【solar eclipse mazurek】


【モニカ】
「やつ等はな、血を奪いに来たんだよ」

【千夜】
「血って云うと、血液のこと?」

【モニカ】
「無論だ」

【刀満】
「なんだよ、じゃああいつは吸血鬼だって云うのか?」

【モニカ】
「いや、やつ等は魔族ではあるが吸血鬼の一族ではない。
前にも云っただろ、あいつらは夜魔なんだ」

【千夜】
「夜魔と吸血鬼ってそんな大きく違うの?」

【モニカ】
「勿論、吸血鬼一族にとって血は水のような物、定期的に得なければ体がもたなくなってしまう。
しかしそれは夜魔には当てはまらない、夜魔なんて殆ど人と同じようなものだからな」

【橘禰】
「ではどうして血を奪いになど来たんですか?
彼女にとって血などなくて困るものではないのでしょう?」

【モニカ】
「確かに、どうしても必要なものではない。
ただ、私の国には古くから云われていることが一つあるんだ。
胸の悪くなるような話になってしまうのだがな」

モニカはちらりと俺、千夜、橘禰さんの順に視線を向けた。
ここで誰かが顔をしかめていたのならモニカのことだ、会話を続けようとはしなかっただろう。

【モニカ】
「人の血にはな古くから魔が宿ると云われているんだ。
本来、人が魔術の類を使うことは出来ないとされている、魔族と人間の大きな違いはそこだ。
魔族の中で魔術を使えない者はいない、魔族にとって魔術は当たり前の存在だからな」

【刀満】
「んぅ? お前魔法かなんか使えるとか云わなかったか?」

【モニカ】
「ああ、そういったところの原理を説明すると長くなるから省くが
人の中でも稀に魔術の片鱗をもった者が生まれてくるんだ。
魔術と関わる内に体のどこかに情報が記憶され、その力は子へと受け継がれる」

【橘禰】
「遺伝ということですね」

【モニカ】
「まあそんなものだ、と、話が逸れてしまったな。
話を戻すと魔族にとって魔の力は当たり前、人にはその力がないのが普通。
しかし人には力が無いんじゃない、表に表れてきていないだけなんだという考えがあった。

では人にも宿っているとされる魔の力はどこにあるというのか?
ここまで云えばどう繋がるか想像に容易いだろ?」

なるほどな、だから人の血には魔が宿るなんて謂れがあるのか。
眼に見えないならどこにあるのか、一番簡単に納得出来るのは血なんだろうな。

【モニカ】
「殺人現場には殆ど血が無いと云っていただろう?
やつ等が血を抜き取った証拠だよ、人にそんな芸当が出来るわけがない」

【刀満】
「でもさ、それだと少しおかしなことにならないか?
どうしてカリスはこっちの世界に来たんだ? お前の世界だって人はいるだろ?」

【モニカ】
「人はいる、しかし私の国には私のような騎士がいる。
しかしこの国には騎士はおろか、魔を討てる者もいない。 どっちが血を得やすいかは一目瞭然だろ?」

【橘禰】
「それを追って貴女はこちらの世界に来たということですか」

【モニカ】
「そうなるな、こんなところで満足か?」

【千夜】
「はいはーい、しつもーん」

【モニカ】
「なんだ?」

【千夜】
「血を取りに来たってとこはわかった、血には何かしらの力があるってこともわかった。
だけどその血をどうするのさ? 飲むの?」

【モニカ】
「……」

僅かに渋い顔を見せる。
きっと出来るだけ触れないように話題を終わらせようとしたのだろうけど、やっぱり皆気にはなるよな。

【モニカ】
「……浴びるんだよ、直接柔肌にな」

【千夜】
「浴びるって……」

千夜の顔がさあっと青ざめたのがわかる。
飲むと云われてもきっとこうはならなかっただろう、それだけ浴びるという単語は強烈だった。

血を飲む姿と、血を浴びる姿。
どちらが戦慄を感じさせる状況なのかは想像するだけでわかる……

【モニカ】
「魔を直接取り入れるためには肌を通すのが一番効果的だと云われている。
口から魔を得ようとすると、体の中で反発が起こるとされているからな」

【刀満】
「とんでもない儀式だな……」

【モニカ】
「無残なものだよ、殺された人の体から流れる鮮血で血浴みをするんだからな。
出切ることならもう見たいものではない……」

そりゃそうだろうな……

だけど確かこの世界のどこかにも、古くはそんな美容法があるとか何とか。
俺の記憶が漫画や小説の中のことだったら良いのだけど……

【刀満】
「そうやって魔を得ると、そいつはどうなるんだ?」

【モニカ】
「待て待て、誰がそれで魔が得れると云った?
あくまでもそれは云い伝え、本当にそんなことをして魔が得られるかなんて私は知らん」

【橘禰】
「ですが実際にそういったことが起きているというのであれば、云い伝えは真実なのではないですか?」

【モニカ】
「どうだろうな……少なくとも私が今まで見た中に実際に魔を得たような奴はいなかった。
もしかすると、やつ等はそれを証明するためにやっているのかもしれんな」

【橘禰】
「理不尽な話ですね」

【刀満】
「眉唾かもしれない話にこっちが巻き込まれるのは気分悪いな」

【モニカ】
「だろう? だからこそ私がここに来ているんだ。
私の国の厄介事を、刀満たちの世界で振り回されたら申し訳ないからな」

【橘禰】
「大体のお話はわかりました。
では、最大の疑問をお聞きしても宜しいですか?」

【モニカ】
「なんだ?」

【橘禰】
「貴女、一体どうやってこの世界に干渉しているんですか?
それと、貴女は何者なんですか?」

……そういえば、いつの間にか俺にはそんな疑問がなくなっていた。
俺はカリスのこともほとんど知らなかったけど、同じようにモニカのこともほとんど知らない。

学園に行っている以外はほぼ同じ場所にいるせいか
モニカが異世界の存在であり、俺とは全く違う人間なんだということに疎くなっていた。

【モニカ】
「私の世界とこの世界を繋ぐ交差路が出来、それを通って私はこの世界に来た。
やつ等の方が先に、それを追って私が来た。 こんな説明しか出来んな」

【橘禰】
「その交差路というものは、今でも存在するんですか?」

【モニカ】
「存在自体はしている、ただ今の状態では入ることはおろか見ることさえ出来んさ。
私の力で穴を仮留めしてあるからな」

【橘禰】
「完全に塞がっているわけではないということですか」

【モニカ】
「塞いでしまっては私が帰れないだろう?
これでも、国に戻れば私もそれなりに忙しいんだ」

【橘禰】
「では続けてお答えください、貴女が何者であるのかを」

【モニカ】
「私は騎士だ、それでは不満か?」

モニカが自分の素性を示すときにいつも出てくる言葉、『騎士』。
騎士の中でも、団を率いる長だということは教えてもらっているが、それ以上のことは何も知らない。

それだけ知っていれば別に困ることも無いので俺は別に興味の薄い話題だ。

【橘禰】
「ただの騎士ではないはずです、貴女の国にいる一般級の騎士ならば
こちらの世界に容易く来ることができるはずがない、これは異常事態ですからね。
恐らくそういったことが許される立場か、上からの指示を受けるだけの人物。
どちらにせよ一般的な騎士に括ることが出来る身分ではありませんね」

【モニカ】
「……やれやれ、お前は妙なところで勘繰りが鋭いから困る。
お前の予想通り、私は国王直属の第三騎士団の長、一般的な騎士長ではないさ」

【刀満】
「国王直属……随分とまた偉い地位にいたんだな」

【モニカ】
「そのくらいの地位でなければ、こんな自由勝手に別世界に来れたりしないさ。
私は陛下の命を受けやつ等の始末に来た、ここまでは刀満にも話していないことだったな」

【刀満】
「知ろうが知らなかろうが困ることでもないだろ。
面倒なことは知らなくて良いし、どうせ俺がモニカに態度を変えるなんてしないし」

【モニカ】
「はは、お前らしいな」

【橘禰】
「私が知りたいことはそれくらいですね。
千夜様、何か伺っておきたいことはないのですか」

橘禰さんが千夜に話を降るが、当の千夜はさっきから青い顔のまんまだ。
やっぱり想像して相当応えたんだろうな、今日は肉食えないんじゃないか?

【千夜】
「あー、うん、今日はもう良いわ」

【橘禰】
「だそうです」

完全にグロッキーな千夜に変わって橘禰さんが受け答え。
あの千夜でもやっぱりこういった話は好きじゃないか、俺も好きではないがな。

【刀満】
「じゃあ次は俺から質問だ。 入瀬のあの力、あれはやっぱりカリスが与えたものなのか?」

【モニカ】
「他に何が考えられる? この世界にあんな芸当の出来る人間がいると思うか?
やつ等よりも早くにこちらに来てひっそりと仮初を演じていたという線もなくはないが
最も可能性として高いのはやつ等に力を与えられたんだろうな」

【刀満】
「あいつそんなことも出来るのかよ」

【モニカ】
「出来ないことはない、力の片鱗を与えれば後は覚醒するだけだ」

【刀満】
「小出さんのときとは違うのか?」

【モニカ】
「彼女に施されたのは完全な支配だ、そこに本人の自我はなくやつ等の思いのまま。
しかしあいつに与えられたのは力だ、あいつが好きなようにふるえる絶対的な力。
支配と独立、関わったのがやつ等であったとしても全く違うものだ」

【刀満】
「ということはつまりだ、カリスが死んだとしても入瀬には力が残るってことだ」

【モニカ】
「あぁ、だから面倒なんだよ。
出来る限り被害を出したくないとなど云ってたものの、確実に仕留めねばならん奴がいるんだからな」

出来るなら殺したくはない、しかし力を持ってしまった以上殺さなければならない。
モニカの騎士としての立場ではなんともやりきれないような心境なんだろうな。

【モニカ】
「一応私からも一つ聞いておこうか。 その入瀬という男、刀満たちとはどういう関係だ?」

【刀満】
「クラスメイトだよ、小出さんと同じくな」

【モニカ】
「はぁ……刀満の身近から二人も私は殺さねばならないとはな。
刀満、私が憎かったら好きなだけ憎んでくれて構わんからな」

【刀満】
「それがお前の使命なんだろ、だったら仕方ないさ。
お前が悪いんじゃなく、悪い現況を作り出したのはカリスなんだから」

俺の言葉を最後に、ぷっつりと会話が途切れてしまった。
全員が何を話そうかと思案し、あぐねている中で最初に口を開いたのは橘禰さんだった。

【橘禰】
「とりあえず、今日はこれくらいにしておきましょうか?
千夜様には少々刺激の強い話でしたから、顔色も優れませんし」

【千夜】
「うーん、元々そういった話は好きじゃないけど、よく刀満は平気な顔してられるね」

【刀満】
「そりゃまあ色々あったから」

俺も初めてカリスに殺されそうになったときは酷い顔してたさ。
それがほぼ毎日のように続いてくるといい加減感じ方も変わってくる。

【橘禰】
「後日また改めて対策を考えましょう。
当面の問題はカリスという少女と、入瀬という男性ですね」

【モニカ】
「おや、問題の中から私が抜けているな?」

【橘禰】
「少なくともその二人よりは危険度が低そうですから。
ですがまだ安心できるというレベルではありませんけどね」

【モニカ】
「疑り深い女だよ」

【橘禰】
「狐という者は元々警戒心が強いんですよ。
参りましょうか千夜様、今日は家に戻ってゆっくり眠られてください」

【千夜】
「そうさせてもらうわ、なんか想像しちゃってお昼とか食べられそうにないし」

あの食事は3食4食当たり前の千夜が食べたくないなんて、そこまで応えたか。

【千夜】
「じゃーねー」

【橘禰】
「失礼いたしました」

【モニカ】
「……刀満はなんともないのか? 気分が悪くなったり、食欲がなくなったりとかは?」

【刀満】
「お前と一緒にいたら自然と慣れたよ。
千夜はまだ昨日が初めてだったから免疫が弱かったみたいだけど」

【モニカ】
「騎士としては良い兆候だが、私がいなくなってからもそれでは何かと不便かもしれんな。
くれぐれも恐怖心というものを無くすな、もしなくしてしまえば刀満は人としてダメになる」

【刀満】
「恐怖心がないってのは良いことじゃないのかよ?」

【モニカ】
「莫迦を云うな、恐怖心が無くなれば人はそこに慢心が生まれる。
慢心は己を滅ぼすだけだ、どんな状況になったとしてもどこかに恐怖心は残しておけよ」

【刀満】
「お前も、残してるのか?」

【モニカ】
「……どうだろうな?
それがわからなくなっているということは、私はもうダメになっているのかもしれんな」

乾いた笑いをハハハっと見せた、モニカらしくない自信の失せた声だ。

【刀満】
「……うし、たまには俺もお前のトレーニングに付き合うか。
どうせ学園には行かないんだしな、それとも今日は休息日か?」

【モニカ】
「鍛練を怠る莫迦がどこにいる、お前がその気なら付き合ってもらおうか。
もうお前は騎士なのだからな、とびきりハードなやつをお見舞いしてやるぞ」

モニカの声に元気と張りが戻っていた。
うきうきでぶんぶん腕を振り回してやがる、ちょっと口が滑っちゃったかな?

ま、元気になったのならそれでも良いけどね。

……

【モニカ】
「今日はどこへ行く? あの川原でかまわんのか?」

【刀満】
「どこへでも好きなとこにどうぞ」

屈伸をしたり腕を伸ばしたり、ジャージを着ながらやってるとどうにも学園にいる気分になるな。
勿論俺がではなく、このちっさいジャージ女のせいでだが。

【刀満】
「ところで、お前そんな竹刀もって走るつもりか?」

【モニカ】
「どこか変か?」

【刀満】
「……まあ、気にならないなら良いけどさ」

普通は袋かなんかに包んでいくんだけどなぁ。

【モニカ】
「このくらいの負担がなければ、刀満が付いてこれないだろう?
ま、私にとってこんなもの大した負担にはならんがな♪」

【刀満】
「へいへい悪うございましたね……ぉ、そんじゃまあ一つ賭けでもしないか?」

【モニカ】
「またか、前の賭けも終わってないのにすぐほいほいと新しいのを出すな」

【刀満】
「今度は簡単だよ、俺とお前どっちが先に川原にいけるか勝負しようじゃないか」

【モニカ】
「どうしてお前はそう自分に不利な賭けばかり思いつくんだ。
カリスに勝てないくせにこの私に勝てるなどと……」

【刀満】
「勝ったら昼のおかず一品やるぞ」

【モニカ】
「ほう、やってやろうじゃないか」

本当に千夜同様扱いやすくて助かります。

【モニカ】
「はぁ、しかし、お前の考えの甘さは褒め称え……」

【刀満】
「おっさきー!」

【モニカ】
「ぁ、こら待て!」

……

最初のインチキという名の奇襲の効果もあってか、モニカと俺の間には十分な差が開いている。
もっとも、あれはモニカが手を抜いているから差があるのであって実際すぐに俺を追い抜くことは可能だろう。

それでも俺を抜かないということは、やらしい性格の奴だよまったく……

【刀満】
「最後に余裕持って抜く気だな、野郎……ならば!」

このまま直進し、何度か曲がれば目的地である川原にはたどりつける。
だけどそのままじゃ俺が勝てる見込みはない、じゃあこんな手を使うしかないよな。

本来の道とは違う、モニカにとってはイレギュラーである俺の道選択の変更だ。

【モニカ】
「なに! ……」

正規の道しか知らないモニカがこっちに来れば間違いなくロスが生まれる。
こっちに来ればしめたもの、こっちに来なくてもこっちはショートカットが可能なのだ。

【刀満】
「来ないか……じゃあ、今回ばかりは俺の勝ちかな?」

……まあ、それが甘い考えであるとは夢にも思わなかったのだけどさ。

……

【刀満】
「ぜぇ、ぜぇ……」

【モニカ】
「遅い、どこで遊んでいたんだ?」

俺がショートカットをしたというのに、モニカはけろっとした顔で俺を待ち構えていた。
こいつが本気を出したときの速度を俺は計算に入れ忘れていた。

というか、どんだけ速いんだよ……竹刀も持ってんだぞ?

【モニカ】
「これで昼食のおかず一品決まりだな、じゃあ早速始めようか。
ウォーミングアップは今ので十分だろ?」

【刀満】
「はぁ……わかったわかった、やれば良いんだろやれば!」

もうヤケのやんぱちだ、どうせ休ませろったって聞く奴じゃないし……

【モニカ】
「刀満、昨日のあれがまぐれでないこと。 見せてもらうぞ!」

【刀満】
「ちょ! ま、おあぁ!」

まだ剣も出していないのに、そんな俺を待たずにモニカは竹刀を振り下ろした。

がん!

【刀満】
「つうぅ……」

【モニカ】
「まだまだ!」

いつもと同じように間髪入れずに蹴りが飛んでくる。
素早く剣を下に下ろし、モニカの蹴りを剣で受け止めた。

【モニカ】
「第一関門突破だな、じゃあ次はこれでどうだ!」

続いては横薙ぎ、もう一度同じように剣で受け止めた。

【モニカ】
「それは、間違いだ!」

モニカは竹刀を捨てると剣を握る俺の手を弾き落とした。
痛みで剣を握っていられなくなり取りこぼすと、モニカの一手は早い。

素早く腕を取るとあっという間に体を回転させられ、気がつけば視界の上にモニカの顔が見えた。

【モニカ】
「残念だったな」

【刀満】
「まったくだ……」

【モニカ】
「しかし、昨日まではまったくついてこれなかったというのに
やはり昨日の一戦だけで少し成長しているようだな、ほら」

モニカの手をとって立ち上がり、ぽんぽんと背中に付いた汚れを落とす。

【刀満】
「あんな風に回されたらどうしようもねえよ」

【モニカ】
「腕を取られるとわかったら、体重全てを私の方にかけろ。
回されるよりも速く私を押し倒せ、そうすれば刀満が上になるから有利に運べる」

【刀満】
「押し倒せって……」

一応お前も女の子なんだからさ、少しは気にしろよ。

【モニカ】
「まあ、滅多なことじゃまわされることなんて起きんさ。
そんなことをするよりも、心臓を貫いてしまえば良いのだから」

【刀満】
「あっさりと解決策が無いこと云うなよ……」

【モニカ】
「万が一のためだ、いつどこで何が起きるかわからんのだからな。
さあ、早く剣を持ち直せ。 様々なパターンに対応出来るようになってもらうからな」

最初からハードだとは云ってたけど、今日は本当に色々と覚悟した方が良いかもな……

……

【橘禰】
「お茶でも淹れてきましょうか?」

【千夜】
「うん、お願いしようかな」

【橘禰】
「かしこまりました」

軽く頭を垂れ、わざわざ音が立たないように扉を閉めてくれた。
そこまで気を使う必要はないのだけど、やっぱり私の体調を気にしてのことだろう。

【千夜】
「はぁ……」

ベッドに体を沈ませ、モニカの言葉を思い返してみる。
モニカの云っていることは、普通に考えたら莫迦じゃないのの一言で片付けられるものだ。

だけど、そんな一言で片付けられないことであることもまた事実。
聞くだけならまだしも、昨夜の刀満と入瀬を見てしまっている以上全てが事実なのだ。

そんな現実離れした中に、どうして刀満は身を置いているのだろうか?

【橘禰】
「お待ちどう様でした」

【千夜】
「ありがと、橘禰も一緒に飲もう。 ついでに話に付き合ってよ」

【橘禰】
「それでは私も呼ばれます、まだお休みになるような気分ではありませんか?」

【千夜】
「うん、考えることがいっぱいあってね。
……橘禰はどう思う? どうして刀満はあんなことしてるんだろう?」

【橘禰】
「それは、私にもわかりかねますね。
刀満様にとって彼女と一緒にいること自体が弊害であるはずなのに
それでも一緒にいるということは、何かしらの理由があるのでしょうね」

【千夜】
「何かしらねぇ、付き合ってるとか?」

【橘禰】
「それは私の知るところではありませんね、ですが少なくとも恋人同士ということはないと思いますよ。
云うなれば、そうですね……」

【千夜】
「いや、そういうのは聞かなくて良いや。
……刀満って、誰のためにわざわざ身を危険に晒してるんだろ?」

【橘禰】
「それだけははっきりしています、あの少女のため、でしょうね。
そうでなければ、わざわざ私の忠告を無視してまで彼女を庇う理由が見当たりません」

……なるほど、なんともややこしい関係になってるわけだ。

【千夜】
「橘禰はどうするの、刀満達に協力する?」

【橘禰】
「それがこの街の脅威であるのなら、協力は惜しまないつもりですよ。
それが千夜様の命であれば尚更ですが」

【千夜】
「……私達も、云うならば刀満達と同じような関係だよね」

【橘禰】
「ふふ、そうかもしれませんね」

【千夜】
「……ありがとう、とりあえず一眠りさせてもらうわ」

【橘禰】
「はい、お休みなさいませ」

またさっきと同じように頭を垂れ、音を立てないように扉を閉めた。
今の私が何を考えているかなど、橘禰にわかるはずがない。

逆にわかってしまったら何を云われるかわかったもんじゃないしな。

行動は速めに移した方がいい、そのためにも今はさっさと寝てしまおう。
今日の夜は、長くなりそうだ……






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