【Flame dance night "The first part"】


【モニカ】
「そういえば、気になるニュースをやっていたな」

【刀満】
「焼死体が何とかってやつか?」

【モニカ】
「それだ、怪死に続いて焼死とは、これも奴等の影響かもしれんな」

【刀満】
「あれもカリスの仕業だと?」

【モニカ】
「どうだかな」

モニカの表情を伺ってみても、当然のごとく何にも読めてこない。
元々表情から何かを読み取る力なんて俺にはないし、モニカは結構表情の変化が激しいから当てにならないか。

【モニカ】
「しかし、奴は何のことを……」

【刀満】
「なんか云ったか?」

【モニカ】
「独り言だ、気にするな……なあ刀満、お前にとって予想外の出来事と云われて心当たりあるか?」

【刀満】
「どうした急に? 俺にとっての予想外なんてまずお前の存在じゃないか」

【モニカ】
「ふむ、それもそうか。
私とお前の出会いに作為が加えられていたと考えたことはあるか?」

【刀満】
「なんか難しいこと云うな、俺とモニカの出会いが仕組まれたことだったと?」

【モニカ】
「つまりはそういうことだが……いや、なさそうだな」

俺は全く納得できていないが、モニカは一人で納得したのかうんうん頷いたりぶんぶん頭を振ったりしていた。
モニカの悩みなんて、俺なんかでは考えられないくらい深刻なことなんだろう。

俺よりも小さい……見た目は小さくとも一集団のリーダーをまかせられくらいだ。
きっと悩みだって尽きないのだろうさ……

【刀満】
「……あのさ、今度どっか行くか?」

【モニカ】
「は?」

明らかに何を云っているんだ? って顔された。

【モニカ】
「お前な、今がどんな状況だかわかって云っているのか?
気を抜けばいつ死んでもおかしくない、そういう状況だということを忘れたか?」

【刀満】
「いやさ、そうやって気を張り詰めすぎると大事なときに付けがくると思ってさ。
たまには息抜きみたいな日があっても良いんじゃないか?
モニカが自分の国にいるときだって休暇くらいはあったんだろ?」

【モニカ】
「あるにはあったが、だからといって遠出をすることなんてなかったぞ。
いつ何が起こるかわからない以上、城を空けるわけにはいかなかったからな」

【刀満】
「だろうな、だけどそれは向うの日常だろ? こっちの日常じゃない。
折角こっちにいるんだから、こっちの文化や日常に触れるのも良いんじゃないか?」

【モニカ】
「……」

暗くてはっきりとは云えないが、黒目を大きくさせ、ぱちくりと瞬きをしている。
なんだ、俺そこまで呆れられるようなこと云っちゃったか?

【モニカ】
「それはなんだ、私を逢引きにでも誘っているのか?」

【刀満】
「そんな下心があるように解釈するなよ。
二人が嫌なら千夜でも誘うか?」

【モニカ】
「お前一人で行けば良いじゃないか」

【刀満】
「あのな、こんな近くに居候がいるのにわざわざ一人で出かけるなんて
なんとなく寂しいだろ?」

これは本音だ、実際一人で外出することはあまり多くない。
食料品を買うくらいなら一人でも良いが、息抜きに遊ぶのに一人はちょっとさびしんだこれが……

そういったときに声をかけられる手軽な友人が千夜しかいないので
毎回俺の隣にいる友人は千夜だったけど、こいつといっしょに行っても案外面白いかもしれない。

……うん、これにはどこにも下心なんてないよな。

【モニカ】
「行くといったって、どこかあてでもあるのか?
わかりきっていることだが、私が行きたいところなんて思いつかないからな」

【刀満】
「決まった場所に行く必要もないだろ、休日に街をぶらぶらする。
それくらいの方が息抜きにはちょうど良いんじゃないか?」

【モニカ】
「そんな実りのないことをしているくらいなら、鍛練でもしていた方が良い。
それに私はどうやってもこの世界には馴染めんさ、そういう女だからな」

【刀満】
「強情だな、だったら一つ賭けでもしてみるか?」

【モニカ】
「ほう? で、何で賭けをするつもりだ?」

【刀満】
「そうだな……もし、モニカが一回でも俺に助けられることがあったら
翌日俺と一緒にどっか行くってのはどうだ?」

……おやおや? なんか自分で云ってて雲行きが怪しくなってきたぞ。
これじゃあ俺がモニカといっしょにどっかに行きたいみたいじゃないか。

……まあ、行きたくないことはないが。

【モニカ】
「莫迦莫迦しい、それはつまり私が刀満に遅れをとるということだろう?
そんな可能性が万に一つでもあると思うか? それでは賭けにならんじゃないか」

【刀満】
「万に一つ億に一つだとしても、可能性ってゼロじゃないんだぜ?」

【モニカ】
「……格好良く決めたつもりだろうが、それはお前の勘違いだ」

さらっと流してすたすた足を早めてしまう。
に、二重苦だ……

……

【刀満】
「で、結局さっきの賭けはのってくれるのか?」

【モニカ】
「そんな限りなく可能性の低い賭け、やるだけ無駄だ。 諦めろ」

【刀満】
「だったら了承してくれたって良いじゃないか、どうせ実現しないんだから」

【モニカ】
「たくっしつこいな……わかったわかった、のってやるよ。
だが実現できないことをいつまでも待つほど、お前も暇なんだな」

……うん、俺もなんとなくそう思う。

【モニカ】
「嫌々ながら賭けをのんでやったんだ、私の益は何かないのか?」

【刀満】
「じゃあお前にも何か賭けを出してもらおうか。
なるべく実現不可能な賭けは……」

【モニカ】
「おい待て、どうして最初から実現不可能なものに的を絞るんだ」

【刀満】
「俺の実現が難しいのに、モニカのだけ簡単だと不公平だろ。
そうだな……よし、俺とそれから千夜が満足する夕飯を作れるようになる、これが良いな」

【モニカ】
「気の遠くなるような話だな……
じゃあ私の成功報酬は、お前との逢引だ。 これで文句ないだろ?」

【刀満】
「は? それってどっちが成功しても……」

【モニカ】
「どっちも成功しないから、結局は意味が無いということさ。
さあこの話はもうおしまい、いい加減職務に戻るぞ」

やっぱり、よくわかんない女だよこいつは。

……

【モニカ】
「クン……おい、待て」

すっと腕を伸ばして俺を制止させる、何か気になることがあったのだろう。

【刀満】
「どうした?」

【モニカ】
「僅かだが、妙な匂いを感じないか?」

【刀満】
「匂い? ……別に変わった匂いはないんじゃないか?」

いつも通りの街の匂いだ。

家から漏れてくる晩御飯の匂い、木々の香り、人工的な香料の匂い。
街にはいくつもの匂いがある、大体不快になるような匂いしかないが、今日もいつものそれと同じだ。

建物のコンクリートの匂い、車の排ガス、何かの焦げる匂い、鉄くずの不快感など等……

【刀満】
「……焦げる匂い?」

【モニカ】
「気付いたか。 今この状況において、もっとも似つかわしくない匂いだ」

【刀満】
「おい、もしかしてこれ」

【モニカ】
「行くぞ!」

……

【刀満】
「はぁ、はぁ……」

女のくせに俺よりもずっと足の早いモニカの背を追うのがやっと。
50メートル位楽に離される始末、これでとりえが逃げ足とはよく云ったもんだ……

【モニカ】
「……」

モニカは土手を駆け下り、橋の下に出来たビニールシートの小屋で足を止めた。
たぶんホームレスか家出娘か無宿人の住処だろう。

【刀満】
「はぁ、ふぅ……」

【モニカ】
「くそ……」

周囲に立ち込める焦げた匂い、布、草、そして……肉。
足元に転がっている塊、これはたぶん人だろう……

とてもじゃないが、もう人だとは云えない……

【刀満】
「うぐ……」

胃から何かが戻ってきそうになるのを必死で堪え、辺りに漂う異臭を防ぐために袖で鼻を押さえた。

【モニカ】
「まだ焼け切ってそう時間は経っていない。
さて、一体誰が犯人か……」

【刀満】
「カリスの仕業なのか?」

【モニカ】
「まだ決められん、奴が犯人である可能性もあるが。
最近の事件を真似た模倣の可能性もある、もしくは自殺。 可能性は一つも消えんさ」

【刀満】
「それじゃあ、どうしようもないな」

【モニカ】
「お前の世界ではお手上げだろうな、だが私はお前たちとは違う。
都合良く死体もある、これなら『見る』ことが私にはできる」

『見る』

モニカがそこをあえて強調した、それはつまり俺が思っているような
『見る』とは次元の違う話ということなんだろう。

【モニカ】
「あまりお前が見ていて気持ちの良いもんじゃない、見ない方が良いぞ」

【刀満】
「……いや、我慢するよ」

【モニカ】
「ふ、何で我慢なんてする必要があるんだか」

モニカは焼死体の頭であろう部分を持ち上げ、燃え尽きた表情に真っ直ぐ視線を交わらせた。
……見てるだけでも気持ち悪い、それを淡々とこなすモニカはやっぱり違う世界の存在なんだと改めて実感した。

【モニカ】
「……キルシュ・フォン・ヴァルトゥ……」

不思議な言葉を唱え、焼死体の眼に部分を撫でるように滑らせた。
勿論眼に触れてはいない、あくまでも触れて滑らせたように見えているだけだ。

【モニカ】
「……」

ややあってから立ち上がり、ふるふると頭を軽く振るう。

【モニカ】
「行くぞ」

【刀満】
「ぁ、あぁ……って、どうしたんだその眼は!?」

瞳の色がいつもと違う、薄っすらと金色に色づいた瞳が普段と全く違う印象を与えている。

【モニカ】
「気にするな、死にはしないさ。
しかしいつやっても良いもんじゃないな……」

【刀満】
「何したんだよ?」

【モニカ】
「難しいことを云ってもわからないと思うから省くが
こいつが死ぬ間際に見た映像を私にダビングさせた」

ダビングときたか、今時そんな言葉使う人も少ないな。

【刀満】
「つまり、モニカにはここで何があったのかを知ったってことか?」

【モニカ】
「そうなるな」

【刀満】
「それで、この人は殺されたのか? 自殺か?」

【モニカ】
「残念ながら殺しだな。
急ぐぞ、眼の力がなくなる前に犯人を見つける」

俺の反応など見もせずにモニカは走り出した。
慌てて俺も追いかける、どうやら全力で走らないとモニカには追いつけなさそうだ。

【モニカ】
「ほう、十分に早いじゃないか」

【刀満】
「全力出してんだよ、それより犯人がどこにいるのかわかるのかよ」

【モニカ】
「眼の力があるうちはその人が最期に見た、瞳に記憶した状況の全てを写し取れる。
そしてこいつが最後に見たのは犯人の顔、もっと云えば犯人の眼だ。
眼と眼が交わればそこにチャンネルが出来る、つまり犯人の眼ともリンク出来るということさ」

【刀満】
「ということは……今お前が見ているのは」

【モニカ】
「犯人のその後の足取りだ、だから眼の力がなくなる前にみつけねばならんのだ。
少しスピードを上げるぞ、もう一段階力を込めろ!」

【刀満】
「無茶云うな!」

……

【モニカ】
「チッ!」

迷いなく走っていたモニカの足が突然止まる、何が起きたのかは容易に想像できる。

【モニカ】
「力が途絶えてしまった……クソ、ここまできて」

【刀満】
「はぁ、ひぃ……もう、どこ行ったのかわからないのか?」

【モニカ】
「残念ながらな、だがそう遠くないところまでは来ているはずだ。
この近くの住民なのか、まだ移動を続けているのか……」

【刀満】
「顔はわかるんだろ?」

【モニカ】
「無論だ、だからといって家全てに乗り込むわけにも行くまい」

そりゃそうだ、さすがにそこまで無謀なことをしようとは思わないようだ。 ちょっと安心。

【モニカ】
「さて、どうしたものか……」

はぁっと大きく肩で息を吐き、落胆の色を見せる。

が……

【?】
「ぅ、うああああぁぁぁ!」

耳に届いた絶叫、すぐに反応したモニカの動き早い。

【モニカ】
「こっちだ!」

【刀満】
「あぁ!」

だけどこの絶叫、もう俺たちが行っても……
……いや、悲観的に考えるのは止めよう。

一人でも被害者を出さないよう願っているモニカがいるのに、そういった考えは不謹慎だ。

間に合ってくれよう!

……

【男】
「た、助けてくれぇ!」

【?】
「はっはっは、無様だな。 最初の勢いはどうした?」

【男】
「ひ、ひぃ!」

【モニカ】
「間に合ったか!」

声が響いてきたのは人通りの少ない線路下、目視確認できるのは男が二人。
光の照り返しで一人はいかにもチーマーといった感じの男だと確認できた。

どうやら胸ぐらを掴まれているようだな。

【モニカ】
「貴様が、最近巷を賑わせている殺人犯だな?」

【?】
「やれやれ、まさか見つかるとはな。
やはりもう少し住宅地は避けるべきだったか」

【男】
「助けてくれ! こいつ頭おかしいんだ!」

【?】
「おかしくないさ、俺はもっとも合理的にクズを駆除しているだけだ」

【モニカ】
「それが殺人だと云いたいのか?」

【?】
「人聞きの悪いことを云わないでもらおうか。
俺がやっていることはあくまでも駆除だ、この世界にいて何の益ももたらさないこいつ等は存在自体が邪魔なんだ」

背筋にぞわぞわと感じるこの嫌な感じ、この感じはごく近いところで感じたことがある。

【?】
「さあ無駄話も終わりだ、悪益しか生まないやつが存在する価値はない」

【男】
「た、助けてくれ! 死にたくない! 俺が悪かった、全部俺が悪かったから!!」

【?】
「そうか、全部自分が悪いとわかっているか。
なら、己が存在する価値もないとわかっているということだな」

次の瞬間、男の体が一瞬にして灼熱に燃える炎に包まれた。
本当に一瞬の出来事、これは人間のなせる業じゃない……

【男】
「がああああぁぁぁ!!!!!!」

火達磨になった男は熱さと痛みからごろごろとその場でのた打ち回る。
全く無意味な行為、やがて全く動かなくなり、轟々と嫌な音を立てながらとその体を焼いていった。

【モニカ】
「なっ! その力は……」

【?】
「選ばれた人間にはそれ相応の力が身に付くもの。
それが人外の力であったとしても、それを手にできるのが益のある人間ということなんだよ」

男が振り返った、いまだ燃え続ける炎の明かりが男の姿を照らし出した。

【入瀬】
「……」

【刀満】
「入瀬……」

言葉遣いに口調、それからこの背筋の嫌な感じで予想は出来た。

【モニカ】
「私の前で堂々とやってくれたもんだな」

【入瀬】
「お前に不利益なことはしていない、むしろこの国にとって有益なんだ。
この世界には役に立たないクズがごまんといる、しかしそれを合法的に葬り去る手段がない。
しかし、俺がやっていることはそんな存在しなかった手の一つだ」

【モニカ】
「ふざけるな! 貴様がやったのは人殺しだ、この世界の法で貴様は裁かれる」

【入瀬】
「さて、そう上手くいくかな?
俺がこいつに火を放った手段をどう説明する? この世界では非現実的なことは全てが証拠にならない。
俺がやったということを証明することは不可能、俺が何人駆除しようとな」

【刀満】
「少しはまともなこと考えてると思ってたけど、やっぱりお前はおかしいんだな」

【入瀬】
「おかしい? 俺の考えがおかしいという根拠はどこにある?
この国が様々な面で他国に劣るのは何故だかわかるだろ、圧倒的にクズが多いからだ」

【刀満】
「優れた人間以外存在する必要はないって云いたいのか?」

【入瀬】
「そうだ、それのどこがおかしい? それのどこが間違っている?
世界には規定数というものがある、増えすぎれば優れた人間であろうと弾き出されてしまう。
中にいる大量のクズのせいでな、優れた人間がクズに弾き出される、そんな世界は間違っているだろう?」

こいつにはこいつの倫理観、物の考え方があって当たり前だ。
そんな中でそう考えるのは自由、それすらも押さえつけることなど出来ないのは当然だが。

だけどだ。

【モニカ】
「世界全てが、自分の考えで動いていると思っているのならとんだ思い上がりだ。
世界は個人の物じゃない、様々な思想と人間によって成り立たされているだけだ」

【入瀬】
「だからこそ、優れた人間は頂点に立たなければならない。 世界のためにな」

【刀満】
「一個人による独裁で、世界が回るとは思えないけどな」

【入瀬】
「それを回せるのが優れた者の優れた力なんだよ」

【モニカ】
「やれやら、どう転んでもこの議論は平行線だな。
だが議論がどうであれ、貴様のような奴を行かしておくことなど出来んがな!」

即座に剣を呼び出し、鞘を投げ捨てると早くも本気モードで入瀬を睨みつけた。

【モニカ】
「貴様には手加減も慈悲の感情も必要ない。
どんな思想を持とうが自由だが、思想実現のために他者を消すような奴の方がよっぽど存在する価値がない」

【入瀬】
「異世界の者が口を出さないで貰おうか。
ここは我々の世界だ、未来をどう作るかも我々の今後次第。
そんな中で貴様のやろうとしている行為こそ無益な殺人だ、違うか?」

【モニカ】
「人外の力を手にした貴様も、もはや異世界の仲間入りだ。
それにお前が死んだところで世界は変わらんさ、せめて苦しまずに逝けるよう祈っておくんだな!」

モニカが生身の人間と交えるのはこれで二回目。
しかし小出さんのときと今回ではあらゆる意味合いが違う。

小出さんのときに見せた暗い表情は一切見せず、真剣な殺意だけが感じ取れた。

【モニカ】
「はあぁ!」

ヒュ!

【入瀬】
「ふっ!」

あっという間に距離をつめ、剣の射程に入ると躊躇せずに剣を振るう。
並の人間であれば眼にも止まらぬ早さについていけず切りつけられたことさえ気付いていないかもしれない。

しかしそれは、並の人間であったらという前提があったとしたらだ。

【入瀬】
「好戦的な女だ、云っておくが俺はこの世界のれっきとした人間なんだぞ?」

【モニカ】
「人間にそんな芸当が出来ると思うか?」

入瀬はモニカの剣を交わしていた。
それだけでも驚きだが、それ以上に入瀬の姿に驚いている。

あいつ、浮いてやがる。

【モニカ】
「ますます貴様を生かしておく必要性を感じなくなった。
この世界の者でない私が干渉するのは好ましくないが、貴様だけは必ず仕留めてやるからな」

【入瀬】
「やれるものなら、やってもらおうか!」

今度は入瀬が動いた。
モニカとの間にあった2メートル程の落差を滑空し、すれ違いざまに腕を薙いだ。

その薙いだ腕からは炎が上がり、それを予測していたモニカはバク転を二回して難なく避けた。

【入瀬】
「読まれていたか」

【モニカ】
「貴様が炎を操れることなど一度見れば覚えていられるさ。
逆にその程度の小技で私を殺そうなどと考えているのなら、貴様の実力など恐れる必要ない」

【入瀬】
「やれやれ、かわいげのないお嬢さんだ。
……どうだ芦屋、お前が俺と戦うというのはどうだ?」

【刀満】
「何? 俺が、か……?」

初めてこいつに名前を呼ばれた、しかしそんなことはどうでも良い。
まさかまさかの名指しで対戦要求か……

【モニカ】
「なっ! ふざけるな!! 貴様を討つのはこの私だ!」

【入瀬】
「その意気込みは素晴らしい、だが何度も云うようにお前は異世界の存在だ。
この世界の事象は全てこの世界の者が解決するべきなんだ。
おまえ自身が云っていただろう、異世界の者は干渉しないで貰おうか」

【モニカ】
「黙れ! 刀満と交えるなど私は認めんぞ!!」

【入瀬】
「認める認めないの問題ではないんだよ。
いや、むしろ認めざるを得ないといった方が良いのか」

【モニカ】
「どういう意味だ」

【入瀬】
「お前は奴を守りながら俺を討てるとでも思っているのか?
悪いが、俺はお前ではなく芦屋を狙わせてもらうがね」

【モニカ】
「くっ、外道が!」

【入瀬】
「部外者に云われたくないな。
さぁどうだ芦屋、俺が憎いだろう? 散々お前をクズ扱いしてきた俺が憎いだろう?
ならば戦え、俺のやっていることが間違っていると思うのなら、お前の信念を押し通して俺を殺せ」

……そうか、認めたくないけどこいつはやっぱり出来た人間だな。

入瀬はこの世界の『人間』、そして俺もこの世界の『人間』だ。
『人間』が引き起こした事件は『人間』にしか解決することは出来ない。

そこに部外者であるモニカが関わるということは、一種のイレギュラーなんだ。

くそ、どこまでも腹立たしい奴だけど要所要所で云っていることは正論だ。

【刀満】
「良いだろう……」

【モニカ】
「莫迦者が! お前が奴に勝てるとでも思っているのか!
命を粗末にするな、私の前でお前に死なれたら……」

【刀満】
「まさか泣いてくれるとでも?
モニカがなんと云おうと俺に引く気はない、俺のためにもな」

【モニカ】
「あいつとの交戦で刀満が得るものなどない。
ここは退いてくれ、心配しなくともあいつは私が……」

【刀満】
「ここでモニカに全部任せてたら、何のために俺は剣を貰ったんだ?」

【モニカ】
「それとこれとは話が別だ! そもそも私はお前に捌き方もろくに教えていないんだぞ。
そんな昨日今日剣を持ったやつが勝てるほどあいつは弱くない」

【刀満】
「勝とうなんて最初から思っちゃいないさ。
いい加減俺自身、経験しなきゃいけないころだろうと思ってさ……」

【モニカ】
「何をだ……」

【刀満】
「いつもモニカが経験してる、死線ってやつをさ」

【モニカ】
「何故だ、普段からその中に身を置く私ならともかく
どうして刀満まで死線の中に身を置く必要があるんだ?」

【刀満】
「実力が伴わなくとも、俺ももう『騎士』だからな」

【モニカ】
「刀満……」

モニカが言葉に詰まる、これ以上何を云っても意味がないと悟ったか
これ以上何を云えば良いのかわからなくなってしまったかはわからないが、モニカから次の言葉は聞こえてこなかった。

【入瀬】
「もう良いのかね?」

俺とモニカのやり取りに手出しもせず見下ろしていた入瀬だったが
話がまとまったのを確認し、地上へと降りてきた。

【入瀬】
「では、部外者は一歩引いて我々の戦いを見ていてもらおうか」

【モニカ】
「刀満、もしここで死んでみろ……
こいつは勿論許さんが、お前も許さんからな……」

それだけを伝えると、モニカは俺たちから距離をとり
腕組みをしながら戦況を見守る構えを取った。

きっと少しも納得なんかしちゃいないんだろうけどな……

【入瀬】
「はは、こうしてお前と対等の立場に立つとは思いもしなかったな」

【刀満】
「そうだな、お前がわざわざクズの位置まで下りてくるなんてな。
良いのか? 一度クズのところまで下りてきたら、お前もクズの仲間入りじゃないか?」

【入瀬】
「俺が降りてきたんじゃない、お前が登ってきたんだ。
何故俺がお前のことをクズ呼ばわりしておきながら、何度か会話を振ったと思う?
お前は、俺と同じなんだよ」

【刀満】
「同じカテゴリで括らないでくれ、腹が立つからな」

【入瀬】
「お前が嫌がろうとももう俺とお前は同じ次元の高さにいる、これは覆せない事実だ。
いい加減お喋りは止そう、そろそろ始めようじゃないか」

入瀬は体を開くと、30センチほど体を浮かせて受け入れ態勢を整えた。

【入瀬】
「さあ、俺が憎いだろう……俺を、殺してみろ!!」






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