【Waltz『Needle doll』】


モニカの指示を受け、後ろを振り返ることなく広いところを目指す。

【モニカ】
「刀満、この近辺で一番広いのはどこだ?
云っておくが、今まで交えた場所は避けろ、余計な被害など出したくない」

【刀満】
「今まで行ってない所となると……」

思考をめぐらし、今まで行っていないところで広い場所を思い浮かべる。
その中でも一番近いところとなると……

【刀満】
「姉さんと行った公園か……こっちだ!」

また公園だ、この街には無駄に公園が多い気がする。

モニカにとってみれば、それだけ戦える場所があって良いと思っているかもしれないけど
激戦区が増える必要なんてないよ……

……

公園につき、まずすることは四方八方全てに眼が配れる中央付近に陣取ること。
いち早く陣取ったモニカの背中合わせになる形で俺も位置に付く。

【モニカ】
「四、五……ちっ、途中で増えたか」

【刀満】
「みたいだな、こっちにも三体だ」

四方が開けているということは、それだけ進入経路も多いということだ。
俺達についてきたのが七体、反対側から呼び寄せられたのが三体の計十体。

【刀満】
「大所帯だな」

【モニカ】
「の、ようだな。 だが、今の私たちには、物の数ではない!」

剣を呼び出し、モニカは人型めがけて走り出した。

【モニカ】
「刀満! そっちはお前の担当分だ、まかせたぞ!」

【刀満】
「わかったよ!」

俺も自分の剣を呼び出し、モニカに一歩遅れて駆け出した。

【モニカ】
「はあぁ!」

【刀満】
「ふっ!」

案の定モニカは早々に七体全てを切り伏せる。
まだまだおぼつかないながらも、俺の担当分三体もなんとか切り払うことが出来た。

しかし、人型といえど肉を切る感触はほとんど同じ……
これに慣れることが、良いことなのかそれとも悪いことなのだろうか?

【モニカ】
「……もういないな」

【刀満】
「みたいだな」

辺りから人型の気配が消える、それを確認してから二人とも剣を還す。

【モニカ】
「ふぅ……確実に、強くなってきているな」

【刀満】
「そうか?」

【モニカ】
「成長は自分では気づきにくいものさ、ほんの数日前に剣を手にした人間とは思えない」

【刀満】
「それだけ俺がくぐってきた場面場が悪かったんだろ。
入瀬とのあの夜がさ……」

【モニカ】
「あいつの願い、叶えてやることは出来そうか?」

【刀満】
「さてな、出来るかどうかなんて、達成したときに初めてわかるもんだろ。
だから俺にとっては『出来る』じゃな『出来た』なんだよ」

【モニカ】
「それでもかまわんさ、あいつの願いのために刀満がやられてしまっては何の意味もないからな。
さて、無駄話はこれくらいにして見回りの続きを……ん?」

【刀満】
「どうかしたか?」

【モニカ】
「刀満……あれ、何かおかしくないか」

モニカが俺の肩越しに顎で何かを知らせた。

振り返った瞬間、一体何がおかしいのか気づくことが出来なかった。
それもそのはず、異変はごくごく小さく俺の視界に入っていなかった。

視線を僅かに落とし、ようやく確認出来た異変、それは。

【刀満】
「人形?」

【モニカ】
「だろうな、だがあの人形、動いているぞ」

人形はゆっくりと俺達の方へと近づいてきていた。

金髪を意識したのであろう黄色の髪、上下が一体となっ水色のたワンピース
明るい陽の下ならきっと可愛らしい人形は、月の光の下では妖しく異彩を放っていた。

しかもあの人形、ごくごく最近俺は同じものを見ていた。

【人形】
「……」

人形は俺達と三メートルほどの距離までくると歩みを止め
軽く頭を左右に揺らした、そして。

【人形】
「みつ、けた♪」

【刀満】
「!」

【モニカ】
「何っ!」

喋った。
可愛らしい女の子の姿をした人形は、その姿にしっくりくる可愛らしい声で言葉を喋った。

すると人形はくるりと方向を変え、タトタトといった効果音がぴったりくるように走り出してしまった。

【モニカ】
「あ、待て!」

人形が走り去った方へモニカも駆け出した、一拍遅れて俺もモニカに続く。

人形の進路が左に折れる、俺達も人形に続いて左へ曲がるのだが
俺達は足を止めざるをえなかった。

人形はある場所を目指していた。
いや、場所というのは相応しくない、ある人物の下へと云った方が良いだろう。

彼女が目指していたのは彼女の持ち主である男性のところ。
公園の片隅に、俺と姉さんが昼間に出会ったあの男性の姿をみつけた。

【男性】
「今晩は、昼間はどうも」

男性は駆け寄ってきた人形を抱き上げると、昼間には着ていなかったコートの中へと
その人形をしまいこむ。

【男性】
「こんな時間にこんな所で、再会出来るとは思いませんでしたね」

【刀満】
「や、それは、俺もそうですけど」

【男性】
「早く帰った方が良いですよ、最近は物騒な事件がいくつも起きているようですからね」

男性は足元に置いてあった鞄を取り、俺達が来た方へと歩を進めた。

【モニカ】
「待て」

俺達の横を通り過ぎ、そのまま夜の街へと消えようとしていた男性をモニカが呼び止めた。

【モニカ】
「さっきの人形は何だ、ただの人形ではあるまい」

【男性】
「ただの人形ですよ、ハンドメイドですのでどこでも買える物ではないですけどね」

【モニカ】
「確かにどこでも買えるとは云えんな、自由意志で動く人形などな」

モニカが核心に触れた、あの人形、昼間は糸で操っていたはずなのに
さっき糸など無いのに一人で動いていた、さらに云えばあの人形は喋ったんだ。

【男性】
「手品の一種ですよ、私はそういったことを職にして生きていますからね。
タネは教えられません、これは私の商売道具ですからね、では」

【モニカ】
「おっと、私がこのまま貴様を見逃すと思っているのか?」

モニカは再び剣を呼び出し、切っ先を男性に向けて敵意のこもった声で告げた。

【刀満】
「ちょ、ちょっとモニカ、なんでもそうやって熱くなる癖を」

【モニカ】
「お前は黙っていろ」

モニカの声は落ち着いているようで、それでいてびりびりと体を征圧するような鋭さを持っていた。

【男性】
「……仕方がありませんね、何か聞きたいことがありましたら少しなら答えてあげますよ。
何が聞きたいのですか?」

【モニカ】
「貴様、こんなところで何をしていた」

【男性】
「探している人がいたんですよ、正確には少し違うんですがまあ似たようなものですね」

【モニカ】
「こんな人もいない夜の公園で、探し人に出会える可能性がいくらあると思っているんだ?」

【男性】
「それは私の勝手ですからなんとも、どこで出会えるかんなんてまったくの未知数ですからね。
こんな公園で会うこともあれば、どこかで食事の最中に出会うかもしれない」

【モニカ】
「なるほどな、そして貴様の読みは……的中したということだな」

【刀満】
「え?」

モニカの言葉の後、俺が疑問の声を上げるのと同時に男性も動いていた。

【男性】
「ふっ!」

【モニカ】
「っ!」

カイン!

振り向きざま、男性はモニカに何かを投げつけた。
すばやく反応したモニカはそれを弾き返したようだが、俺には何が起こったのかさっぱりだ。

【男性】
「ほう、よく反応出来ましたね」

【モニカ】
「これでも騎士団を束ねる長なんでな、これしきのことでくたばりはせんさ」

【男性】
「参りましたね、確実に仕留めたと思ったんですが……
やはり不意を付いてでもすぐに投げておくべきでしたか」

【モニカ】
「私が気づいていないとでも思ったか?
私と出会ってから、貴様は殺気を殺していたようだがそれでも少しずつ殺気は漏れ出していた。
何の恨みがあるのかは知らないが貴様が私を殺そうとしていることだけはすぐにわかったさ」

【男性】
「やれやれ、面倒になってしまいましたね」

【モニカ】
「ついでに指摘させてもらえれば、その作った口調も元に戻したらどうだ?
余裕を見せているようだが、そんなことで私を殺せると思ったら大間違いだ」

男性の眼が一瞬ピクリとゆれた、それハモニカの指摘の正しさを如実に物語っていた。

【男性】
「そこまでばれているのならもう隠す必要もないか。
全力で殺させてもらう、お前のようなやつはこの世に存在する必要がないのだからな」

【モニカ】
「貴様がそのつもりなら、私も全力で答えようか。
見たところ普通の人間、内なる本性は……化け物と同等だからな!」

【男性】
「化け物は、どっちだ!!」

再び男性がモニカに何かを投げつけた。
素早く起動から外れ、近くにいた俺の手を引いて駆け出した。

【モニカ】
「やつの狙いは私だ、刀満は安全な場所に隠れろ!」

【刀満】
「ちょ、お前一人で大丈夫なのかよ!?」

【モニカ】
「そんなことは知らん、だが刀満がいればそれだけ私が不利になる。
やつはそれだけ危険な男だ、騎士としての本能がそう教えてくれている」

モニカがそう云っているということは、それはきっと紛れもない事実だろう。
そこまでの事態である以上、俺がでしゃばる必要性は完全にゼロだ。

【モニカ】
「良いか、決して出てくるな」

【刀満】
「あぁ……死ぬなよ」

【モニカ】
「……あぁ」

茂みに俺を放り込み、男性の前に再び飛び出した。

【男性】
「心配しなくとも、彼に危害を加えようなんて思ってはいない。
彼はごくごく普通の人間、この世で生活する人間なのだからな」

【モニカ】
「私は違う、と云ったらどうだ?」

【男性】
「自分で認めているのなら十分だ、お前の存在をここで断つ」

【モニカ】
「やれるものなら、やってみるが良いさ!」

先に動いたのはモニカだった、いつも通りモニカのセオリー通りの動きで男性との距離を詰めた。

【モニカ】
「はぁあ!!」

一気に詰めた距離に剣が射程に入ると勢いよく剣を下から振り上げる。
余裕を持って男性はそれを避けるが、間髪いれずにモニカは剣を持ち替えて今度は下へと振り下ろした。

ガキイィン!

【男性】
「ぐぅ!」

男性は振り下ろされた刃を交差させた腕で受け止めた。
ぶつかる瞬間に聞こえた金属音からして、あの腕の下に何かをつけているようだな。

【男性】
「飛び道具を持つ相手に、うかつに近づくのは死を招くだけだ」

すぐに交差させた腕を一つ崩し、何かを懐のモニカ目掛けて投げつける。

【モニカ】
「そんなこと、お見通しだ!」

剣を消し、投げつけられた物を体一つの差で避けた。
続けて何発も投げられるが、全て軽い身のこなしのバクテンで華麗にかわしてしまう。

さっきまでモニカがいた場所には、鋭く太く長い針のようなものが突き刺さっていた。

【男性】
「厄介な剣を持っているものだ、奇しの力と云ったところか」

【モニカ】
「私に云わせれば貴様も同じさ、だが、弾切れがあるぶんの不利は承知なんだろうな?」

【男性】
「要らぬ心配だな、ならば弾が切れる前に仕留めれば良いだけのこと」

【モニカ】
「やってみるが良いさ、もっとも私も貴様の玉切れを待てるほど
のんびりしてもいられないのでな、本気で行かせてもらう!」

モニカの本気、それはもちろん本来のモニカの姿になること。
しかし、今日はいつもと様子が違った。

モニカの姿がいつもと同じ小さいままだった。

【モニカ】
「ど、どういうことだ……力が、開放出来ない」

【男性】
「私に気をとられすぎたな、私とお前が争っている中で
着々と準備は進んでいたというのにな」

【人形】
「てん、くう」

【男性】
「お帰り、私がこいつを動かしていたことに気がつかなかったか?」

男性の後ろから足元に駆け寄り、それを男性が抱き上げてもう一度コートの中へ。
いつのまにコートから出していたのだろうか?

【モニカ】
「貴様、何をした」

【男性】
「余計な被害を出さないために、誰も入れないよう結界を張っただけさ。
今ここにいる三人以外、ここに入れるものはいない。
加えて云えば、この結界内は五行のバランスを激しく崩してある、奇しの力のほとんどは使えんぞ」

【モニカ】
「この人間離れした力……貴様、いったい何者だ」

【男性】
「私自身はごくごく普通の人間さ、この力は血筋がなせるもの。
化け物じみた力などではなく、むしろその逆と云ったほうが良いか」

【モニカ】
「ちっ、この体で剣一丁か……」

【男性】
「さあ、いままで己が犯してきた罪でも振り返るんだな。
その間に、仕留めてやる」

【モニカ】
「くっ!」

再び男性が針を投げつけた、剣を呼び出してモニカはそれを弾き返すものの
続けざまに二発三発と投げつけられるにつれ、徐々にモニカの反応が遅れていく。

【男性】
「その体で、そんなものを長時間激しく振り回せば反応が遅れてくるのも当然。
私の弾が先に尽きるか、お前にこいつが突き刺さるのか、どちらが早いだろうな」

【モニカ】
「ほざけ! この程度のことで、私はやられたりしない」

【男性】
「結構結構、だがまたお前は見落としている。
それも先刻と全く同じことにな」

【モニカ】
「何を云って……な、なっ!」

【人形】
「つか、まえた」

まただ、またもいつの間にか抜け出していた人形がモニカの足に抱きついていた。

人形くらいに抱きつかれたくらいでどうなるものでもないが
この緊張状態の中では、それは大きな命取りとなる。

【モニカ】
「あ、づっ!」

判断の遅れたモニカの脚を針が掠めた、苦悶の声を上げて片膝を付いてしまう。

【刀満】
「モニカ!」

【モニカ】
「出てくるな! 刀満に、どうにか出来るようなやつじゃない」

【刀満】
「だ、だけど……」

【モニカ】
「これくらいのことで、私は折れたりはしない」

【男性】
「なぜ君はこの女と共にいるんだ、この女の奇しの力を見て
それでもなお共にいる理由がわからない、自らを危険なところにおいてなおな」

【刀満】
「あんたに関係ないだろ」

【男性】
「確かに、だが私の目的には少なからず関わるんだよ。
ついでだ、君とこの女の絡めも断ち、君を解放してやろう」

【モニカ】
「あぅ!」

今度はわき腹をぎりぎりのところで掠めていく。

【モニカ】
「貴様っ、わざと外しているな……」

【男性】
「確実に仕留めるため、様々な可能性を消しているだけだ。
私は相手をいたぶるようなことは好きじゃない」

【モニカ】
「私も、舐められたものだな。 ならば……」

痛めている脚を僅かに震わせながら立ち上がり、モニカ独特の構えを取った。

【男性】
「いよいよ後がなくなった、というところか?」

【モニカ】
「余裕で勝たせてもらえそうにはないんでな……一撃で決める」

【男性】
「それを凌げば、私の勝ちということか。
良いだろう、命を賭けたその賭け、受けてたとう」

しばらくの沈黙、モニカも男性もピクリとも動きはしない。
瞬きすらも出来ないような緊張状態、生唾を飲む音が驚くほどに大きく鳴ってしまった。

どれくらいの沈黙が続いたころだろうか、事態はほんの一瞬の間に動いていた。

【モニカ】
「はぁああ!!」

眼にも留まらぬ速さというのはまさにあんな速さのことを云うのだろう。
それくらいモニカのスピードは見たことがないくらいに早かった。

【男性】
「なっ……」

男性の口から漏れたのは驚きの声、さすがにあの速さは予測していなかったのだろう。
ほんのワンテンポの差、しかしその差がこの二人の間においては命取り。

モニカの勝ちだ、俺は瞬時に眼を背けた。
背けてはいけないとはわかっていながらも、人が死ぬ瞬間というものは何回見ても良いもんじゃない……

そんなことを考えていた俺の思考と、現実はまったく逆の展開で進んでいるとも知らずにだ……

【男性】
「……」

【モニカ】
「ぐっ、ぁ……な、何を……」

モニカの体が完全に止まっていた、男性まで後ほんの一メートル程だろうか?
それだけの距離を残して、モニカの体は完全に静止してしまっていた。

【男性】
「策は二重三重に張ってしかるべきもの、真正面から攻めるのは私らしくないからな。
足元を見てみろ、お前が動けない原因はそれだよ」

【モニカ】
「く、またこの針か……」

【男性】
「針によって、影が地面と共に貫かれているのさ。
針は投器として使うだけじゃない、だまされたな」

男性は余裕のある足取りでモニカに近づき、腕を蹴り上げて剣を宙に舞わせた。

【男性】
「これで、万に一つの勝機もなくなったな」

ゴス!

【モニカ】
「ガフ、あぁ……っ!」

針を抜くのと同時にモニカの腹部にめいっぱい力を込めた蹴りを抉りこむ。
モニカの軽い体はあっけなく吹っ飛び、後ろにあった樹木に背中を強くたたきつけられた。

【モニカ】
「ぐ、うぅぅ……」

【男性】
「その痛み、今までお前が与えてきた痛みの報いと思うがいい。
それと……最後の一刀は、私の恨みだ」

モニカは腕をクロスさせられ、その絡めが解けないように何箇所も針を打ち込んでモニカの自由を奪う。
ちょうどモニカは木に磔にされた状態にされてしまった、あれではもう殺されるのを待つだけしかない……

【男性】
「私を恨め、その恨みに奇しの怒り全てを吐き出してな。
来世では、恨みも何もない一人の人間に生まれることを願うんだな……」

まるで吸血鬼を処刑するかのように、手にした針をモニカの心臓へと向けた。

【刀満】
「止めろーー!!!」

【モニカ】
「く、るな……刀満……」

【男性】
「君が出てくる必要はない、そこで大人しくしていてもらいたいのだが」

【刀満】
「あんたの目的が、どうしてモニカを殺すことなのかはわからない。
だけど、俺はモニカに死なれちゃ困るんだよ」

【男性】
「奇しの力を持つこの女が、君にとってどんな益を生むというのだね」

【刀満】
「損得の問題じゃないよ、今の俺にはそいつが必要なんだ。
だから……」

剣を呼び出し、鞘を投げ捨てた。

【刀満】
「あんたを殺してでも止めてみせる、モニカは殺させない」

【男性】
「驚いたな、君は普通の人間だと思っていたが」

【モニカ】
「刀満は、普通の人間さ……私とは違う。
あれは……私が渡した、力だ」

【男性】
「なるほど、一般の日常を過ごしていた彼におまえは奇しの力を渡した。
それがどういうことなのか、考えればわかることだと思うがね」

【刀満】
「これは俺が望んだ力だ、自分自身を守るため。
それと、少しでもモニカの負担を減らすためにな」

【モニカ】
「刀、満……」

【男性】
「この女の負担をだと? 君は自分が何を云っているのかを理解しているのか?
この女に手を貸し、この街の混乱を大きくして君にどんな益がある」

【刀満】
「何回も云うように、そういう損得勘定は苦手なんだよ……モニカから、離れろ」

【男性】
「まさか、こんな結果に遭遇するとは。
仕方がない、この女に関わった事を恨むんだな」

男性は横に一刀、それに続けて上から一刀を立て続けに投げつけた。
勿論俺にモニカのような反応が出来るわけもなく、目視して理解するよりも早く
俺の両脚を針が掠めていた。

【刀満】
「っ、ぁ!」

【男性】
「やはり、戦いにおいては素人同然。
両脚を傷つけたんだ、それでもう私と戦うなど出来まい」

両脚につけられた傷は左右当たり場所がばらばら。
そのせいで余計にバランスを保つことを困難にさせていた。

立ち上がろうにもバランスの悪い傷の痛みがそれを許さない。

……またか、またなのか?

あの夜のように、また俺はモニカを助けることも出来ずにこんな状態だ。
こんな格好でモニカの負担を減らそうなどとよく云えたもんだ……

【男性】
「これ以上の苦痛は受けたくないだろう。
心配せずとも、目的を完了させた後で手当てをしてやるさ」

【刀満】
「止めろ、止めてくれ……あんたに、モニカが何をしたって云うんだよ」

【男性】
「君には関係ない、それに私はこの女を特別憎んでいるわけじゃない。
私の憎むべき相手は……君に教えても仕方のないことだ」

懐から新たに針を取り出し、モニカの心臓に添えた。

【男性】
「何か、最後に聞いておきたいことはあるか?」

【モニカ】
「聞きたいこと、か……じゃあ一つだけ、聞かせてもらおうか。
貴様、カリス達とぐるになって何を企んでいる?」

【男性】
「カリス? 誰のことを云っているんだ」

【モニカ】
「何……?」

モニカの声に明らかに驚きの感情が混じって聞こえた。

【モニカ】
「貴様、やつ等とは無関係なのか……?」

【男性】
「誰のことを云っているのかは知らんが、そいつと私は無関係だ。
これで満足だろう? 眼は瞑っておけ、自分が死ぬ瞬間など、見たくはないだろう」

【刀満】
「止めろ……止めろおおぉぉぉ!!!」

喉が潰れてしまいそうな叫び声。
俺の芯から出た叫び声で、せめてモニカの苦悶の声がかき消されてしまいますように……

カアッ!

【男性】
「なっ、これは、どうしたことだ」

男性が驚きの声を上げて辺りを見回した。
そんな声が出るのも当然、公園の中が蒼白い光で満たされている。

俺も何が起きたのかわからず、自分の周りに眼を配った。

【刀満】
「まさか……」

握っていた剣が暖かい、手にした剣に眼を移すと
あの時と同じように、剣が蒼白く光を放っていた。

【男性】
「これはまさか、君が……」

【刀満】
「モニカから、離れろ……」


酷く落ち着いた声で、俺はそう告げていた。





〜 N E X T 〜

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