【Waltz『Le ciel』】
ゆっくりとした足取りで、それでも確実に一歩ずつ男性との距離を詰めていく。
剣を握る手にも力が入る、それなのにほとんど握っている感覚など感じない。
それどころか、剣が持つ重さそのものがまるで感じられなくなっていた。
【モニカ】
「刀……満……」
【刀満】
「もう少し、辛抱しててくれ」
モニカの声は消え入りそうになっていたが、ちゃんと俺の耳には届いてきた。
【男性】
「君は……普通の人間ではないのか?」
【刀満】
「俺は普通の人間だよ……ここ一週間くらいで、一歩踏み込んだだけさ」
【男性】
「ではなぜ、私の結界内で力を行使出来る?
この女でさえ奇しの力を使えないでいる中で、普通の人間であるはずの君がどうして」
【刀満】
「さあね……」
【男性】
「くっ、それ以上近づくな。 でなければ、君を殺してでも止めなければならない」
【刀満】
「モニカを殺そうって云うのなら、俺はあんたを殺してでも阻止してみせる。
それが嫌ならモニカを離すか、俺と戦ってくれ」
【男性】
「ぐっ……」
男性に焦りの表情が見えてきた。
それと反対に俺は怖いくらいに落ち着き、心臓の鼓動もゆっくりとした普段のリズムになっていた。
【男性】
「止むを得ん、ならばその四肢を動かなくさせるまで!」
手早く投げつけられた針が一直線に俺の両脚目掛けて飛んできた。
さっきまでほとんど確認も出来なかったその針が、今ではしっかりと見えていた。
そして俺は、これを剣を薙ぎ払うだけで全て受けきることが出来ることもわかっていた……
【刀満】
「ふっ!」
下から薙ぎ上げた剣に、針は弾き飛ばされた。
【男性】
「莫迦な!? 先ほどまでは捉えられてもいなかったものが、どうして今になって!」
【刀満】
「もう一度云わせてもらうよ、モニカから離れろ」
【男性】
「……君は、自分の命が惜しくないのか?
私はこの女を始末出来ればそれで十分、君に危害を加えようという気など一切ないというのに」
【刀満】
「だから、それが気に入らないって云ってるんだ!!」
【男性】
「なるほど、そこまでこの女に肩入れするか。
ではもう何を云っても仕方がないな……君もこの女と同じように、私が始末する!」
俺を正面に見据えて対峙し、お互いに一定の距離をとってぴたりとも動かなくなる。
【男性】
「どうした、こないのか?」
【刀満】
「行って欲しいのなら、行ってやるよ!」
モニカとは比べ物にはならないだろうが、俺自身が出せる全力の速さで男性との距離を詰めた。
【男性】
「甘い、甘いな君は! 私とこの女の中に何を見ていた!
君の影も、貫いてしまえばどうすることも出来なくなることを忘れたか!」
男性はその選択が至極当然といった感じで俺の影目掛けて針を投げつけた。
しかし、当然ながら今の俺にはそれさえも読めていた。
【刀満】
「こうすれば、どうだい!」
光を放っていた剣を眼の前の地面に突き刺した。
月明かりが照らしていた背の光源は、前に突き刺した剣の光源に負けてしまった。
【男性】
「何!!」
男性の方へ向かって伸びていた影は、真逆の光源に当てられて
俺の体中心にほんの少し出来るだけだった。
当然それでは針が影を貫くことは出来ず、何もない地面に突き刺さるだけだった。
【男性】
「この一瞬でそんな芸当を、はっ!!」
男性が気づいたときにはもう遅い、もう俺と男性の距離は眼と鼻の先まで近づいていた。
地面に突き刺していた剣を呼び戻し、射程内に入った男性目掛けて、一撃を加えた……
ドフ!
【男性】
「がっ、あ、はぁ……」
男性の腹部に剣の柄がめり込んだ。
最後にダメ押し、全体重をかけてその柄を上に向けて抉り込ませた。
男性の体が持ち上がる感触、それと同時に訪れたのは男性の全体重だった。
落ちた、そう悟るのはたやすいこと。
【刀満】
「モニカ!!」
急いでモニカに駆け寄り、頭からつま先まで一度全てに眼を配って大きな怪我がないかを確認した。
【刀満】
「どこか致命傷になるような傷負ってたりしないよな?」
【モニカ】
「あぁ、それは、大丈夫だ……」
【刀満】
「良かった……動くなよ、すぐ全部外してやるから」
モニカを磔にしていた針を抜き去ってやると、腕を押さえてはいるものの
ちゃんと自分の脚で立つことはできるようだった。
【刀満】
「ふぅ……なんとかなったな、助けられて良かったよ」
【モニカ】
「莫迦者、自分の命が危ないようなら私なんて見捨てろ。
私には刀満を守る義理があるが、刀満に私を守る義理もなければ当然義務もないのだから」
【刀満】
「昔ならそうも云えたかもな、だけど今はそうも云えないんだよ。
俺にも義理が出来たってところだろ」
【モニカ】
「ほう、刀満が私にか? どんな義理が出来たというんだ?」
【刀満】
「モニカくらいだからな、俺の作った飯味わってくれるのはさ」
【モニカ】
「は……?」
モニカは眼を丸くし、頭の上にクエスチョンマークがぴったりというような顔をしていた。
【モニカ】
「まったく、お前というやつはよくわからんよ」
【刀満】
「ありがとよ」
【モニカ】
「まったくもって褒めてないんだがな」
【刀満】
「知ってる」
いつものやり取り、さっきまで二人とも死の近くにいたことなどまるで感じさせない雰囲気だった。
【モニカ】
「さてと……」
脚を怪我してはいるものの、モニカの足取りはしっかりとしていた。
途中でよろめく事もなく、いまだ倒れたままでいる男性のそばへと歩み寄る。
【刀満】
「その、なんだ……仕留めるの、か?」
【モニカ】
「刀満が殺さなかったのに私が殺せると思うか?
さっき刀満はこいつを確実に殺すことが出来た、それをしなかったということはそういうことなんだろ?」
【刀満】
「……この人のこと、どう思う?」
【モニカ】
「直接本人に問いただしてみるしかないだろうさ。
こいつが何者なのか、それとなぜ私を殺そうとしたのかもな」
【男性】
「ぐっ、ん、ぅう……」
意識の戻った男性は立ち上がろうと脚に力を込めるがすぐに脚が折れ
今度は仰向けに大の字の形で倒れこんだ。
【男性】
「はぁ、はぁ……私は、生きているのか」
【モニカ】
「刀満はお前を生かす選択も殺す選択も取れた。
そんな中で前者を選んだんだ、刀満に感謝することだな」
【男性】
「どうして私を殺さなかった、情けのつもりか?」
【刀満】
「そんなんじゃないさ、生憎俺はそういった面がまだまだあまちゃんなんだよ」
【モニカ】
「それこそが、刀満の良さでもあるのだがな」
【男性】
「……じゃあお前で良い、私を殺せ。
私に殺されかけたんだ、私を殺さなければ腹の虫も収まらんだろう」
【モニカ】
「遠慮するよ、私の世界にも騎士道精神というものがある。
勝利した戦いで、相手の命を取らないのなら、無益な血を流してはいけないからな」
【男性】
「ふん、そうかい……私に一生この屈辱と共に生きていけということか」
【モニカ】
「つまりはそういうことさ、だが屈辱は己を強くする。
それを励みにまた腕を磨けば良いだけさ」
【男性】
「人生最大の汚点だ……まさか巷で話題の殺人鬼が、人間と手を組んでいたとは
さすがにそこまでの予想は出来なかった。
しかもその殺人鬼に命を生き長らえさせられるとは……」
【モニカ】
「まさか、お前はあの犯人を私だとでも云いたいんじゃないだろうな?
それならば完全な人違いだ、犯人は別にいる、それももう特定も出来ている」
【男性】
「何? そいつは誰だ、それは確かな情報なのか?」
痛むであろう腹部を押さえながらよろめきながらも男性は立ち上がった。
【モニカ】
「教えんこともないが、その前にお前にもいくつか答えてもらおうか。
まず、何で私を襲った? 私が犯人だと思った、でも納得はいくが本当にそれだけか?」
【男性】
「それは本当だ、ここ最近の事件は全て人の力ではない力がはたらいている。
そんな中で出会ったのがお前だ、奇しの力を持つ者を犯人と疑うのは当然だろう?」
【モニカ】
「待て、どうしてお前には今までの事件が人以外の力だと断定出来る?」
【男性】
「云っただろう、私の血筋が成せる業だ。
私の家系は代々道術を扱うことが出来た、その血筋に産まれた私にはそういった力が宿っているのさ。
その力を使うことで、蜘蛛の巣状に張った事件情報の部分部分を垣間見ることが出来るんだ」
男性は懐から戦いの最中に投げつけていた針と、昼間にも見た人形を取り出した。
【男性】
「これらも道術で操り、力を与えることが出来る。
君に破られてしまったが、ここ一帯を覆っていた結界も要所要所に禁譜を書いた札を
針で貫い付けて作ったもの、効果のほどは察しの通りだ」
【モニカ】
「なるほどな、ならば私が人間でないことにすぐ気付いたのにも納得だ。
もっとも、私はこの世界の人間ではないだけでれっきとした人間なのだがな」
【男性】
「自分が存在する世界以外には存在しない、それが世間の当然だからな。
仮に別の世界があったとしても、それを自分の眼で見て体験出来なければ無いも同じこと。
だからこそ、お前の存在は人間でありながら人間ではない存在になるということか」
【モニカ】
「理解力は優れているようだな、それじゃあ次の質問だ。
お前が何をしていたのか、何をしに来たのか。 具体的に答えてもらおうか」
【男性】
「人ならず者の始末、それだけだ」
【モニカ】
「では最後の質問……なぜそこまで、それに固執する?」
男性が一度視線を外した、きっとあまり触れられたいことではないのだろう。
【刀満】
「モニカ、誰だって云いたくないことの一つや二つあるもんだろ」
【モニカ】
「確かに、答えたくないのならばそれも結構。
それは私も無理に聞きたいことではないからな」
【男性】
「……復讐のため、だろうな」
男性はポツリと呟いた。
それがどういうことなのか、どういう経緯があったのか、俺もモニカもそれを聞こうとはしなかった。
【男性】
「私の質問にも、答えてもらえるんだろうな?」
【モニカ】
「あぁ、私が答えられることならな」
……
【男性】
「すると、その魔族とやらが今回の事件を引き起こしていると?」
【モニカ】
「間違いないだろう、他にも直接ではないにしろやつ等が絡んだ事件もある。
そっちは私の方でかたを付けられたがな」
【男性】
「面倒な奴等がいるようだな、そいつ等が人外であるのならば
私の目的にも合致してしまう」
【モニカ】
「なんだ、協力でもしてくれると云うのか?」
【男性】
「協力ではない、共闘だ。
利害が一致しているだけ、その方が面倒もなく互いに楽だろう?」
【モニカ】
「どこがどう違うのか細かいことはわからんが、味方は一人でも多い方が良い。
やつ等は三人といえどどれも一筋縄で行くような奴等ではないからな」
【男性】
「で、共闘するからには多少の連絡手段が必要になる。
あいにく私は携帯を持っていない、急ぎの用件は対処出来ないが
しばらく昼間はこの近辺にいる、道化の皮を被ってな」
あえて印象が悪いように云ってみせた、そういったところもなんとなくこの人らしい。
【モニカ】
「そういえば、まだお前の名前を聞いていなかったな。 名前、なんなんだ?」
【天空】
「『天空』、本当の名前ではないが、その名前はもう何年も前に失った……
こういった職業柄、本名を名乗ることも少ないんだ、これで勘弁願えるか?」
【モニカ】
「通じればそれで良いさ、私はモニカ、長くなるからそれだけ覚えておけば良い」
【刀満】
「芦屋刀満です」
【天空】
「覚えておこう。
くっ、悪いが今日はこれで失礼させてもらおうか……この傷も、早く完治させねばならんのでな」
俺が打ち込んだ腹部を擦り、天空さんはゆっくりと歩き出した。
【天空】
「おっと、そうだった。 ほら、これを使え」
【モニカ】
「これは?」
【天空】
「私が調合した軟膏だ、付ければ傷の直りが早くなるはずだ。
もっとも、私が本心では嘘を付いて毒を渡している可能性もなくはないがな」
【モニカ】
「まったく、少しでも憎まれなければ気が済まんのか?」
【天空】
「憎まれるのも私の仕事のうちなのさ……」
今度こそ男性は振り返ることもなく、公園を抜けて静まり返る街の影へと消えていった。
【モニカ】
「変わった男だ、どうして私の周りにいる男はこうも変わり者ばかりなんだろうな?」
【刀満】
「……俺にどう返して欲しいんだよ?」
【モニカ】
「いやなに、云ってみただけさ。
さあ、私たちも今日は終わりにしようか、体の節々も痛いしな」
……
【モニカ】
「まったく、勘違いでこんなめに合うとはな」
風呂から上がったモニカは首をコキコキと捻り、腕をクロスさせて軽いストレッチをした。
【モニカ】
「あっ……」
【刀満】
「あんま身体動かすなって、傷が広がるぞ」
【モニカ】
「確かにな……おっと、刀満ちょっと頼まれてくれ」
何を頼むのだろうかと考えていると、モニカがもそもそと服を脱ぎだした。
【刀満】
「ちょ、何脱いでんだ!」
【モニカ】
「脱がなきゃ薬を付け辛いだろう?
私じゃ見えないんだ、刀満が付けてくれ」
【刀満】
「ぁ、あぁ、天空さんの薬か」
最近は云い聞かせておいたので、俺の前で脱ぎだすことはなくなったが
どうやらこいつに羞恥心を教え込むのは無理そうだな……
【刀満】
「で、どこだよ?」
【モニカ】
「背と、胸の下だ」
よりによってなんでそこなの……
【モニカ】
「ほら早く付けてくれ」
俺に背を向けると、モニカの白い肌が露になった。
不可抗力でもう何度も見ているが、こんな近くで見るのは初めてだ。
なるべく視線を集中させないように指で掬った薬をモニカの傷へと塗り付ける。
【モニカ】
「つぅっ……一体どんな配合をしたんだあいつは」
【刀満】
「薬ってのは基本痛いもんだろ。
というか、胸の下くらい自分で塗れよ」
【モニカ】
「ここで裸になって良いのなら自分でするが?」
【刀満】
「それは駄目」
【モニカ】
「だろう? だが、いい加減この程度慣れたらどうだ?
私がどうも思ってない以上、刀満が悩む必要などないと思うがな」
【刀満】
「男っていうのはそういうものなの……
わかってると思うけど、上げすぎるなよ」
もう一度薬を掬い、視線を僅かに横にそらしながらモニカの傷へ……
【法子】
「こぉーーらぁあーー!! 何堂々とモニカちゃん襲ってるのあんたは!」
【刀満】
「人聞きの悪いこと云うな! 俺は頼まれてやってるだけだ。
って、姉さん酒臭! すぐへべれけになるんだから飲むなって云ってんだろ!」
【法子】
「ごちゃごちゃうるさい、襲ってくれって頼む女がどこにいるのよ、変態刀満に天誅!!」
ゴギ!! ガシャーン!……
【モニカ】
「……仲が良いことで」
……
【千夜】
「で、そんな朝からそんな顔してるわけだ、法子さんは?」
【刀満】
「二日酔い……昨日俺に何したのかも覚えてなかった」
【モニカ】
「気分が良くなり次第、私の方から説明しておくさ」
と、朝はこんな感じで和やかに進んでいる。
時折訪れる生死をかけた次の日が、こんなにも穏やかだと
昨日のことは夢だったんじゃないかとさえ思えてしまう。
【千夜】
「だけどその天空って人、凄いね」
【モニカ】
「人にして、人が本来持ちえない力を得ているのだからな。
血の成せる業と云っていたが、この世界にもそんなことがあるのか?」
【刀満】
「無いだろうな、血の成せる業なんて云ったら俺たちにも当てはまるし」
【モニカ】
「刀満たちにも?」
【千夜】
「私たちの先祖を辿っていくと、高名な陰陽師にぶつかっちゃうんだよね。
だけど私たちには特別な力なんて無いよね?」
【刀満】
「俺には何もないだろうけど、千夜には橘禰さんが云ってたのがあっただろ。
そう考えると、千夜には何か天空さんみたいな力があるのかもな」
【千夜】
「無い無い、そんなのあったら橘禰から一言何かあるでしょ」
【モニカ】
「あの狐が隠している可能性も無いではないがな。
なんにせよ、戦力が増えることはプラス要素だ、あの男も決して十把一絡げの人間ではないのだから」
【刀満】
「ところで、橘禰さんのこと天空さんに云わなくて良かったのかよ。
あの人だって妖怪、人外を敵視してる天空さんに会うと拙いんじゃないか?」
【モニカ】
「その点はまあ大丈夫だろう、あいつもあれで頭の回転は速い。
上手く切り抜けて自らの立場を説明するだろう、ダメだったら、その時教えれば良い」
いや、それは結局のとこダメだろ。
【モニカ】
「なんてな、私から伝えておくさ。
あいつがどんな情報をどの程度持っているのか、それにも興味があるからな。
確か、あの公園に昼はいると云っていたよな?」
【刀満】
「あぁ、昼間はしばらくあそこだろう。
わかってると思うけど、くれぐれも白昼堂々と剣振り回すなよ」
【モニカ】
「何も無いのにそんなことはしないさ」
【千夜】
「あ、そうそう、二人とも今夜はちゃんと家にいてよね」
【刀満】
「何か用でもあるのかよ?」
【千夜】
「法子さんの帰省パーティーだよ、法子さんもあんまり長くこっちにいれないでしょ。
やれることはやれるうちにやっておかないと、出来なくなってからじゃ遅いんだから」
【刀満】
「なるほどな、じゃあ後でモニカから伝えておいてもらえるか?
今起こしに行くと二日酔いで何されるかわからないし」
【モニカ】
「わかった、その旨後で姉君に伝えておけば良いんだな」
さすがに昼過ぎれば落ち着いてくるだろう。
モニカなら頼んだことは忘れないでやってくれるし、これでひとまずは良しかな。
【刀満】
「そろそろ俺たち行くわ、家出るときは戸締り確認、昼飯もちゃんと食うんだぞ」
【モニカ】
「まるで母親だな」
【千夜】
「もう立派な主婦だね」
【刀満】
「からかうなよ、んじゃ行ってきます」
【千夜】
「行ってきま〜す♪」
……
【モニカ】
「気を付けてな」
家を出る二人の背に向かってそんな言葉を投げかけた。
【モニカ】
「ふぅ、今日は週初め、また一人の時間になってしまったか……」
土曜日曜は刀満もいたのでそれ相応に賑やかだったのだが、やはり誰もいなくなると驚くほどに静かだ。
国にいたころは、こんな静寂は睡眠をとる時以外には訪れなかったのに
この世界に来てからは静寂を嫌というほど感じてしまっている。
【モニカ】
「静寂が、こんなにも不安にさせるとはな……」
それだけ自分のいる場所が、静寂などとは無縁の場所なのだろうと再認識させる。
死線の中、気を抜けば命を落としかけない危険な場所。
そんな場所だというのに、私には恐れもなければ不安もなかった。
不安を感じてはならない、その隙が自分の命を落とす要因だと知っていたからだ。
しかし、静寂はどうすれば消えるのだろうか?
私が何かをすれば消えるのだろうか? いや、きっと消えないだろう。
静寂は一人で消すことは絶対に出来ず、複数の間では絶対に生じない。
自分一人だけが感じることの出来る一種の恐怖なのだ。
【モニカ】
「……私も、変わったな。
……少し眠ろう、昼からで十分だろう」
気持ちが不安定な時は寝てしまうのが一番良い。
私が向こうにいた時からやっていた一番手っ取り早い気持ちの切り替え方法。
しかし、これにはひとつだけ欠点があった。
それは……
〜 N E X T 〜
〜 B A C K 〜
〜 T O P 〜