃあ掃除始めますね」

「頼んだよ」

店の奥からモップを取り出し、店の隅から掃除を始めた。
俺が店を半分ほど掃除し終わった辺りで、店の呼び鈴がまたカラコロと音を立てた。

「うーっす、お早うさん」

金髪が印象的な細身のお兄さん、という感じのこの人がさっき話していた久我瀬さん。
手にはどこかの店の物と思われる紙袋、また行き当たりばったりで食材を買ってきたんだろう。

「お早うございます」

「お早う、やれやれ、また新作の試作ですか?
言っておきますが、ここは料理屋ではありませんから、あまり手の込んだ物はおけませんよ」

久我瀬さんの料理は結構請った物が多い、以前は試作で丸2日かけてコンソメスープを作ったらしい。
他にもうどんを作ったり、鳥の丸焼きを作ったりととにかく色々な物を作る。
しかし、この店の売り文句上、似合う料理と似合わない料理というものが出てくるのが当然である。
レトロ……バーと謳っている店に、うどんを出すのはどうだろう?

「信用ないねえ、こう見えても店に合う物をいろいろと考えてるですよ?」

「だったら、もう昨日みたいにおはぎを出すなんてことは言わないでくださいよ」

「お、おはぎ……?」

おはぎって言うと、ご飯の周りにあんこをくっつけたお菓子だよな?
まさか久我瀬さん、本気でこの店にあんなお菓子を出すつもりなんてないよな、ギャグですよね?

「あ、あれはちょうど俺が食べたかったわけで、あまりにも美味いからお客さんにも食べてもらおうと思っただけじゃないですか」

えぇー、本気だったんですか……?

「やれやれ……お、そういえばもう風邪は治ったん?」

「ええ、おかげさまで、昨日は大変だったそうですね」

「3人でやってる店に、1人でも欠員が出れば普通は閉めるもんだと思わん?」

まあ普通はそうだろうけど、前河さんが定休日でもないのに休むのが嫌らしく、人数が足りなくても店は開けてしまう。
例外として、前河さん自身が出てこれない時だけ休みになるらしい。
久我瀬さんの話では、一度たりともそんなことはないらしいが……

「軌道に乗るまでは1日も無駄には出来ません、2、3年して軌道に乗ったら休みも増やしますよ」

はは、随分と先の話ですね……その時期まで俺は残してもらえるんだろうか?

「久我瀬君もそろそろ料理の仕込みに取り掛かってください、最堂君も無駄話は程ほどに」

話ばかりで仕事がはかどらないので、前河さんに咎められてしまった。
グラスを磨いているその姿は、25歳にはとても見えない、どう見ても30後半だろう。

「へいへいっと」

厨房の奥へと消える久我瀬さん、俺も止まっていたモップがけを再開した。

店においてある柱時計がボーンと唸るような音を上げる、時刻は午後8時を指し示していた。
この店の営業時間は20時から始まり、翌日の4時までとなっている。
なんだか中途半端な時間に開いて閉まる店だという疑問は久我瀬さん曰くタブーらしい。

「そろそろ開けましょうか、最堂君、札をかけ代えてきてください」

「はい」

前河さんから「OPEN」の札を受け取り、入り口にかかっている「preparations」の札と差し替える。
本当は「preparations」も大文字の札が欲しかったらしいけど、これしかないから小文字で我慢しているらしい。
差し替えたことで店は開いたものの、この時間帯にお客さんが来ることはまずありえない。

大体人が入り始めるのは21時からゆっくりと上り始め、翌1時をもってピーク状態となる。
それなのに8時から店を開けるのは、店長である前河さんの気まぐれに他ならない。

「さてと、お客様が入り始めるまでに我々も食事にしますか」

この店が変わっているのは、店が始まったらまず従業員が食事を取るのである。
これも前河さんが決めたことなので、俺たちは特に何も言わない、変わっているとわかっていてもだ。

「久我瀬君、賄いはなんですか?」

「あんまり芸はないですけど、オリジナルのピザですよ、無論店のメニューとしての試作もかねてますから」

厨房から久我瀬さんが持ってきたのは、回りを四角くカットされた1口タイプのピザだった、この大きさなら、女性客も注文しやすいことだろう。

「説明云々は後にして、1番重要な味を見てくださいな」

「じゃあ、頂きます」

1口と謳っているだけあり、俺の口には楽々入る。
食べてみてびっくり、ピザの土台になっている生地、これはクラッカーか。
クラックーの上にソースを塗って、小さく切ったチーズを乗せてオーブンで焼いた物だろう。
なんて口で言うぶんには簡単だが、このソースは久我瀬さんのオリジナルソースの味だった。

「ご感想は?」

「美味いですね、いくらでもいけますよこれ、メニューにも使えるんじゃないですか?」

「ふむ、良いね、このサイズは女性客の受けも良いだろうし……早速明日からメニューに加えてみますか」

あっという間に新メニュー完成、味は勿論だけど、久我瀬さんの料理に対するひらめきはとても精度が高い。
こんな物を簡単に作ってしまう人が、とてもおはぎとか言うように思えないんだけどなぁ……

「もう1品、こんな物を作ってみました」

次に出されたのはオムレツだった、見た目は特に変わったところはないけど、明らかに違うことが1つ。
明らかに卵以外の芳香がする、この鼻にすうっと抜ける香り、きっとなにかハーブの類だろう。

「ハーブ入りオムレツですか、使った葉っぱはなんですか?」

「バジルとエストラゴン、後はタイムが少し、食べてみ」

久我瀬さんに促され、オムレツを1口頂いてみる。
普通のオムレツのように最初は卵の味、そしてその後にやんわりと香草の香りが抜けていく、当然文句なしに美味かった。

「美味かろう?」

「聞く必要ないんじゃないですか?」

「当然、俺が作る料理にまずいなんてありえないのだよ」

もの凄い自信、自分の舌と腕、そして感性によほど自信があるのだろう。
ここまで自信たっぷりだと、いやみどころか尊敬の視線しか生まれてはこない。

「ハーブは今どのくらいの量がありますか?」

「このオムレツを作るとしたら、ざっと20人前くらいはあるかね」

「では今日からメニュー入り決定ですね、最堂君も覚えておいてください。
お客様が注文する際、一言新メニューがありますがいかがですか? と添えてください」

わあ、商売上手ですね、人は新メニューとか新商品って言葉にとっても弱いんですよ。

カランコロン

お客様の来店を継げる鐘が店内に鳴り響く、どうやら食事の時間はもう終わりのようだ。
最初のお客様は若い男女のカップル、女性の方が少しだけ年下かな。
カウンター席とテーブル席どちらが良いですかと訊ねると、男性は緊張した面持ちでカウンター席を指定した。
もしかするとこの2人、今日が初デートなのかもしれない。

「いらっしゃいませ、ようこそ」

緊張した2人を和ませるように、前河さんがカップルに向かって微笑を投げかける。
あの人の微笑はその道でも通用しそうな、というかホストじゃないのかと疑いたくなるほどにきまってるんだよな。
前河さんの微笑に、少しだけカップルの肩の力が抜けたような感じがした。

「最堂君、メニューを」

「はい、ただいま」

……

「ありがとうございました、またのお越しを」

前河さんが丁寧にお辞儀をし、お客様を見送る。
今のお客様もカップル、見渡したところもうカップルのお客様は残っていなかった。
カウンター席で前河さんと親しげに話す中年男性と、店の隅でゆっくりと酒を楽しんでいる人が両サイドに1人ずつ。

柱時計がボーンと1つ鳴り、現時刻が1時であることを知らせる。

「もう1時ですか、最堂君、そろそろ準備をお願いします」

「はい、ちょっと失礼します」

店の奥に引っ込み、いそいそと準備に取り掛かった。

「どれどれ、俺も拝聴させてもらおうか」

厨房から久我瀬さんが抜け、あまり客からは目立たない所に腰を下ろす。
この店では毎回この時間帯になると、1つ余興じみたことが行われる。
もっとも、それをやるのは俺なんだけど……

「準備はよろしいですか?」

「いつでも」

「そうですか、それではどうぞ」

前河さんが軽く手を店の一角に向ける、そこには軽いひな壇と、そこだけを照らし出す単独照明が設置されている。
小さなステージ、そんな表現がピタリとはまるそんな一角だった。

「本日も、当店自慢のヴァイオリニスト、最堂セラの演奏をごゆっくりお楽しみください」

軽いあおり文句の後、俺はゆっくりとステージに立ち、ヴァイオリンを構える。
弓をヴァイオリンの弦に添え、ゆっくりと弓を弾き始めた。

バックミュージックなど何もかけないこの店も、1時になると俺のヴァイオリンの音が響きだす。
最初はほんの冗談のつもりで1回弾いただけなのに、それ以来前河さんに頼まれて毎日弾き続けている。
結構評判が良いらしく、ヴァイオリン目当てで来る客も少なくないとか……本当かどうかはわからないが。

そうこうしているうちに1曲目の曲が終わり、客席に向かって1つお辞儀をした。
素早くヴァイオリンを構えなおし、2曲目の曲を弾き始める。

毎回全部で7〜9曲、曲によって様々だけど、大体終るころには1時間近い時間が過ぎている。
そして不思議なことに、ヴァイオリンを弾き始めるとお客の入りが多くなる。
俺のヴァイオリンはハーメルンの笛と同じ働きでもしているのだろうか、と否定的に考えてしまうくらい不思議だ。
まあ、俺のヴァイオリン程度で操られる人はまず居ないだろうけど。

俺には不思議にしか思えないが、前河さんはそんな不思議よりもお客が増えて純粋に喜んでいるみたい。
こうやって俺が弾いているうちにも、カップルのお客が2組来店してきた。

……本当に、どうなってるんだろうね?

最後の曲、最近はやりのゲーム音楽の楽譜を久我瀬さんに貰ったので、それを弾いてみた。
なんともローテンポ、前に弾いていた曲がハイテンポだったためか余計に遅く感じざるを得ない。
しかし、とてもしっとりとして、最後を締める曲としてはもってこいな感じだ。

最後の小節を弾き終え、音がじんわりと店の中に消え去っていく。
全てを弾き終えた俺がお辞儀をすると、客席からパチパチと拍手の音、この拍手がなんとも心地良い。

「ご苦労様、今日も良かったですよ」

「いつ弾いても緊張しますね」

「それはヴァイオリンだけではありませんよ、お酒をお出しする私も、料理をお出しする久我瀬君も。
誰1人として緊張を覚えない人なんて居ませんよ」

へえ、前河さんでも緊張することがあるんだ、久我瀬さんはちょっと考えられないけど。
ヴァイオリンのケースにしまい、再び仕事に戻ろうとすると、前河さんからグラスを渡された。

「どうぞ」

「……これは?」

「こちらのお客様から、君の演奏に対する見物両らしいですよ」

前河さんの前に座る、眼鏡の似合う中年男性が軽く手を上げて答えてくれる。
ギターを弾いて酒を貰う場面を海外映画ではよく見るけど、まさか俺自身そんな体験をしてしまうとはな。

「楽しませてもらったよ、私の奢りだ」

ニコッと笑った顔がなんとも親しみやすい、笑顔が良い人は出世が早いって聞くけど、この人もそんな風に感じられる。
奢ってもらったのは嬉しいけど、これカクテルだよな……

「前河さん、俺酒は……」

「ご安心ください、それはシンデレラといって、オレンジ、レモン、パイナップルのジュースを混ぜて作ってあります。
いわゆるノンアルコールカクテルです、いくら飲んでも酔いはしませんよ」

鼻を近づけると、確かにフルーツジュースの香りがする。
だけど複雑に混ざり合っているせいか、オレンジの香りともレモンの香りともパイナップルの香りとも言えない。
全く別の、シンデレラの香り、とでも言うしかなさそうだ。

1口飲んでみるも、アルコール特有の頭に沁みるような感じはまったくない、フルーツの味だけ。
しかもこれ結構俺好みの味だ、一気に飲み干し、奢ってくれたお客様にお辞儀を1つ。

「ごちそうさまでした」

「いやいや、また楽しませてくれよ、マスター、私にはマンハッタンを」

「かしこまりました」

注文を受けた前河さんは、棚から使う酒を準備し始める。
だけど、俺のヴァイオリンを楽しんでくれる人って本当に居るんだな、ちょっと嬉しいかも。

「ありがとうございました、またのお越しを」

最後のお客様にも、お馴染みの言葉とお辞儀でお見送り。
時間はもう4時5分前、閉店時間だ。

「さて、今日はこれでお終いにしますか、最堂君お願いします」

今度は「CLOSE」の札を受け取り、入り口の札とかけ代える。
そこからは皆総出でお掃除、俺が客席で前河さんがカウンター付近、そして何故か久我瀬さんは掃除がいつも終っている。
きっと就業時間中にさっさと掃除を済ませているんだ、ちょっとずるい。

そんな久我瀬さんは店の売上管理の仕事を任される、金勘定が何よりも好きとか自分で言っていた。
その言葉に嘘はなさそう、だってあのお札の数え方、まるで銀行員か何かだよ。

「儲けは出ていますか?」

「当然、まだ三桁には乗りませんがね」

「この時間帯でやるんですから三桁は無理というものですよ、1回1本たつまでやってみましょうか?」

「ははは、それは我々が倒れるまで働いても不可能ですよ」

三桁とか1本とか、業界用語みたいなのが飛び交ってるけど、何1つわからないよ。
久我瀬さんが勘定を全て終え、明日のお金の準備も全て終えた頃、こっちも掃除を終わらせた。

「ご苦労様です、お疲れ様」

「お疲れ様でした」

「お疲れー」

三者三様の就業の挨拶を交わし、本日のお仕事は終わりだ。
3人揃って店を出ると、外はまだ暗がりの方が強く残った、夜と表現するのが好ましい状態だった。

「まだ暗いですね、このまま飲みにでも出ますか?」

そんな提案をしたのは前河さん、いやいや、いくらなんでもこの時間から飲みに行くのはちょっと。

「良いですね、付き合いますよ」

と俺が思ったのに、久我瀬さんは凄いノリノリだった、この2人は……

「俺は遠慮しておきます、アパートで寝ますよ」

俺はちゃんと帰ります、今から飲みに行ったら一体何時に終るんですか?
それ以前に、こんな時間からやってる飲み屋ってあるんですか?

「つれないなー、たまには朝酒も良いもんだぞ?」

「二日酔いで仕事するわけにはいきませんから、あ、そうだ、前河さん」

「なんですか?」

「この街に公園ってどこがあるかわかりますか?」

「公園、ですか……?」

視線を上に向け、うんうんと考えをまとめている。
俺の本当の目的はこれだ、仕事をして日本で暮らすことが目的ではない。
確かめたいんだ、あの手帳に書いてあったのがどういうことで、そして、俺の過去を……

「紙とペンでもあればわかりやすいんですけど」

「これ使ってください」

「お、準備が良いですね……現在地をここだとしてですね……」

……

「前河さん教えてもらったとおりだと、この辺りにまずあるんだけど……」

なんて考えながら辺りを見渡してみると、視界に鉄棒を組み合わせたジャングルジムが目に入った。
住宅街ではあんなもの公園以外置いてある可能性はない、あれは間違いなく公園だ。

少し急ぎ足でそこに近づいてみる、そこはやっぱり公園だった。
周りは見渡しやすく、背の高い木々は一切ない、とても防犯度の高いつくりになっていた。

中央には何かドーム上の遊具、近くにジャングルジムと、シーソーの類が設置されている。

「ここ、なのかな……」

公園内に1歩踏み込み、ゆっくり公園の中をまわってみる。
ぐるりと1周、折角なのでもう1周まわり、誰も使用者の居ないブランコへと腰を下ろした。
子供用に設計してあるらしく、あまりの板の低さに少々驚いてしまった。

「……」

果たして俺の手帳に書いてあった公園とはここのことなんだろうか?
ここだと言われればここのような気もするし、ここじゃないと言われればここではないような気もする。
ここだと断定する根拠は何もないが、ここではないと断定する根拠もまた存在しない。

結局の所、ここの可能性もある、ぐらいにしか言うことは出来なかった。

「先はまだまだ長そうだな……」

視線を向けた先は空、そこにはやっと夜の帳を抜け、支配権を獲得したぼやけた雲とぼやけた蒼空が広がり始めていた。





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