【moonlit folia】


モニカの独特の構えを俺に真似できるわけがないので俺は極々一般的な構えを取って入瀬と対峙する。

【モニカ】
「無闇に切り掛かったりはするな、私が隙を生ませる。 刀満はそこを叩け」

【刀満】
「出来る限り頑張るよ」

それくらいしか俺に出来ることなんてないだろう。
ここ数日の間で剣を持った人間が、そこまで出来ればたいしたもんだと自分で褒めてやろう。

【入瀬】
「ククク……良いぞ、そうでなくてはな。
特に芦屋、お前の参戦を俺は大いに歓迎するぞ」

【刀満】
「そりゃどうも……」

【入瀬】
「心配するな、そんな簡単に殺したりはせんよ。
なるべく時間をかけて……そして、俺にひれ伏してもらわないとな!!」

保たれていた距離を瞬時に詰め、振りかざした爪を振り下ろした。

【モニカ】
「下がれ!」

モニカの指示で後ろに下がる、当のモニカは入瀬の振り下ろされた爪を受け止めていた。

【モニカ】
「くっ、怪物ともなれば力も半端なものではないようだな……」

【入瀬】
「半端な力で他を支配出来ると思っているのか?
絶対的な力、そしてそれを持つ天才の存在こそが世界には必要なのだ」

【モニカ】
「それを世間では恐怖政治というんだ。
頂点に立つ者に必要なのは、そんな物ではない!」

【入瀬】
「好きなように云うが良いさ!」

左右の爪が物凄い速度で振り下ろされる。
しかしそれを全て捌ききるモニカ、俺と同い年で俺よりも少し小さいのに
この人間離れした動き。 これがモニカが云う『騎士』というものの実力なのだろうか?

【入瀬】
「さすが、と云った方が良いか? ならこれならどうかね?」

両腕に炎を纏わせ、十字を切るように腕を振るう。

【モニカ】
「ならこうするだけさ!」

剣をひき、瞬く間に膝を折って地べたを転がった。

【入瀬】
「上手いじゃないか、おやおや、挟まれてしまったか」

【モニカ】
「一先ずは成功だな、刀満後はお前を中心にして動く、奴から眼を離すなよ!」

そういうことか、モニカは入瀬の攻撃を捌きながらも俺が一番安全に動ける状況を考えてくれてたわけだ。
俺とモニカが入瀬を挟めばどう動いたとしても位置取りはしやすくなる。

入瀬を中心に俺たちが回ることが出来、俺を中心に据えれば俺は最小限の動きで
状況全てを見ることが出来るということか。

【入瀬】
「さて、どちらを狙ったものか?」

【刀満】
「俺を狙うのが一番確実じゃないのか?」

【入瀬】
「確かに、だがお前を狙うほんの僅かな時間でも彼女に背を向ければ切り伏せられる。
それくらい彼女は平気でやってくるさ、だろう?」

【モニカ】
「良い読みじゃないか、そんなチャンスが訪れれば迷うことなく貴様を切る」

【入瀬】
「だそうだ、だからまだお前を狙うことは出来んさ。
だが、お前から俺の不意をつくのはかまわんぞ、好きなときに切り掛かって来い」

入瀬は目標をモニカに定め、振りかざした腕をモニカへと薙いだ。
結構な距離があったので腕自体が当たることはないが、ワンテンポ遅れて飛び出した炎がモニカを襲う。

【モニカ】
「こんな子供騙し、私には通じない!」

入瀬との距離を詰めるように炎の中へ、炎が触れる直前で地を強く蹴って炎を飛び越した。

【モニカ】
「貰った!」

【入瀬】
「むっ!」

懐に飛び込んだモニカが下から剣を振り上げると、入瀬は両手の爪を使ってモニカの剣を受け止めた。

【モニカ】
「今だ刀満!!」

入瀬の両腕を止めてモニカが作ってくれたチャンス、ここを無駄にするわけにはいかない。
出来る限りの速度、勿論モニカや入瀬とは比べ物にならないくらい遅いが
それでも自分の全力を出した速度で間合いを詰め、入瀬の背に切り掛かった。

【入瀬】
「その程度で、俺がやられると思うのか!」

俺の剣が入瀬を捉えるよりも早く、入瀬の身体全体を激しい炎が覆いつくす。
突然に湧いたあまりの熱さに俺は剣をひく他無かった。

【刀満】
「くそっ……!」

【入瀬】
「迷い無く俺に切り掛かったのは褒めてやろう、だがまだ警戒心が足りんようだな。
勿論お前もな、俺が炎を扱えるのならこれくらいは出来ると睨まなかったのか?」

【モニカ】
「これだから化け物は……」

俺たち二人は仕方なく入瀬から距離をとり、今度は入瀬からの出方を伺った。

【入瀬】
「どうした、攻めて来ないのか?」

【モニカ】
「お前から攻めてきたらどうだ? 私はそれでも構わんぞ」

【入瀬】
「そうか……なら、今度はこちらから向かわせてもらおうか」

再び入瀬が両腕に炎を纏わせ、その両腕を突き出すと光線のようにその炎はモニカへと伸びていく。
しかしこれはモニカを攻撃するためではなく、モニカの注意を一瞬背けるためのものだった……

【モニカ】
「何度やっても同じことだ、私にこんな子供騙しは通じん」

【入瀬】
「だろうな、だが俺の標的はお前ではないのでね」

くるりと向きを変え、間髪入れずに俺へとその巨体を迫らせた。

【モニカ】
「なっ、刀満!!」

【入瀬】
「一発くらい、耐えてくれよ!!」

素早くクロスさせた腕から炎が衝撃波のように飛ばされた。
眼にもとまらぬ速さ、というわけでもないので俺にも難なく交わすことは出来る。

だけどそんなこと入瀬は承知済み、俺よりも一足先に次の行動へと移っていた。

【入瀬】
「遅い、本当に注意しなければいけないのはこっちだぞ!」

右に跳んで避けた俺に合わせるように、右から次の手を撃ってきた。
なんてことのない薙ぎ、しかし体の崩れている俺にはそんなものでも十分に危険な攻撃となる。

剣で浮けきることも叶わないのであれば、後は入瀬の攻撃に逆らわず身体を合わせるように受け入れるしかない。
腕の一撃は非常に重くそして痛い、ここで少しでも逆らえば骨を粉々にされかねないほどの衝撃だ。

抵抗を一切止めた俺の身体は、枯葉のように宙を舞って無残に地べたに転がった。
折れちゃいないようだけど、人間辞めたくなるくらいに痛い……

【モニカ】
「刀満っ!」

【刀満】
「つつつっ……まともに喰らうと、なんだって痛いもんだな」

【入瀬】
「抵抗を全て止めた、良い判断だ。
だがこれでお前はしばらく動けんだろ、俺とあいつの戦いを見て、あいつがやられる様でも見ているんだな」

【モニカ】
「き、貴様ぁあ!!」

まずい……あいつまた感情的になりやがった。
あいつには感情のコントロール能力が少し欠けている、頭にくれば我慢することなくそれがすぐ
言動・行動に表れる、云っちゃ悪いが扱いやすいタイプの人間だ。

俺が何度云っても直らないところを見ると、もう直すことは不可能なのかもしれないが
この欠点はモニカにとって命取りになりかねない大きなものだ。

【刀満】
「あいつは、すぐムキになるんだから……」

モニカの感情を安定させるためにも、俺が早く立ち上がらないといけない……のだけど。
入瀬にやられた痛みはそう簡単に抜けるものではなく、まだ膝立ちするのが精一杯だった。

【モニカ】
「ふっ! はぁあ!!」

【入瀬】
「定まらない太刀筋だな、怒りの感情で弱くなるタイプということか。
普通怒れば怒るほど殺気が増すはずだが、おまえの剣では逆に殺気が削がれている。
怒りで周りが見えなくなるのよりも余程性質が悪い」

【モニカ】
「その減らず口、すぐに黙らせてやる!」

【入瀬】
「やれるものならやってみるが良いさ」

ガン!

ガイン!!

剣と爪の激しくぶつかり合う音、今はまだそんな音が響いているから良いが
この音が聞こえなくなれば、それはもうどちらかが死に導かれたということになる。

負けるのは多分…………

…………モニカだ。

早くモニカに平常心を取り戻してもらわないと。
平常心を取り戻したモニカなら、後は俺が死なないように出来ればきっと……

クソ、膝がガクガク震えてやがる……

【入瀬】
「そらそらどうした、そんなもので俺は切り伏せられるのか?
上、左、上、右、上、そしてここで胴突きだ!」

【モニカ】
「くぅっ!!」

案の定モニカの攻めが読まれている、このままだと長く持ちそうにない。
少しでも良いから俺がまだいけるところを見せればモニカも落ち着けるはず。

震える膝でよろめきながらも立ち上がり、剣を構えようとするもすぐに膝が折れて立っていられない。
モニカは俺が眼の前で死なれるのを嫌がっていた、だけどこれじゃあ俺がモニカを死なせてしまうようなものじゃないか!!

ほんの数十秒でも良い、立っているだけで何も出来なくても良い。
ただ、まだそれだけの気力があるということだけでもモニカに見せられれば……

【入瀬】
「そら、捕まえた!」

【モニカ】
「なにっ! は、離せ!!」

【入瀬】
「こんな芸当も出来るんだぞ」

モニカの腕を掴みながら、入瀬は炎を纏わせた。

【モニカ】
「ぐっ、あぁあ!!」

苦悶に歪むモニカの声が聞こえた、腕を焼かれているのだからそんな声が出るのも当然だ。
モニカがそんなめにあっているのも全部俺のせいなのに、俺には何も出来ないのか?

モニカを死なせてしまい、それを見ているだけしか出来ないのか?

【刀満】
「く、クソおぉっ!!」

何とか立ち上がろうとするも両足に力が入らない、片膝でいるのがやっとの状況だ。
本当に、本当に俺にはもう手は残されていないのか……?

自分が死ぬだけならそれも運命かもしれない、だけどそこにモニカの死が加わって良いはずが無い。
何か一つだけで良い、モニカの好機となる起点を生み出せれば……

【刀満】
「んっ、こいつは……」

剣に、蒼白い光が宿っていた。
勿論俺の錯覚かもしれない、だけど縋れる物ならとことん縋ってやろう。

刀身を入瀬に合わせ、片膝を付きながら空を切った。
そんなことをしても当然意味は無い……はずなのである。

本来そんなことをしても何も起きないはずなのに、空を切った剣の軌跡がそのまま形になり
それは入瀬めがけて一直線に飛んでいった。

ザオ!!

【入瀬】
「がう!! な、なんだというんだ!?」

入瀬の背には軌跡とまったく同じ傷跡が付いていた。
俺の太刀筋が、入瀬へと飛んでいったのか? はは、莫迦みたいな話だな……

【入瀬】
「芦屋ぁ!! 今のはお前か!?」

【刀満】
「いつまでもモニカの腕掴んでんなよ、俺だって気安く掴めないんだからな」

どうせ最後なんだ、好き勝手云わせて貰おうじゃないか。
それで入瀬の気が少しでも俺に向けばしめたものだ。

【入瀬】
「そんなところから何をした!?」

【刀満】
「俺にもわかんねえよ……モニカ、感情的になるな! 俺は大丈夫だから平常心に戻れ」

【モニカ】
「と、刀満……」

【入瀬】
「ぐうぅう、かあぁあ!!」

俺が何をしたのか理解出来ないのが頭にきたのか、激しく燃える炎を俺目掛けて放った。
さすがに今度ばかりは俺も無理だ、だけど後はモニカがやってくれるさ……

炎に包まれて、その業火に体を焼き尽くされる……と思っていたのだが。

【?】
「大丈夫ですか?」

俺と炎の間に割って入る人の姿、極々最近耳にしたその声でピンと来た。
それは、橘禰さんだった。

九つの尻尾を扇のように広げて炎から俺を守ってくれていた。
橘禰さんの尻尾には炎が燃え移り、メラメラとその尻尾を焼いていた。

【橘禰】
「立てますか?」

【刀満】
「そんなことより橘禰さん尻尾燃えてる!?」

【橘禰】
「私なら大丈夫ですよ、狐は炎を操るんです。 この程度の炎では尻尾を焼くことなんて出来ませんよ」

橘禰さんの言葉通り炎はすぐに収まり、焦げ後一つ無い九つの美しい尻尾をふわりと振るわせた。
俺は橘禰さんに肩を借り、何とか立ち上がることが出来た。

【橘禰】
「間に合ったようで良かったです、嫌な臭いがしたものですからまさかとは思ったのですが」

【入瀬】
「えぇい、また余計な外野が紛れ込みやがって!」

【刀満】
「モニカ! 俺のことなんか気にするな、落ち着いていつものモニカで戦うんだ!!」

【モニカ】
「まさか、刀満にしてやられるとはな…………貴様、冥府で王にかける言葉でも考えておけよ」

いつもの構えとは違う、剣の切っ先を相手へと向けた見たことのない構え。
何かに集中しているのか、眼を閉じたモニカは微動だにしなくなっていた。

【入瀬】
「俺は、俺はこの世界で選ばれた人間なんだ!
この力も、持って生まれたこの頭脳も、全てがこの世界のために存在しているんだぁあ!!」

自分の思い通りに行かなくなり、予想外のことの連続に入瀬は半狂乱になっていた。
とても普段の良い意味で冷静で、悪い意味で冷徹な入瀬とは比べ物にならないくらい。

今のこいつは…………醜かった。

見た目も、それから根性も。 全てがもはや化け物に同化しているようだった……

そんな奴が出来ることなんて、考え無しに相手に襲い掛かるしか道は残されていない。

【入瀬】
「死ねえぇえぇぇぇ!!!!!」

【刀満】
「モニカっ!!」

ヒュッ!

入瀬の爪がモニカに襲い掛かるよりもずっと早く、入瀬の背を一筋の光が射抜いていた。
もう何度も見ていれば一体何が奴を射抜いたのか想像するのは容易いことだ。

【入瀬】
「ぐぅ、があぁあ!!!」

【モニカ】
「力を求め、自分を捨てた自分を怨め!」

モニカは剣を下から一回転させ、そのまま入瀬の横を駆け抜けるように刃を滑らせた。

【モニカ】
「終わりだ……」

【入瀬】
「ぐ、ぐぐぐ……ぐがあぁああぁあぁぁ!!!」

断末魔の叫びを上げ、入瀬は前のめりに倒れていった。
終わった、モニカの科白が全てだった。

【モニカ】
「ふぅ……」

【刀満】
「お疲れさん、結局俺は何も出来なかったな……」

【モニカ】
「……その話は後でゆっくりとしよう、だがまさかお前が助太刀に入るとはな」

【橘禰】
「千夜様の命に従うのも、私のお役目ですから。
千夜様をこのような場所に踏み入れさせたくはなかったのですが……」

【千夜】
「私だけが、何にも知らないでいられるほど無関心じゃないのよ、私はね」

決着が付き、殺し合いの匂いがしなくなったことを確認して千夜が現れた。

モニカの剣が入瀬を捉える直前、入瀬を射抜いたものは『矢』だった。
どうやら俺と同じように、あいつまでこっちの世界に足を突っ込んでしまったみたいだな……

【モニカ】
「千夜にも助けられたみたいだな、礼を云うぞ」

【千夜】
「そんなのは良いんだけどさ……本当にモニカ、だよね?」

そうか、千夜はまだこのモニカに出会ったことがなかったんだな。
そりゃこのモニカを見れば、いつものモニカと結びつかせるのは無理だよな。

【千夜】
「じぃー……」

【モニカ】
「はぁ、千夜もどこを見てるんだ」

【千夜】
「だってこれって、おかしくない?」

そこか、やっぱりそこか…………やっぱり一番に眼が行くのは胸なのか。

ムニィ。

【モニカ】
「なっ! 莫迦者、何触っているんだ!!」

【千夜】
「本物だ」

こいつは触りやがった、気持ちはわからんでもないが……

【モニカ】
「くうぅ、この国の人間は胸の大きさで人を判断するのか!?」

【千夜】
「そうじゃないけど、いつもあんななのに、今はこれでしょ?
気になるなって方が無理なものでしょ実際、ね?」

【刀満】
「お、俺にふるなよ」

【モニカ】
「フンッ、どいつもこいつも……」

【橘禰】
「そんなことは後で行ってください、いつまでもこんなところにいる必要はないのでは?」

【モニカ】
「それもそうだ、力に溺れた化け物の死体など放っておいても砂塵に……」

【入瀬】
「ぐっ、あぁぁ……」

【モニカ】
「!」

モニカも、勿論俺も死んだと思っていた入瀬だったが、あいつは生きていた。
醜い化け物の姿ではなく、人間だったころの入瀬の姿に戻っていた……

【モニカ】
「まだ生きていたか、化け物の生命力は侮れんな」

【入瀬】
「くっ、くうぅぅ……」

次の手が残されていないのか、入瀬は脇腹を押さえながら立ち上がるのが精一杯のようだ。

【モニカ】
「貴様は、この世界の人間であることを捨てた。
そんな奴に、慈悲の心は必要ない……」

止めを刺す、つまりはそういうことだ。
ゆっくりとした足取りで近づいていくものの、入瀬に逃げるだけの力は残されていない。

【入瀬】
「こんな、こんなところで……」

【モニカ】
「さっきも云っただろ、怨むのは自分自身だ。
刀満、それから千夜……眼を閉じておけ」

殺す、モニカに迷いはない……

【入瀬】
「くっ……」

【モニカ】
「心配するな……一発で逝かせてやる」

モニカの小さな声が聞こえた。
入瀬が……死んだ。

……しかし、そう思っていたのはどうやら俺だけのようだった。

モニカの剣はモニカの手に収まっていなく、カランと地面に音を立てて転がった。

【カリス】
「この世界の人殺しは、貴女が一番嫌うことではなかったんですか?」

【モニカ】
「カリス、貴様……!」

モニカと入瀬の間にカリスが割って入っている。
振り上げられたカリスの足が、モニカの剣を弾き飛ばしたのだと認識させた。

【カリス】
「生きたいのなら逃げなさないな、どう足掻いても今の彼方じゃ勝てませんよ?」

【入瀬】
「……ぅ」

よろめきながら数歩後退り、最後の力で全身に炎を纏わせてその姿を掻き消してしまった。

【カリス】
「見事な戦いでした、四対一とは云えど、お二人はこの世界のただの人間。
実質貴女一人の力が大半を占める中で、良くあの怪物を倒せましたね♪」

【モニカ】
「ちょこまかと私の邪魔をして、今すぐお前とも交えてやる!」

【カリス】
「まるで悪党の科白ですね、ですがさっきも云いましたとおり今回私に闘いの意思はありませんよ。
今のは私なりの人助け、恐い怖い殺人鬼から死にそうな男性を救ってあげた。
あ、勿論この殺人鬼というのは貴女ですからお間違いなく」

【モニカ】
「癇に障る云い愚さばかりしおって、あ、こら、逃げるな!」

【カリス】
「それではごきげんよう、近いうちにまた合いましょうね、きゃは♪」

剣を拾う隙にさっさとカリスは姿を消してしまう。
結局カリスは討てず、入瀬さえも討ちもらしてしまう結果となってしまった。

【モニカ】
「クソ! 私がちゃんと息の根が止まったのを確認しておけば……」

【刀満】
「……モニカは、良くやったじゃないか。
今度また入瀬が出てきたら、その時はまた返り討ちにすれば良いだろ」

【モニカ】
「……刀満に慰められるとは、いよいよ私も焼きが回ってしまったかな」

【刀満】
「なんだよそれ」

【モニカ】
「さて、どういうことだろうな?」

剣の背でとんとんと肩を叩き、ふぅっと息を吐くお決まりのポーズ。
それと、わからないくらいにだけどまた声のどこかに笑みを帯びた感じを受けた。

【橘禰】
「あの二人、すぐにでもまた出会いそうな気がします」

【モニカ】
「間違いなく会うだろうな、その時は必ず……」

【橘禰】
「モニカさん」

【モニカ】
「な、なんだ急に名前なんかで呼んだりして、気持ちの悪い」

余程意外だったのか、モニカの奴本当に嫌そうな顔をしている。
そんな顔しなくても、ひでぇな……

【橘禰】
「今まで貴女とは距離を置いてきましたが、どうでしょう?
そろそろ休戦協定と参りませんか?」

【モニカ】
「ほう、お前からまさかそんな科白が聞けるとはな。
そもそも一回しか交えていないのに休戦も何もないと思うがな」

何度か衝突しそうになったことはあったけど、初遭遇以降実際にぶつかったことはない。

多分お互いにモニカには俺が、橘禰さんには千夜がいたから無理な衝突を避けていたのだと思うけど
ここにきてその衝突そのものの可能性がなくなるのは良い事じゃないか。

【モニカ】
「つまりそれは何か、休戦状態が切れることもあるということか?」

【橘禰】
「事態の動き次第では。 ですが貴女が千夜様に危害を加えない限り
私から手を出すことはないと思っていただいて結構ですよ」

【モニカ】
「なるほどな」

【千夜】
「二人ともそんな大事みたいな話してるけど、結局は二人が仲良くするってだけの話だよね」

こそりと千夜が俺に耳打ち。
うん、面倒なことを省けば結局はそういうことになるな。

【モニカ】
「わかった、お前の申し出を受けようじゃないか。
私がこちらにいる間、私もお前に剣は向けない、それで良いな?」

【橘禰】
「勿論です、ついでですから貴女の目的にも協力しましょう。
ひいては私の目的にも関係してきそうな話ですのでね」

【モニカ】
「やれやれ、結局私はお前の目的を手伝わなけりゃならないということか……」

【橘禰】
「間接的には、ですので」

二人の話が終わった………おいおい、それで終わりかよ?

【刀満】
「握手、しないのか?」

【モニカ】
「は?」

【刀満】
「だから握手だよ、利害が一致したのなら握手で締めだろ?」

【橘禰】
「それが必要だというのであれば、私は構いませんよ?
警戒しているようですので、では私から」

【モニカ】
「はぁ、仕方ないな……」

モニカの方は殆ど嫌々、元々モニカの中では敵対の弱い相手だ。
そんなことをする必要など最初からないということなんだろう。

ポシュ。

【橘禰】
「あら」

【モニカ】
「時間切れか」

モニカが小さいのに戻った、橘禰さんとそう変わらなかった身長も今じゃかなりの差になっている。

【千夜】
「うわ、変身ヒーローが元に戻る瞬間見ちゃったよ。 子供の夢ぶち壊しだね」

【モニカ】
「元に戻ったんじゃない、小さくなっただけだ。
さっきまでの私が本当の私、今の私はこっちの世界に来た反動でこうなっているだけだ」

【橘禰】
「難儀なものですね、小さいというのは色々と不便でしょうに」

【モニカ】
「なんだ、早速協定を破ったって良いんだぞ?」

【刀満】
「握手したままそういうこと云うなよ……」

だけどまあ、とりあえずモニカと橘禰さんがいがみ合う必要がなくなったのは良いことだな
入瀬を逃がしたのは痛いことだけど、あいつもあのぶんじゃそう早く戻ってはこないだろう。

入瀬の傍若無人に歯止めをかけたんだから、今日はこれで十分な成果じゃないか。
そう自分に云い聞かせ、モニカと橘禰さんの朗らかな口げんかに耳を傾けていた。





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