【ouverture『reencounter』】


【刀満】
「ごめんよー」

どうせ誰もいないのだから、わざわざ俺が来たことを伝える必要なんてない。
だけど何故だか声に出していた、アホみたい……

今日も今日とて千夜に帰るなと云われてしまった。
別に帰ってしまってもなんら問題もないのだが、帰りになんか食わせてくれるらしいから残ることにした。

物であっけなく釣られる俺って簡単なやつなのかねぇ?

【刀満】
「ふぁ、あぁー……」

誰もいないだろうとふんで入った図書室、案の定人の気配などかんじられないくらいに静かだ。
こんな静かな部屋なら、きっとぐっすりと眠れるんじゃないかな……

【刀満】
「お休みー……」

またも云わなくて良いことを口に出した、こんなとこ人に聞かれたら良い笑いもんだな。

ガタン!

【刀満】
「……おいおい」

先客ありかよ、まいったな今までの独り言全部聞かれてたかもしれないな。
せめて顔見知りではありませんように……

【声】
「やれやれ、とんだ間抜けだなお前は」

顔は見せずに声だけが聞こえてきた。
この声には聞き覚えがある、俺の顔見知りで、中でも一番会いたくない相手の声だ。

【入瀬】
「図書室に来てまで睡眠か? 単細胞はこれだから困る」

姿を見せたのは予想通り入瀬だった、こいつにだけは会いたくなかったな。

【刀満】
「俺は別にそれでも特に困らないんでな。
お前にだって俺がどうであれ関係のないことだろ」

【入瀬】
「ああ、お前のことになど何一つ興味の対象はない。
……いや、それは違うな、一つだけお前に対して疑問がある」

【刀満】
「なんだよ?」

【入瀬】
「何故お前のようないい加減なやつが俺と同じここにいるのかということだよ。
俺のレベルが所詮はその程度なのか、はたまたお前が優秀なのか、気にならないか?」

【刀満】
「お前としてはどっちが満足なんだ?」

【入瀬】
「どちらも腹立たしい限りだな。
お前なんぞと同レベルにいる自分と、お前なんぞが俺に並んでいるという事実が気にくわん」

【刀満】
「だったらもっと頑張って俺を追い越せば良いだけの話だろ」

【入瀬】
「お前は俺の云っている意味がわからんのか?
俺が云いたいのは、頭の出来云々ではなく、お前と同じこの学び舎にいること自体が納得ならんのだよ」

なるほど、つまりは俺のようなやつと同じこの学校にいるのが嫌なのだろう。
入瀬にしてみれば、俺がこの学校にいるのがどうにも我慢ならないということか。

【刀満】
「お前がどう思おうが勝手だけど、俺は辞める気はないからな」

【入瀬】
「別に辞めろと云っている訳ではない。
それにお前が辞めるのなら、お前以下の大勢の方がまず辞めるべきだ。
低レベルな人間は、低レベルな立場こそがお似合いなんだからな」

でたよでたよ、この自分は優れている目線での発言。
確かに入瀬の頭の出来は学校でもトップレベル、その点に関して云えば非の打ち所がないだろう。

ただ、その全てを台無しにするこの思考回路と性格。
こればっかりは慣れろと云われても俺には無理だ。

【入瀬】
「クズはクズらしく、自分の立場を考えるべきだ。
優れた人間の足を引っ張るだけの存在などいない方が良い、お前はそうは思わんか?」

【刀満】
「それはつまり、俺は自分の立場を考えろって云いたいんだろ?」

【入瀬】
「ほう、俺の云いたいことが理解出来ているとはな、お前にしては上出来だ」

ぱんぱんと嫌味ったらしく手を叩いた。
こいつと話していると腹が立つどころか哀れみさえ感じ始めるから不思議。

こいつは案外正論を云うことの方が多いが、云い方一つで全てがひっくり返るという良い見本になる。
反面教師にするにはこいつとほど相応しい人物はそうそういないだろう。

【入瀬】
「お前との会話で得るものなど何も無いと思っていたが、面白い発見もあるものだな」

【刀満】
「そいつは良かったな、お前の勉強の邪魔するのもなんだし俺はこれで失礼」

勿論あいつのためではなく、俺がこの場にはもういたくないからだ。
あいつだって俺のようなやつと一緒にいたいとなんて思わないだろう。

あいつのことだ、どうせ莫迦がうつるとかアホらしいことでも考えてるんだろうしな。

さてと、図書室で昼寝が出来ないとなるとどこに行ったもんかねぇ……

……

ブブブブブブ……

【刀満】
「はいはい……もしもし?」

【千夜】
「帰るよー、早く玄関まで来い」

ブツッ、ツーツー……

【刀満】
「やれやれ……」

こんな仕打ちをされても友人関係を続けているんだから、俺ってえらいでしょ?
なんてこと考えてる暇があったらさっさとあいつのとこに行った方が良いな。

急いで階段を駆け下り、あいつ指定の玄関まで来てあげた、のにさ……

【千夜】
「遅い!」

そりゃないよ……
今度から物に釣られるのは止めよう、自分が悲しくなる。

【刀満】
「なんか食わせてくれるんだろ?」

【千夜】
「ラーメンで良い?」

【刀満】
「何でも良い、というかまたヘビーなもんきたな……」

【千夜】
「部活してるとお腹も減るものなのよ。
あんたみたいに毎日放課後に暇してるわけじゃないんだから」

【刀満】
「俺だって本当ならさっさと家に帰りたかったよ」

【千夜】
「あぁー、なるほどね、はいはいごめんね。
刀満はロリコンだから早くモニカと一緒になりたかったんだよね、こりゃ失礼しました」

【刀満】
「色々と文句を云いたいところがあるけど、面倒だから文句はいわねえよ。
一つだけ大否定させてもらうと……ロリコン扱いすんな!」

【千夜】
「あんま大声出さないでよ耳痛いな。
それにそんな声出したら誰かに聞かれて誤解されるよ、人の噂の伝染は早いからねぇ」

【刀満】
「けっ、どうせ俺はロリコンだよ、良かったねー」

こういうときは開き直るのが一番だ。
こう云っとけばあいつも引っ込まざるをえないのだからな。

【千夜】
「まあまあ拗ねるな拗ねるな、ラーメンおごってあげるからそれ食べて元気出せ」

ほらね、やっぱり。 千夜のこういうとこは嫌いじゃないぞ。

……

【千夜】
「ご馳走様ー♪」

お店の人に美味しかったと言葉を残し、二人揃って店を出る。
腹も良い具合に満腹に近い、あれで600円は中々良いコストパフォーマンスだ。

【千夜】
「折角のおごりなんだからもっと高いの食べても良かったのに」

【刀満】
「俺の腹にはあれくらいがちょうど良いんだよ。
俺よりも、お前は食いすぎだ……」

女が普通にチャーシュー麺中盛りにトッピングでチャーシュー加える現場を俺は初めて見た。
たぶんこいつだからこそできる……いや、モニカのやつもやりそうだな。

この二人を一般女性と同等で物事を考えたら莫迦みそうだぞ……

【千夜】
「育ち盛りにあれくらいなら許容範囲でしょ。
まだ家帰って夕ご飯食べなきゃいけないしね」

まだ食うんかい……どれだけ燃費が良いんだよお前の身体は。

【橘禰】
「あ、千夜様」

【千夜】
「どうしたのこんなところで出会うなんて?
もしかして、買い物行ってたの?」

【橘禰】
「えぇ、その通りです」

橘禰さんの手にはスーパーのレジ袋が提げられている。
今時袋からネギがはみ出す絵を見れるとは思わなかった。

【千夜】
「別に買い物なんて頼んでないよ?」

【橘禰】
「家のお掃除もあらかた終わってしまいましたから、何もしないでいるのもなんだか申し訳なくて。
冷蔵庫の中を拝見させていただいたのですが、卵と牛乳、それと食パンが切れそうだったので
勝手な判断ですがお買い物をさせていただきました」

【千夜】
「あーそういえば牛乳は昨日私が全部飲んじゃったんだっけ。
だけどそんなの私が買ってくから良いのに」

【橘禰】
「千夜様は学校と部活でお疲れでしょうと思いまして」

【千夜】
「別にそんな気を使わなくても良いのに、気楽にしてて良いのよ?」

【橘禰】
「ふふ、千夜様がそう仰るのでしたら、今度からはそうさせていただきますね。
あ、それからお夕飯の献立、一応考えてはおきましたけど何か召し上がりたいものはありますか?」

【千夜】
「私が何も云わないと何を作るつもりだったの?」

【橘禰】
「キムチのお鍋にしようと思いまして。
まだ少しお鍋の時期には早いですが、発刊作用もありますから今の時期にはちょうど良いと思いますが」

キムチ鍋か、まだコタツに入って鍋をつつく時期には早いけど、悪くはなさそうだな。

【千夜】
「じゃあそれで良いや、別に寒くならないと鍋食べちゃいけないわけでもないしね」

【橘禰】
「かしこまりました、千夜さまはこれからまだどこかへ?」

【千夜】
「もう帰るつもりだよ、だよね?」

【刀満】
「別にこれ以上行くとこもないだろ。
それに今の時間に家に帰っておいた方がきっと良いと思うけどな」

このタイミングはたぶん一種のターニングポイント。
この時期を逃せばきっと陽が出ているうちに家に帰ることは難しくなる。

最近の事件のこともあるし、昼に聞いたニュースの件もちょっと気がかりだ。
それに今なら橘禰さんも一緒だ、千夜にもしもが起こる可能性は現状が最も少ないだろう。

【刀満】
「俺も帰ってモニカに飯作ってやらないといけないし、今日は解散で良いだろ?」

【千夜】
「そうだね、今頃お腹空かして倒れてたりしてね♪」

はは、さすがにそれは……ないと思いたいなぁ。

【千夜】
「そんじゃまた明日ね」

【橘禰】
「ごきげんよう」

千夜と橘禰さんの後姿、なんだかまるで仲の良い姉妹のようにも見えるな。
でも相変わらず橘禰さんの背では、フサフサで金色に色づく尻尾がゆらゆらと左右に揺れていた。

よくあれで買い物しても誰も不審がらなかったな。

【刀満】
「俺も夕飯のこと考えないとな」

さてさて、今日は何を作ってやったもんかなぁ。

……

【刀満】
「ただいまーっと」

……返事がない。
靴はあるからいるにはいるのだろう、だとすると……また風呂にでも入ってるんだろうか?

【刀満】
「一日に何回風呂入るつ……おっと」

【モニカ】
「すぅ……」

なんだ、風呂入ってたんじゃなかったのか。
家の柱を背に器用にそのまま寝てやがる、それじゃ背中が痛くなるぞ。

【刀満】
「折角部屋貸してるんだからそこで寝たら良いのにな。
風邪は……子供だから引かないか」

いつもなら問答無用で鉄拳の一つでも飛んできそうなものだが
眠っているモニカはまさに無力な子供と同じに見えた。

【刀満】
「やれやれ、普段騎士だ死線だと云ってるやつの寝顔には見えんわな」

本当ならベッドか、最悪床のカーペットにでも寝そべってくれてれば良かったんだけど
横にさせたら起きるかもしれないので、起こさないようにそっと掛け布団をかけた。

【刀満】
「一体昼は何食ったんだ?」

冷蔵庫を覗いてみるが、あまり朝出て行ったときと変化が無い。
台所には卵の殻が二個、それとハムのパックがきちんと捨てられていた。

単純に予想するとハムエッグ、それとパンが減っているからパンを食べたのだろう。

【刀満】
「こいつの食欲でよくそれで足りたもんだ」

ひょっとして腹が減りすぎて寝てるんじゃなかろうな?
可能性は十分にある……

【刀満】
「少しばかり重いもの食わせても大丈夫そうだな」

俺の腹は良い感じに膨れているからといって
俺に合わせて作ったらきっとモニカには腹の足しにならないだろう。

【刀満】
「なんか肉がいっぱい残ってるな、安い時に買い溜めしたあれか」

そういえば、自分の国では肉ばかりとか云ってたな。

【刀満】
「うーし、少し腕を披露するとしますかね」

……

【モニカ】
「ぅ、ん……」

眠っていたモニカがかくりと倒れ、ふあーっと締りの無い欠伸を洩らした。

【モニカ】
「とーまかぁ? なんだ、帰っていたのか?」

【刀満】
「もう相当前にな、お前が起きないからもう夕飯出来ちまったぞ。
もうこれは食えないは通らないからな」

【モニカ】
「刀満の食事ならそれだけで文句はないさ……
これはこれは、今までとは一風変わった料理をしたな」

モニカの皿にはでかいカツがドンと乗せてある。
あえてカツだけ、周りに野菜の類は無い、人によっては完全なる嫌がらせだ。

【モニカ】
「これは、中に何かが隠されているということか?」

【刀満】
「牛カツだよ、周りの衣も食べれるからそのまま噛り付いてどうぞ。
ってわけにはいかんよな、ナイフ・フォーク持ってくるよ」

いつものカツなら適当な大きさに切るのだが、こいつは切るとネタがばれるので
いつもこのスタイルで出すのが俺の中で決まりになっている。

【モニカ】
「割って食べれば良いのか?」

【刀満】
「ああ、どうぞ」

フォークがカツに刺さり、ナイフでざこざこと肉が切られていく。

【モニカ】
「ほう、ただ肉の塊というわけではないのだな」

【刀満】
「薄い肉を何枚も巻いて揚げたんだ。
一枚一枚に味がつけてあるからそのまま食ってもらって大丈夫」

【モニカ】
「あぐ………もむもむ……コクン。
へぇ、塊ではない分随分と柔らかく食べやすいのだな」

【刀満】
「味は?」

【モニカ】
「嫌いではないぞ」

【刀満】
「そう、それと……全部食べれる?」

【モニカ】
「心配無用だ」

うん、見た感じだと心配するだけアホらしいみたい。

【モニカ】
「昼はさほど食べなかったから、これくらいの量がちょうど良い」

【刀満】
「別に好きなように食ってもらって良かったのに」

【モニカ】
「宿借りが遠慮も無しに好き放題食べるわけにはいかんだろ?
それに、私の食事など食べれればそれで良い程度のものにしかならん。
こうやって夜まで待てば刀満の美味い食事がいただけるのだからな」

【刀満】
「そりゃどうも、だけど今度から寝るなら部屋にしてくれ。
あんなとこで寝てたら背中痛くするぞ」

【モニカ】
「はは、それもそうかもしれないな、いつつ……」

やはり痛みがあるのか、背中をとんとんと叩く。
あんな硬い木の柱で寝てれば痛くなるのも当然だよ、一つ勉強になったな。

【モニカ】
「食べたら今日も見回りだ、一応聞いておくが、今日もついてくるのか?」

【刀満】
「そのつもり、今日変なニュースも聞いちゃったしな。
モニカには心配ないだろうけど、俺が一人だと不安になる」

嘘だ、本当はモニカが心配というのが一番だ。
だけどどうせモニカは自分は騎士だなんだと云って逸らしてしまうからな。

【モニカ】
「にゅーす? もしかすると、学生が行方不明になったという話か?」

【刀満】
「あら、モニカも聞いてたのか?」

【モニカ】
「テレビをつけたらちょうどその話をやっていただけだ。
詳しいいじり方もわからないから、その話は最後まで見ていたぞ」

【刀満】
「その行方不明かもしれないって子、俺の学校の人なんだよ」

【モニカ】
「おや」

【刀満】
「しかも俺の知り合い、というかクラスメイトだった」

【モニカ】
「それはまた、お気の毒と云った方が良いのか?」

【刀満】
「いや、ほとんど話したこともないからお気の毒ではないんだけど。
全く気にならないかと云われればそれもちょっとな」

【モニカ】
「それは当然のことだ、見ず知らずの誰かならまだしも顔見知りならば
気にならないほうが珍しいさ。
で、一番気になるところはなんだ? どこか、気になるところがあるんだろう?」

【刀満】
「彼女……殺されたんじゃないのか?」

【モニカ】
「……この話はまた後にしよう。
食事をしながら話す話題ではなかろう」

ぶっつりと話題を切った。
どうやら、モニカも俺と同じことを考えているみたいだな……

……

【モニカ】
「……」

【刀満】
「モニカ」

【モニカ】
「……」

【刀満】
「なあモニカってば」

【モニカ】
「……」

【刀満】
「返事くらいしてくれよ、ねぇねぇねえ!」

【モニカ】
「あーもう、煩いな!!」

ついにしつこさに負けてキレやがった。
いや、さっきから俺が呼んでるのに返事しないんだからこれは逆ギレか?

【モニカ】
「さっきからなんだしつこいぞ」

【刀満】
「だって家出てから一言も喋ってくれないじゃないか。
あの話、夕飯の時の話まだ終わっていないんだぞ」

【モニカ】
「……もうわかっているのだろう? だったら私にわざわざ聞く必要もあるまい」

【刀満】
「じゃあやっぱり彼女は」

【モニカ】
「そこまでは知らん、だが、その子が殺されたのだとしたら。
自ずと思い浮かぶ人物は私もお前も同じではないのか?」

【刀満】
「やっぱりそうなのか」

【モニカ】
「そうでなければ良いのだがな……」

二人の頭に浮かぶ人物は嫌でも同じになる。

『カリス』

あの人懐こそうな顔の奥には、簡単に人を殺められる裏の顔がある少女。
モニカが討ち取る標的、俺にとって最も身近な死の存在。

【モニカ】
「あまり事を早計に考えるのは感心せんぞ。
例え最悪の結果があろうと、そこに奴等の手が加わっているかどうかはわからんからな」

【刀満】
「モニカは見ただけじゃカリスが関わってるってのはわからないのか?」

【モニカ】
「多少はな、やつらには夜魔特有の匂いがあるんだ。
洞窟の奥に流れる水のような、湿ったミズゴケのような香りがするんだよ」

【刀満】
「そんなの俺にはわからなかったけどな」

【モニカ】
「常人に判別することなどほぼ不可能だよ。
ただ、私は昔から鼻は良い方なんでね」

ちょんと鼻の頭を指した、任せておけと云っていると見て良さそうだろう。

【モニカ】
「……なあ刀満、お前その行方不明の子の手荷物が見つかった場所、わかるか?」

【刀満】
「あぁ、ちょっと歩くことになるけど行くのか?」

【モニカ】
「頼む」

……

【刀満】
「ここだよ」

小出さんの所持品が発見された公園とはここのこと。
黄色い規制線でもあるのかと思ったがそんな物は皆無、誰でもウェルカムの状態だ。

【モニカ】
「なるほどな……刀満、走れ!」

【刀満】
「な、なにぃ!!」

モニカの突然の合図に慌てて公園の中へと飛び込んだ。
公園の中央付近でモニカが振り返り、いつものような戦闘体勢をとった。

【モニカ】
「3、4……6か」

【刀満】
「これは……」

公園の中央を中心とし、四方八方から合計6体の人型を確認できた。

【モニカ】
「つけられていたのだが、気付いたか?」

【刀満】
「いや、全然……」

【モニカ】
「無用心だな、私がここに案内を頼んだ時からずっとだぞ」

おいおい、そんな前から俺たちつけられてたのかよ。

【刀満】
「だったら一言そう云えよ」

【モニカ】
「どうやら、今日は勝手が違うようなんでな。
私たちを襲うことしか考えない奴が、どうしてつけるなんて真似をしたと思う?」

【刀満】
「俺が知るかよ」

【モニカ】
「もっとよく考えろ莫迦者が、奴等には状況を細かく考えるなんて行動はほぼ不可能だ。
ただ、奴等を使役出来るような奴がいれば話は別だがな」

【刀満】
「! ……いるのか」

【モニカ】
「さぁな、だがまずはこいつ等の一掃からだ!」

モニカが剣を呼び出すのとほぼ同時に人型も一斉に飛び掛ってきた。

【モニカ】
「せい!」

一番近くにいた女の人型を一薙ぎ、これが生身の人間だったら眼も当てられない状態なのだろう。

【モニカ】
「四方にくまなく眼を配れ、どんなことがあって背だけは取られるなよ!」

【刀満】
「わかってるよ!」

恐ろしくタフな奴等だが、悪く云えばそれだけだということでもある。
動きは俊敏には程遠く、行動を予測することも案外出来そうだ。

後にも常に眼を配りながら、モニカの動きに合わせて俺も距離を取る。

一人二人と人型が消え、最後の一体にも刃が向けられた。

【モニカ】
「はっ!」

心臓へと切っ先を突き刺し、そのまま上へと剣を押し上げた。
その場にむごたらしい死体が残ることもなく、跡形もなく存在を消してしまう。

【モニカ】
「……」

【刀満】
「終わった、か……?」

【モニカ】
「まだだ、だがこれで御大のお出ましというところだろうな」

モニカは耳に神経を集中させて辺りの音をうかがっている。
視線がきょろきょろと左右をいったりきたり、やがてその視線がぴたりと止まった。

【モニカ】
「……どうやら、カリスの登場とはいかぬようだな」

モニカの視線の先、そこに感じたのは今までとは違う
確かな『人影』だった。

【少女】
「……」

ふらふらとした足取り、それは今まで見た人型と同じような覚束ない足取り。
しかし、今までの人型とは明らかにその少女は違っていた。

【モニカ】
「ちっ……」

【刀満】
「……」

所々破れが確認できるスカート、ボタンが外れてだらしなく覗くワイシャツ。
そのワイシャツもボタンがいくつか取れ、締りの無いリボンがだらんと首から下がっている。

それと、彼女のトレードマークでもあった眼鏡はなく
その視線が虚ろであることはこの暗闇でも感じ取れた。

【刀満】
「マジかよ……」

【少女】
「……」

少女は言葉もなく、ただ俺とモニカにはっきりとしない視線を向けている。

彼女の名前は『小出 愛良』
昨日から行方不明になっている、俺のクラスメイトの姿がそこにあった……





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