【Uncommon holiday】
【刀満】
「はぁ、はぁ……こんちは」
【モニカ】
「思っていたよりもずっと早かったな、そんなに全速力で来ることもあるまいに」
【千夜】
「とりあえず落ち着けなさいな、冷たいの飲む?」
【刀満】
「頼む……」
千夜に出してもらったお茶を一気に飲み干した。
冷たく冷えたお茶が喉を伝って体の中に僅かながら涼をよんでくれた。
【刀満】
「はぁ、はぁ……疲れた……」
【モニカ】
「だから、別に急いでくる必要も無かっただろうに」
【刀満】
「ちょっと色々あったんだよ、で、お前の目的はもう達成されたのか?」
【モニカ】
「いやまだだ、あいにく狐のやつがいないのでな」
【千夜】
「この時間帯は散歩に行くことが多いのよ、もちろん散歩とは名ばかりの見回りだけどね」
【モニカ】
「ま、あれでも実力はある方だ。 簡単に返り討ちということもあるまい」
モニカが云うのだから確かだろう、実際橘禰さんの実力は俺も知っている。
俺が見たのが全力かどうかはわからないけど、少なくとも小さいモニカに劣ることは無いだろう。
【千夜】
「ところで二人ともどうだったの、今日のデートの出来は?」
【刀満】
「デートっていうほどのことしてないからな、お前に教えてもらったとこ行ったくらいか」
【モニカ】
「私は結構楽しめたぞ、見るもの見るものが新鮮だった。
初めて海を見ることも出来たしな」
【千夜】
「海行ったんだ、海といえばお決まりのおっかけっこやった?」
あんな見てる方が痛くなること出来るかよ……
【モニカ】
「やっていないが、やった方が良かったのか?」
【刀満】
「しなくていい、俺がしたくない」
【千夜】
「あら残念、何も知らないモニカを云い包めて色々するかと思ったのに」
いい加減俺のそのキャラ設定どうにかしてくれないかな。
【モニカ】
「それにしても何をしているんだあの狐は、人がこうやってわざわざ情報を届けに来たというのに。
千夜を守護するのなら、もっと身近で守らなければならんということがわからんのかね?」
【橘禰】
「随分な云い様ですね」
モニカの言葉が終わるのを見計らっていたかのように橘禰さんが現れた。
しかも、あまり良い状況ではない……
【橘禰】
「守護すると云ってもその方法は様々です。
片時も目を離さず守護する者もいれば、その周囲に気を配る守護者もいるということですよ」
【千夜】
「私も四六時中眼つけられるのは好きじゃないしね、これくらいで良いのよ」
【橘禰】
「そもそも、それは貴女にも当てはまることでしょう?
刀満様が学業に打ち込んでおられるときまで、眼を光らせているわけではないでしょう?」
【モニカ】
「真っ昼間から刀満が襲われることなど考えるだけ無駄だ。
奴等のような夜魔が、白昼堂々と行動を起こすことなどまずありえない」
【刀満】
「二人とも、そうやってヒートアップする癖止めろってのに」
またちろちろと弱い火種だが、今のうちに摘み取っておいて損は無い。
このままずるすると議論が長引いて一触即発になられても困るのはどうせ俺だ。
【千夜】
「で、橘禰も来て皆揃ったことだし、モニカの用事っていうのを聞きましょうか」
【モニカ】
「お前たちには関係の無いことかもしれないが、念のために伝えておこうと思ってな。
昨夜私たちが交えた男、入瀬といったか?」
【千夜】
「あいつがどうしたの?」
【モニカ】
「死んだよ、カリスたちに殺されたらしい」
【千夜】
「え……?」
【橘禰】
「それは確かな情報ですか?」
【刀満】
「えぇ、あいつ自身が最期の力を振り絞って俺たちに伝えにきましたよ。
よりにもよって俺のところにわざわざね」
クラスメイトである入瀬の死という事実。
千夜も入瀬に好意的な感情は微塵も無いだろうが、この短期間でクラスメイトが二人も
死ぬという現実に言葉を無くしていた。
橘禰さんは口元に指をあて、なにやら思案に耽り始めた。
【千夜】
「あの二人って仲間同士じゃなかったの?」
【モニカ】
「所詮その程度の間柄ということさ、あいつ等らしい繋がりだよ」
【橘禰】
「あの方はもう用済み、ということなんでしょうね」
【モニカ】
「そういうことだろう、それともう一つ。
私が追っている敵は一人ではない、全部で三人いる」
【千夜】
「三人? カリスって子だけじゃないの?」
【刀満】
「だけじゃないそうだ、他のは俺も会ったことも無い」
【モニカ】
「会う必要など無いさ、夜魔が全部カリスのようにふざけた奴ばかりではないからな」
【橘禰】
「あとの二人は彼女よりも危険ということですか?」
【モニカ】
「間違いなくな」
カリス一人にほぼ互角に戦っているモニカが云うんだから間違いはない。
つまり、三人揃ってしまうとモニカに勝ち目は無いという事になる。
【刀満】
「勝てるのか、そんな奴らに」
【モニカ】
「さあな、だが勝って3匹とも討ち取らなければならんのさ。
幸い援軍もいることだしな、手伝ってくれるのだろう?」
ちょいと橘禰さんを見やった、なんだかんだで二人には信頼関係が出来つつあるみたいだ。
【橘禰】
「私の力が必要な時はどうぞ遠慮なさらず。
私もいくつか貴女に手を求めることもあるかもしれませんのでね」
【モニカ】
「恩義を受ければ、それ相応の見返りは出すさ。
とまあこんなところだ、何か二人から聞きたいことはあるか?」
【千夜】
「私はないね、私じゃそういうのはよくわからないし
橘禰は何か気になるところとかあった?」
【橘禰】
「特には、脅威が一つ減りはしたものの、新たに二つも増えてしまいましたから
今後はよりいっそう私自身も気を引き締めないとならなそうですね」
【モニカ】
「そうやって気を張って千夜を守りきることだな。
私が面倒見れるのは刀満一人で限界だ、千夜には申し訳ないが私の範囲外だ」
【千夜】
「大丈夫大丈夫、私のパートナーは橘禰なんだから。
刀満こそ足引っ張ってモニカに負担かけるなよ」
【刀満】
「……善処します」
……
【モニカ】
「じゃあ失礼するぞ」
【刀満】
「また学園でな」
用事の済んだ刀満達を見送ってほっと一息。
明日は日曜日、ここ数日のバタバタは今日一日で回復しなかったので明日もゆっくりしていよう。
【橘禰】
「……」
【千夜】
「ん? どしたの、考え事?」
【橘禰】
「考え事といえば考え事ですね、ほんの僅かですが気になることがありまして」
【千夜】
「何よ気になることって?」
【橘禰】
「いえ、私の取り越し苦労の可能性もありますから。
きちんと調べてその時問題があるようでしたらお伝えします、ですから余計な心配はしないで大丈夫です」
【千夜】
「ふーん」
こういった場合、大体は悪い方に転がると相場は決まっている。
だけどここで食い下がる必要はない、本当に危険なことなら橘禰が黙っているはずもないしね。
【千夜】
「橘禰もたまにはゆっくりしなさいよ、日曜なんだし羽伸ばしてどこか行ってきたら?」
【橘禰】
「そうですね、時間が出来たらそうさせていただきます」
そう云っておきながら、休む気なんてないのはみえみえだけどさ。
仕方ない、私も刀満みたいにこっちから連れ出さなきゃ駄目かな……
【千夜】
「明日、どっか行こうか?」
……
【法子】
「おーーそーーーーいーーーーーーー!!」
帰ってくるなり姉さんお怒りの声が響いた。
姉さんは口調と声の延びで怒りの種類が違う、この間延びした起こり方は……
ぐるぎゅううううううぅぅぅぅぅ………
【刀満】
「ぁ、姉さんの夕食作ってなかったな」
盛大に鳴った腹の音ですぐに理解、夕飯はモニカの作ったのを食べたから
姉さんの分を別枠で作るのを忘れていた。
【法子】
「むぅう、もう九時過ぎてるんだぞ。
こんな時間まで私を放っておくなんて、餓死させる気なの……?」
【刀満】
「一日食わなくたって餓死はしないっての。
急いでなんか作るから、食いたいリクエストある?」
【法子】
「明日の朝までにちょうど消化出来るくらいの物、お肉が良い」
【刀満】
「しち面倒臭い注文だな、ちゃちゃっと作るから、モニカは先に風呂入ってくれ」
【法子】
「じゃあ私も入るー、また洗いっこしようね♪」
【モニカ】
「あ、いや、私は……」
いそいそとモニカの手を引いて浴室へ。
モニカがなんとなく嫌そうな顔で俺を見ていたが、気にしない気にしない……
こんなバタバタがあり。
俺はモニカに一つ伝えることを忘れてしまっていた。
あの路地裏で起きたことの報告を……
……
【刀満】
「んんーー、日曜の朝が平和って良いもんだな」
一週間が濃い密度のせいか鬼のように長く感じてしまう。
そこに来てこの日曜日という平和な日は実にありがたい、今日はゆっくりと昼寝でもして
明日から始まる一週間を必死で生き抜く英気を養おう。
【刀満】
「モニカは走りに行っていないし、千夜からの扱き使いメールも無いし。
この陽気にたまには浸って寝るのも悪くない……」
【法子】
「おーい、起きなさーい」
【刀満】
「何だよ、朝飯なら姉さんの分ちゃんと作ってあるから好きに食べてくれよ」
【法子】
「それは後でゆっくり頂くわよ、そうじゃなくてあんた今日暇だよね?」
【刀満】
「暇だよ、だからこうやってゆっくり寝ようとしてるんだろ、お休みー……」
【法子】
「暇なら今日は私に付き合いなさい、そんなわけだから寝るのはお預けよ」
襟を持って無理やり上半身を起き上がらせ、ズルズルと引きずられた。
【刀満】
「苦しいから引っ張るなって! たくもう、返事聞く前から無理矢理動かすなよ」
【法子】
「こうでもしないと、またモニカちゃんと二人で逃げちゃうでしょ。
私が朝ごはん食べてる間に外出の支度を済ませること、良いわね」
……
【法子】
「んんーー、日曜の朝が絶好の外出日和、良い日ね」
一時間ほど前に同じような言葉を聞いた気がする。
やっぱり姉弟ということか……?
【法子】
「こうやって刀満と一緒に外に出るのも久しぶりね。
どれくらいぶりだっけ?」
【刀満】
「姉さんが今の仕事しに行ったころだから、二年ぐらいかな?」
【法子】
「久しぶりの再会って感慨深いって云うけど、そうでもないわね」
【刀満】
「そりゃ一年、二年じゃな。 姉さん何も変わってないし」
【法子】
「あらそう? これでも年齢を重ねて大人の魅力が出てきたと思うんだけどな。
刀満は、ありきたりな科白だけど、成長したわね」
【刀満】
「成長って、どこがどう?」
【法子】
「私がいなくなって、一人でちゃんと生活出来てるのか心配だったけど。
いつの間にか女の子に囲まれて生活してるとは思ってもみなかった」
一人で生活はちゃんと出来てたさ。
こんなにたくさんの異性に囲まれるとはさすがに予想出来なかったけどな……
【法子】
「それで、あんなにたくさんの女の子に囲まれてると
少しくらい意識しちゃったりするんじゃないの?」
【刀満】
「どうかねぇ……」
【法子】
「まあ刀満じゃ無理か、血の繋がった私の裸見ただけで大声上げるくらいだもんね」
ケラケラと愉快そうに笑う。
俺に女性を苦手にさせた張本人が何を云うか。
【刀満】
「そうだ、今モニカに姉さんの部屋使ってもらってるんだけど
モニカは俺の部屋に移ってもらおうか?」
【法子】
「あぁ大丈夫大丈夫、あの部屋はあのままモニカちゃんに使わせてあげて。
代わりに私が刀満の部屋使わせてもらうから」
【刀満】
「あぁまぁ、それでも良いか。
ところで姉さん、今日は何か予定でも出来たの?」
【法子】
「これといって予定なんてないわよ。
ただ久しぶりにこっちに帰ってきたから、街を散歩しておこうかと思ってね」
【刀満】
「……俺いるか?」
【法子】
「必要よ、たまには二人きりでお昼ごはん食べに行ったりするのも良いもんでしょ。
あんまりこっちに滞在できる時間も長くはないしね」
【刀満】
「今度はどこに行くのさ?」
【法子】
「とりあえず国外ってことだけしかまだわからないわ。
いったい次はいつ帰ってこれるのかしらね?」
【刀満】
「あんまり危ないとこ行くなよ。
結婚でもしてこっちに落ち着いたらとか考えないの?」
【法子】
「ふふ、余計なお世話よ。 だけど心配してくれたことには素直にありがとう」
チョンっと俺の鼻の頭をつついた。
姉さんが良く俺をからかった後にするお馴染みの仕草だ。
【法子】
「よし、可愛い弟のため今日は姉さんが何でも好きな物奢ってあげるわよ♪
刀満のお勧めのところ、案内してもらえるかな?」
……あれ、主導は結局俺か?
……
【法子】
「ふぅー、お腹一杯」
適当に街を回って、いくつか買い物をして、お昼ご飯を食べて
俺達は休憩にと近くにあった公園へとやってきた。
【刀満】
「ほい、アイスくらいならまだ入るだろ?」
【法子】
「あ、サンキュー」
アイスを受け取ると近くにあったベンチに腰かけ
隣に座れとちょいちょい俺を呼んだ。
【法子】
「こうやって二人っきりで買い物行くのも楽しいわね。
こっちにいるとゆっくり出来るし、いつもの騒々しさが嘘みたいに思えるわね……」
【刀満】
「お袋達も心配してたよ、今度帰ってきたら電話ぐらいさせろってさ」
【法子】
「あぁー、うん、近いうちにね」
姉さんの仕事に大反対していた親父とお袋だったけど
やっぱり自分の子供、心配にならないわけがないよな。
親に連絡をしないことが、姉さんなりの気の配り方なんだと俺だけは知っている。
どっちの主張も尤もだから、俺がどうこう云える問題ではない。
それでも伝えるだけは伝えておかないと。
【刀満】
「あと何日かはこっちでゆっくり出来るんだろ?」
【法子】
「もう二、三日厄介になろうかと思ってるんだけどね」
【刀満】
「千夜がなんかパーティーしてくれるんだってさ。
だからそれが終わるまでは急に消えたりしないでくれよ」
【法子】
「うん……心配かけるね、千夜ちゃんにもありがとうって云っておいて」
【刀満】
「それじゃ姉さん出ないみたいだろ、ちゃんと自分で云ってくれよ」
【法子】
「……それもそうね」
アイスのコーンをカシュカシュと平らげ、両手を合わせてグーッと伸びをする。
さて、今度はどこに行きたがるんだろうな?
【法子】
「あ、なんだろう、あの人だかり?」
姉さんが指差した方に眼を向けると、数人ではあるが人だかりが出来ていた。
集まっているのはどうやらほとんどが子供のようだ。
そんな子供達の中に、明らかに倍はある身長の男性が一人。
失礼だが、少々奇妙な光景に映った。
【法子】
「行って見ようか」
返事も待たずに姉さんに手を引かれ、二人で人だかりへと近寄った。
近寄ってみると、奇妙に見えた光景もなるほど納得だ。
小さなテーブルの上で、女の子であろう小さな人形がリズミカルに踊っていた。
もちろん人形が独りでに動いているわけではない、人形の上では男性が巧みに絡めた糸を操っている。
つまり、この人は大道芸人なのだろう。
【男性】
「さあさあ、今度は何をしてみようか?」
男性の口調に合わせるように、操られる人形は顔に手を当てて考える仕草を見せた。
細かい動きも忠実に再現されていて、かなり卓越した腕を持っていることは容易に想像できた。
【法子】
「上手いものね、ああいったのってよっぽど訓練しないと出来ないよね」
【刀満】
「だろうね、だけどそれを感じさせずにいとも簡単にやってのけるから
大道芸人っていうのは人を惹きつけるんだろうね」
そんなにたくさん見たわけではないが、大道芸人の人で、辛い顔をしている人を見たことがない。
きっとその辺の表情作りも全て含めて楽しませる力がなければ、この仕事は出来ないということだろう。
俺と姉さんがそんな会話を交わしている間も、男性の操る人形は小道具として置かれた
小さな梯子を器用に上ったり下りたりを繰り返していた。
【男性】
「さてさて、次は少しお手伝いをお願いしようかな。
そうだな……それでは、貴方にお願いしましょうか」
【刀満】
「へ、俺?」
【男性】
「はい、お手伝いといっても別に難しいことはありませんよ。
この輪をこの人形めがけて軽く投げてください、それを見事受け止めて見せましょう」
ニコリと男性は笑みを見せ、俺に三つの輪を手渡した。
【男性】
「貴方のタイミングで結構ですので、一つずつお投げください」
【刀満】
「何か云った方が良いですか?」
【男性】
「心配無用、お好きなタイミングでどうぞ」
意地悪くタイミングを外す理由もないし、そもそも頼まれたのにそんなことをするほど
俺は悪い子じゃないさ。
まず一つ。
【男性】
「はい」
人形がふわりと舞った輪をすばやく腕でキャッチした。
周りにいた子供達がそれに合わせて小さな歓声を上げた。
二つ。
【男性】
「はい」
今度は逆の腕、これまた器用に腕を動かして落とさずキャッチ。
【刀満】
「最後の一ついきますよ、はい」
【男性】
「よっと」
最後は放物線を描く輪を右腕で取り、両腕を器用に回して首へとかけた。
子供達からは聞こえる歓声はさらに大きくなり、ちょっとした英雄を見る眼差しになっている。
【男性】
「そちらの彼にもおしみない拍手を」
【刀満】
「え、あ、ども」
男性に促され、子供達は俺に向かっても大きな拍手をしてくれた。
うん、恥ずかしいような気もするが、悪い気はしないか。
【男性】
「さあさあ、今日はもうこれでお終いだ。
気をつけて帰るんだよ、お父さんお母さんの元に無事帰れますように」
人形が礼儀正しくお辞儀をし、別れを告げるように手を小さく振った。
【法子】
「なんか良いね、こうゆうのもさ」
【刀満】
「だな、楽しませてもらいましたよ」
こういうのは見物料として多少のお金を置いていくのが常識だよな。
【刀満】
「どうぞ、見物料です」
【男性】
「あぁいえいえ、そんなものはいりませんよ。
これは私が趣味でやっているだけですから、お金を取るなんてことは考えていませんので
それはおしまいください」
【刀満】
「そ、そうですか」
なんか恥じかいた……
【法子】
「お人形遣いお上手ですね、お仕事はそういった関係のことを?」
【男性】
「まさか、これはあくまでも趣味の域ですよ。
こういったことが出来た方が、知らない国でも早く馴染んでもらえますからね」
【法子】
「もしかすると、お生まれは日本じゃ?」
【男性】
「中国ですよ」
なるほど、どこか日本人とはちょっと違うと思ったらやはり異人さんか。
【男性】
「とはいっても、もう何年も国には帰っていませんけどね。
ヨーロッパからアメリカ大陸、近隣アジアいつも飛び回ってますから」
【法子】
「へえ、それだけ色々回っているとその土地の言葉を覚えるのも大変なんじゃ?」
【男性】
「仕事柄仕方がないことですよ、日本語も十分勉強しましたから。
おっと、話し込んでしまいましたね、申し訳ないですが私も失礼させていただきます」
手早く人形と道具をしまい、スーツケース大のバッグをもって男性も公園を立ち去った。
【刀満】
「どうしたの? 似たようなことしてる人に出会って、何か感じた?」
【法子】
「……別に、私は私だからね。 さて、お買い物の続きをしましょうか」
……
【法子】
「ただーいまー♪」
あの後、姉さんと街をまたぶらぶらと歩き、気になった店を見つけてはちょいちょいと
品定めをして、気に入った物は買ってと実にありきたりな休日を過ごした。
世間一般ではこれこそ休日の過ごし方なのだろう。
付き合わされた俺も嫌な気はしてないから良いけど、久しぶりに姉さんと二人で会話も出来たしさ。
だけど、何か忘れちゃいけないことを忘れているような……
ぐううううううううぅぅぅぅぅぅ
【モニカ】
「遅かったな」
お帰りよりも早く腹の音が存在を思い出させやがった。
そうかそうか、忘れていたのはこいつの食事のことだったか。
【モニカ】
「伝言の一つもよこさないとは、逃げ出したのかと思ったぞ」
【刀満】
「逃げられるとこなんかねえよ」
ぐううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
【モニカ】
「大体遅くなるなら連絡の一つでもよこさねばならないことくらい
考えれば想像できるだろ、勝手に冷蔵庫の食材を無闇に使うわけにもいかんのだからな」
【刀満】
「それは、ごもっともで……」
ぐううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
【刀満】
「だぁーうるせー!! 平常心な顔で怒りながら腹鳴らすな! ちょっとは恥ずかしがれ」
【モニカ】
「知ったことか、別に恥ずかしがることでもあるまい」
【法子】
「揉めるようならなるべく早くね、私もお腹空いたー」
【モニカ】
「だそうだ、これ以上云い合ってもしょうがないだろう。
出来る限り早く迅速にだ、頼んだぞ」
うぅ、あいつ相当怒ってるな……
……
【刀満】
「なぁー、まだ機嫌直らないのかよ?」
【モニカ】
「元より怒っていない、騒いでいたのは刀満だけだろう?」
絶対に嘘だ、そうでなきゃいやしんぼのように四杯もご飯おかわりなんてするはずがない。
そのせいで俺が食うご飯なくなったんだぞ……
【モニカ】
「そもそも、外出するのなら置手紙の一つでも置いて行くのが普通だろ。
刀満が戻ってくるのかこないのか、それだけで私の行動も変わるのだからな」
【刀満】
「戻ってこなかったら好きなように冷蔵庫の中の食って良いって。
大体の物は火通せば食えるから」
【モニカ】
「阿呆かお前は、誰が食事の心配などしたか。
前回の戦いで、刀満も本当の意味で死線へと両足を踏み入れた。
後、刀満が超えなければならないことは一つ……」
【刀満】
「なんだよ?」
【モニカ】
「いや、止めておこう。 刀満に云ってもしょうがないことだ」
【刀満】
「そうかいそうかい、で、今日の見回りはどの経路で進めるんだ?」
【モニカ】
「とりあえず人通りがほとんどなく、なるべく広いところ、目的地はそんなところだな」
【刀満】
「なんだ、もう決まってるのか?」
【モニカ】
「まあな……走れ、刀満!!」
モニカの合図に慌てて俺も走り出した。
一度後ろを確認すると、なるほど、もうつけられてしまってたわけか……
目視出来ただけでも三体、あいつらの気配を感じれるようになるまで後どれ位かかるのだろうか?
俺が呑気にそんなことを考えている間にも、情勢は確実に動きつつあることに
俺は勿論のこと、モニカも気づくことは出来ずにいた……
〜 N E X T 〜
〜 B A C K 〜
〜 T O P 〜