【Vin et une gavotte】


カチャ、カチャ、カチャ……

石廊を歩く足取りがいつもより重い。
勿論身にまとった装具のせいではない、これは気持ちの問題だ。

たぶん誰も私を責めるものはいないだろう、世の中には数のルールというものがある。

基本的に数は多ければ多いほど良い、もうすぐに三桁になろうという数を相手に
我々五人で迎え撃ったんだ、無謀とも思える数の絶対的不利。

しかし、そんなルールがあったからなんだというのだろうな……

部下は全員兵士宿舎に送らせ、今頃は色々と準備に取り掛かっているだろうな。
主君の言葉をかけてもらえないのは残念ではあるだろうが、仕方がないか。

カチャ、カチャ、カチャ。

石廊の一番奥、そこには勿論扉がある。
両サイドに二人の兵士を見張りとして立たせている、ここがそうしなければならない場所なのだから当たり前だ。

【兵士】
「モニカ様、出撃ご苦労様です」

【モニカ】
「陛下は御在室か?」

【兵士】
「はい、謁見ですか?」

【モニカ】
「頼む」

兵士たちは扉を開け、私が体を進めるとすぐに扉を閉めた。
これもいつもの決まりきった出来事、この扉が十秒も開いていることはほぼないに等しい。

扉の先からまっすぐに伸びた赤い絨毯、縁には金の刺繍が施してある。
その絨毯の先、その先にあるものなど決まりきっている。

玉座だ。

この国の王が鎮座するための玉座、勿論玉座には王の姿があった。
ここまで来たら重い足取りなどを見せてはならない、堂々とした一歩で王の前へとひざまずく。

【モニカ】
「失礼いたします」

【国王】
「うむ、してどうであった?」

【モニカ】
「は、被害がゼロとは云えませんが、街への被害はほぼ皆無といって宜しいかと思います。
怪物の群れを指揮していたのも低級な魔族でしたので、統制など殆ど無いも同然でした」

【国王】
「無いも同然とはいえど、その数は決して少なくはないと伺っているが?」

【モニカ】
「私の兵は北の戦場へ向かわせてしまっていましたから、残した兵士四人で
迎え撃った数は百いるかいないか、数字で云えば圧倒的不利は間違いありません。
しかしあの街は門が唯一の進入経路、そこを死守してしまえば難しいことはありません」

【国王】
「さようか、僅か五人でその数を相手に被害が無いのなら大したものだ。
さすがはそなたの師団だな、その兵たちにも労をねぎらってやりたまへ」

【モニカ】
「ありがとうございます……ただ、最初に云いましたとおり被害はゼロではありません」

【国王】
「ほう」

【モニカ】
「私が門を制圧しているうちに、街へと向かってしまった怪物の相当に向かわせた兵が一人
怪物に深手を負わされ、城へ戻りつくころにはもう……」

【国王】
「そうか……まことに残念なことだな」

【モニカ】
「申し訳ありません、指揮官である私がもっと上手く鍛え指揮していれば」

【国王】
「そなたが悪いのではなかろう、死んでしまった兵士には申し訳ないが運が悪かったとしか云えまい。
戦いとは常にそういうもの、いつどこで自分が死んでしまうかなんてわからなくて当然なのだからな」

【モニカ】
「陛下からそう云って頂けると多少なりとも荷が降ります……」

【国王】
「師団の者を大事に思う気持ちは真に素晴らしいことだ、だが兵士が一人死ぬごとにそんなことを悩んでいるようでは
騎士団の長を務めるには心が弱すぎるぞ」

【モニカ】
「しかし……」

【国王】
「そなたの云わんとしていることはわかる、だが騎士団の長というものは誰しもそんな気持ちが必要なのだ。
兵士を敬う心、それと同時に冷酷とも取れそうな冷たさ、その二つを持ち合わせない長に兵士は付いてこない、わかるな?」

【モニカ】
「……はい」

【国王】
「とにかくご苦労であった、そなたも今日はもう休みたまへ」

【モニカ】
「は!」

ひざまずいていた膝を立ち上がらせ、陛下に深々と頭を下げてから踵を返す。

【国王】
「……モニカよ」

陛下が私を呼び止めた、しかしここで私が振り返ってはならない。
どうしても伝えたいことなら、話を一度切る前に全て話されるはずだからだ。

つまりこれは、陛下の独り言と受け取れということなのだ。

【国王】
「いつまでも、騎士団の長を努める必要などは無かろう……
男であるあいつが団を引いている以上、お前が団を引く必要など……」

【モニカ】
「……」

【国王】
「騎士の誇りをお前に教えたのは私だが、自分の立場もいつかはわきまえてくれよ。
お前は騎士である以前に、おん……」

【モニカ】
「失礼します」

陛下が何を云おうとしているかなどすぐに理解できた。
しかし私がその要求を聞くことなどありえない、何故なら……

私は『騎士』なのだから。

……

【モニカ】
「はぁ、はぁ、はぁ……!」

息苦しさに慌てて体を起こすと、先ほどまで見えていた城の面影などどこにもない。
いつも通りの私が宿借りをしている刀満の家だ。

【モニカ】
「夢、か……」

夢であったことに対する安堵に胸をなでおろす。
それと同時に、夢であったという事実に残念に思う気持ちも存在していた。

まだまだ私はこの世界にいる、私がいるべきではないの世界に、だ……

まだまだ外は暗い、きっと眠りについてそれほどの時間は経っていない。
夜明けが訪れるのもまだ先のことだ。

【モニカ】
「今更、あんな夢を見るか……」

額に浮いていた汗を拭い、再びベッドに体を倒す。
ポフっと柔らかい感触が背中にじんわり浮いた汗と衣服を密着させてひんやりとした寒気を感じさせる。

【モニカ】
「国でも、もう何年も見ていなかったのにな……」

そもそも私は夢を見ることがなかった。
どんな原理で夢を見るかなど私は知らないが、数年前に最後の夢を見て以来夢を見た記憶は無い。

それで困ったこともなく、むしろ夢を見てしまうと眠った気がしなくて好きじゃない。
それを今になってあんな夢を、か……

【モニカ】
「それもこれも、全部刀満のせいなんだろうな……」

昔は何度かあの夢を見たこともあったのだが、数年前に最後に見たのもあの夢だ。
久しぶりに見た夢がまさかあの夢になるとは、やはりまだ私は諦めきれていないのだろうな。

【モニカ】
「はぁ……夢なんかで感傷的になれるほど、まだ私には余裕がないというのに」

しかし、夢があそこで終わってくれたのはせめてもの救いだった。
いつも見ていたあの夢と同じ展開ならば、きっとあの時と同じ場面をまた見てしまう。

出来ることなら見たくはない、だが本当に見たくないかと云われれば全く見たくないわけでもない。
本当に、どうして都合悪くあの場面しか夢を見ないのだろうな?

【モニカ】
「……難しく考えたって仕方がないか、寝てしまおう」

そうだ、こんな時は眠ってしまうのが一番だ。
しっかり寝て、朝になればまたいつもの私に戻れるはずだ。

この夢を見た後の私は、いつもの私ではいられなくなってしまうのだから……

……

【刀満】
「んぁ……?」

カーテンの隙間から差し込んだ陽光が眼を刺激する。
目覚ましは鳴っていない、腹部に嫌な痛みもない、つまりまだ起きる時間より早いということだ。

【刀満】
「ふあ、ぁあ……目覚ましより先に眼が覚めるのって損した気分だな」

だからといってもう一度寝てしまえば起きる自信はない。
ここで眠ること = 千夜の鉄拳のコースが確定するのはいただけない。

【刀満】
「仕方ない起きる……か?」

もに

起き上がろうと腕を伸ばすと、手の平になんだか普段ではありえない感触。
クッションのような柔らかさ、それでいて人肌のような優しい温もり。

……というよりも、人肌その物ようなこいつは。

【女性】
「くぁー……」

女性の胸だ。 俺の手は女性の胸に沈んでいた。
俺の布団の中、俺の隣で女性が眠っていた、なんとも無防備で云い方を変えるとなんともだらしない。

冷静に状況を確認していく間も、手は女性の胸の上。
壊れないのが不思議に感じるこの柔らかさと温もり、そのまま俺の思考は停止に追いやられ……

だぎゃああああああああああああぁぁぁぁっ!

絶叫と共に慌てて手を離し、女性が眠っているベッドから這うようにして抜け出した。

【刀満】
「こ、こいつはなんてことしてやがるんだ」

男が寝ているベッドに何故わざわざ寝に入ってくるんだ?
しかもなんだその格好は、上はブラウス一枚、下は下着だけじゃないか。

その証拠に部屋の入り口からベッドまでの短い間に脱ぎ散らかされた服が散乱としていた。
人がこんなに困惑して動揺してるのに、当の本人は気持ち良さそうにまだ寝てやがる。

そもそも、何でこいつが俺のベッドに?

【刀満】
「そんなことはまた後で考えよう、とりあえず落ち着いて……」

【モニカ】
「どうした刀満! 敵襲か?!」

【刀満】
「も、モニカ!」

うわぁ、タイミング最悪。 ここだけは止めてくれというタイミングにピンポイントで現れたよ。

【モニカ】
「叫び声がしたが、なんともないのか?」

【刀満】
「な、なんでもない! なくはないけどとにかくなんでもない!」

【モニカ】
「……ほう、なるほどな」

さっきまでの真剣な剣幕はどこへやら、ゆったりとした足取りで俺の元へと足を進めた。

【モニカ】
「叫び声が聞こえたから来てみれば、これはどういうことかな?」

【刀満】
「待て待て、勘違いしてると思うから一つずつ説明するとだな」

【女性】
「むうぅ、ふぁーぁあー……」

騒々しさに女性が起きた、ベッドから気だるそうにむっくりと起き上がる。
ずり落ちた掛け布団の中からはブラウスと下着だけのなんともあれな姿……

【モニカ】
「刀満、昨日あれだけ死線に入り込んでおきながら、私の眼を盗んで女遊びとは良い度胸だな」

いつの間にかモニカの手には剣が握られている。
まさかこいつ、怒りが沸点に達しているんじゃなかろうな?

【刀満】
「物騒なもんだすな! きちんと説明するから、とりあえずそれしまって」

【モニカ】
「問答無用だ!!」

いやあぁあ!!!!!

ガっチャーン!!!!!!!!!!!…………

……

【モニカ】
「姉君、だと?」

【刀満】
「そうだよ、嘘じゃないからな。
正真正銘俺と血の繋がった実の姉さんだ」

真っ先にそう云ってしまえばこんなことにはならなかったんだろうと今も後悔。
体のあちこちが痛い、どっか一本くらいイってんじゃなかろうか?

【モニカ】
「……この国では血の繋がりがあろうとも交わりをもてるのか?」

【刀満】
「もてるわけないだろ! そもそも姉さんとなんか交わってないし!!」

【モニカ】
「あんな現場を私に見られておいて、筋の通った弁解なんて出来るのか?」

【刀満】
「どうして姉さんが俺の布団に入ってたかなんてしらねえけど
着てた服を脱ぎ散らかして寝るのはあの人のクセだ、相当昔からだからきっともう直らない」

【モニカ】
「その一番重要な場所が抜けているじゃないか、意味もなくお前の布団になど入らんだろ?」

【刀満】
「そんなの姉さんに聞いてくれよ、とりあえず俺は無実だ!」

【姉】
「ふぁ、ぁあぁー、もー朝っぱらから煩いなぁ……」

自分が騒ぎの元凶であるなど露知らず、能天気に抜けた声で姉さんが下りてきた。

【刀満】
「って待てや、ちゃんと下穿いて来い!」

【姉】
「煩いなぁもう、どうせ刀満しか男いないんだから良いじゃん……」

【刀満】
「だからって下着でくんな! あぁもうしょうがない!!」

この格好でうろつき回られたらたまったもんじゃない。
一番手近にあったバスタオルを姉さんの腰に巻きつけ、下着が見えないようにきつく縛ってあげた。

【モニカ】
「手際が良いな、しかしそこまで慣れていながら
私の服も脱がせられないというのはどういうことかな?」

【刀満】
「からかうなよ、姉さんとお前じゃ付き合いの長さが違うだろ」

【姉】
「あんまおっきい声出さないでよ、まだ眼が覚め切ってないんだから、ふあー……」

盛大に欠伸を見せ、ぼさぼさの髪をわしわしとかきあげた。
全部ピシッとしてれば姉さんだってきっと引く手数多なのに、こんな裏があったんじゃどうしようもないな。

【姉】
「ところで刀満……この子どこでさらってきたの」

あんたもか……俺ってそんな異人さんにでも見えるんだろうか?

【刀満】
「モニカ、掻い摘んで説明してやって……俺もうヤダ」

【モニカ】
「そう云われてもな……ええとなんだ、しばらく訳ありでここに住まわせてもらっている。
心配しなくとも刀満にさらわれたわけじゃない、むしろ助けられたと云った方が良いか」

【姉】
「刀満が人助け、珍しいこともあるのね」

そりゃないぜ、あんたが家にいるときはいつも姉さんを助けてあげたじゃないか。
むしろ俺は姉さんのヘルパーさんみたいな感じだったじゃないか……

【姉】
「貴女、名前は?」

【モニカ】
「モニカ、本当はもっと長いんだがそうとしか呼ばれないからそれで問題ない」

【姉】
「モニカちゃんか……可愛らしい名前ね」

【モニカ】
「止してくれ、名前なんぞ褒められても嬉しくない」

【刀満】
「そういう時は素直に喜んでおけ、社交辞令ってやつだ」

【法子】
「私は法子よ、こいつのお姉ちゃん。 よろしくね」

【モニカ】
「よろしく」

【刀満】
「そういえば姉さんさ、何で俺の部屋で寝てたんだよ?」

【法子】
「だって、夜中に帰ってきて私の部屋に行ったら誰か寝てたんだもの。
てっきり刀満の部屋だと思って隣の部屋に行って寝たのさ」

なるほどな、モニカが寝てたから俺の部屋と間違えたっと思ったわけだ。
だけど自分の部屋の内装見ればなんとなくわからないもんかね?

【法子】
「酔ってたから細かいとこは覚えてないし、朝になってみれば
ベッドに刀満がいてちょっと驚いた」

酔っ払ってたって、姉さんあれほど外で飲んだらいかんって云ってあったのに。
なんせちっさい缶ビール一本飲んだだけでへべれけになるくらいだもんな……

ぐうぅぅぅ

【刀満】
「……」

【モニカ】
「何で私を見る? 私じゃないぞ」

ぐぎゅるうううう

【刀満】
「……」

【モニカ】
「今のは私だ」

【法子】
「さっきのは私ー、刀満お腹減ったー……」

【刀満】
「はいはい……」

どうして俺の近くにいる女の人は皆腹ペコばかりなのだろう?
俺は賄い婦じゃないっての……

とは思うものの、俺がしなけりゃ誰も朝飯を作りそうにもないから俺が作るしかない。
モニカに少しくらい手伝わせても良いんだろうけど、なんか姉さんと話しをしてるし邪魔しちゃ悪いか。

とりあえずいつも通り卵焼いて、パンをトーストして。

【刀満】
「姉さん、今日はフレンチトースト? それとも小豆?」

【法子】
「フレンチトーストにあんこ乗っけて食べる」

また高カロリーで甘いお菓子を指定してきたな。
姉さんが朝食べるのはフレンチトーストか小倉トーストと決まっている。

そのため、一般家庭にはまずないであろう小豆のチューブが常備されている。
勿論姉さんしか使わないから恐ろしいほどに減りが遅い、前のは賞味期限が切れてたからこの前わざわざ買いに行ったんだ。

姉さんには何か食べさせておけば一応は大人しくなるので、まずは姉さんのフレンチトーストをサクサク作る。
これももう慣れたもんだ、チーズを絡めるタイプもあるらしいけど姉さんが毛嫌いしたらもったいないしな。

手際よくフレンチトーストを仕上げ、濃いめの紅茶と一緒に姉さんの前に。

【法子】
「おまちかね〜♪」

待ってましたといわんばかりにメープルシロップをフレンチトーストに回しかけ
その上からマヨネーズなんかをかけるみたいにウニウニとフレンチトーストへ。

見るだけで俺には甘さが脳天まで響きそうだよ……
メープルシロップとあんこの組み合わせってたぶん甘さの唯我独尊状態なんだろう。

【法子】
「う〜ん、このくらい甘いと疲れも吹き飛ぶねぇ」

俺には疲れと一緒に意識までも吹っ飛びそうな気がしますよ姉さん。

【モニカ】
「……刀満、私にもそれを作ってはもらえないか?」

【刀満】
「いぃい! 止めとけって、それは姉さんだから食べれるようなもんで
モニカじゃ甘すぎて気持ち悪くなるだけだぞ」

【モニカ】
「それは刀満が甘さを抑えてくれれば良いだけではないのか?」

【刀満】
「まあ、シロップ減らしてあんこ乗せなきゃ良いか……」

【モニカ】
「それじゃあ頼む」

【法子】
「これ結構クセになるよ〜」

姉さん、日本広しと云えどもそんなものを常食するのはきっと姉さんだけですって……

……

【モニカ】
「ケフ……確かに、少量ならばクセになるかもしれんな」

あの後モニカの皿にも姉さんが無理やりあんこを乗せやがった。
一応遠慮があったのか本当に少しだけ、スプーン半分くらいならまあ許してやろうか。

【刀満】
「きっとあればっか食べてたら病気になるから、極々たまににしておけよ」

【モニカ】
「そうかもしれんな、だが何度か話に出てきてはいたが、良い姉君ではないか」

【刀満】
「外面ってのは誰だって良く見えるもんなのさ。
日常の姉さんと一緒にいたらもう……俺は殆ど世話人だよ」

【モニカ】
「それだけお前を頼りにしてくれているということだろう?
良いもんだぞ、人に頼られるというものはな」

そりゃ頼られて悪い気はしないけど、何でもかんでも頼られるほど俺も出来てない。
生理用品ぐらい自分で買いに行けよ、何でそれも俺が買わなけりゃならないんだい……

【法子】
「そういえば刀満、学校行かなくて良いの? 今日金曜日でしょ?」

【刀満】
「千夜が今日は一緒にサボれって云うから、サボった」

【法子】
「刀満でも学校サボるんだ、私と違ってそういうとこ変に真面目だから初めてじゃないの?」

【刀満】
「そうでもないな、一人暮らしだとわりと行かないこともなかったりあったり」

【法子】
「結構結構、社会に出たらそんなことも気軽に出来なくなるんだから
今の内にどんどんしておきなさい、お母さんたち泣いてるけど」

あんたは俺にどうしてほしいんだよ……

ピンポーン

【千夜】
「お邪魔ー♪」

チャイムだけ鳴らして良いとも云ってないのにどかどか入ってくるこの遠慮のなさ。
俺の家だから良いものの他の家で……俺の家だからこそきっとやってるんだろうな。

【刀満】
「良いとも云ってないのにどかどか入ってくんなよ」

【千夜】
「固いこと云わない、って法子さんだ」

【法子】
「やっ、お久」

【千夜】
「お久しぶりです、もっと早く戻ってくるはずじゃなかったんですか?」

【法子】
「私にも色々あってね、昨日夜遅くに帰ってきたの。
朝起きたら刀満の布団の中でびっくりした」

【千夜】
「あぁー、なるほど……酔ってたんだ」

姉さんが酒弱いことを知っていてくれて助かる。
もし知らない人が聞いたらきっと俺だけが悪者にされかねない。

【橘禰】
「こんにちは」

【刀満】
「あ、橘禰さんも来たんだ」

【橘禰】
「千夜様にお憑きするのが私の仕事ですからね」

【法子】
「なになに、私がいない間にどうしちゃったのこれは?
あの女の子の免疫ゼロだった刀満が、こんなにたくさん女の子に囲まれて」

その免疫をゼロにしてくれたあなたが云いますか……
だけど俺の人生でここまでたくさんの異性が周りにいることってたぶん初めてだな。

……その中に誰一人まともなのがいないのを喜んで良いのか哀しめば良いんだろうか?

【法子】
「ふぁあぁ……お腹膨れたら眠くなったよ、一眠りするから刀満の部屋借りるよ」

【刀満】
「どうぞ、くれぐれも裸で寝んなよ」

【法子】
「そのときになってみないとわかんないにゃー……」

いやわかるだろ、あんたが脱がなきゃ良いだけだ。
その前に、姉さん仕事は?

【千夜】
「なんか法子さん、色々とパワーアップしてるね」

【刀満】
「あれ以上パワーアップしたらもう手がつけらんねえよ」

【モニカ】
「賑やかで自由な姉君だな。
さて、これで昨日の夜を知っている者が全て揃ったというわけだ」

【千夜】
「そうね、それを聞きに来たのが私の第一の目的だし」

【橘禰】
「ですが千夜様、千夜様がそれを聞かれてどうするつもりなのですか?
まさかとは思いますけど、千夜様もこちら側に立とうというつもりでも?」

【千夜】
「それは話を全部聞いてから考えれば良いことよ。
私はまだ教えてもらってないことがいっぱいあるんだから」

【刀満】
「どこをどう話せば良いんだ?」

【千夜】
「刀満が知ってること全部、それと刀満の話によく出るカリスってことのことも詳しくね」

【刀満】
「カリスのことって云われてもな……」

そもそも、俺はカリスの何を知っているんだ?
初めて会った時には殺されかけて、その後も会うたびに殺されかけての繰り返し。

魔族で夜魔であるということ以外、俺にはカリスに対する知識は無いも同じだ。

【刀満】
「そういえば、何でカリスがこっちに来たのかってまだ聞いてなかったな」

一度そういう話にはなったが、モニカが聞かなくても良いことと云って話さなかったことがあったな。

【刀満】
「もうそれなりの付き合いにもなったんだし、聞けば教えてくれるか?」

【モニカ】
「教えないことはないが……前にも云ったとおり、聞かない方が良い話だ。
この世界ではまずありえない、私の世界でも異常の一言で片付けられる話だからな」

【刀満】
「いい加減目的くらい聞いておいても良いころだろ。
それにもう異常には慣れっ子だよ」

【モニカ】
「……お前はどうなんだ? 千夜に教えてしまっても良いのか?」

【橘禰】
「あまり好ましいことではありませんが、正直私もそのことについては興味があります。
目的がわかっているかいないかでは対策のとりやすさも変わってきますのでね」

【モニカ】
「やれやれ、お前たちも私と一緒にいてどこかがおかしくなり始めてきたのかもしれんな……」

はははっと小さく自傷気味に笑い、はあっと大きく息を吐いた。

【モニカ】
「まず、やつ等の第一目的から話すとだな……」






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