【5月06日(火)〜5月09日(金)】


【一条】
「うわ……ひでえ顔してるな……」

昨日羽子さんに家まで連れてきてもらってそのままベッドに倒れこんだのが良くなかった。
せめて風呂ぐらい入っておけば良かった、髪がもうぼさぼさでまるで浮浪者に見える。

一晩ぐっすりと眠ったせいか足取りはそれほど重くない、昨日羽子さんにおにぎりを食べさせてもらったこともあるのだろうけどな。
あの連休中は本当に何もしていなかった、食事もしていないし眠っていたのかさえも覚えていない。

もし羽子さんがあそこできてくれなかったら、俺は完全に廃人になっていたかもしれないな……

【一条】
「とりあえず風呂入って、それからだな」

……

【一条】
「はあぁぁ……」

風呂上りでほこほこと温かい身体にタオルを被る、入る前に比べて多少は表情も明るくなったかな。

ピンポーン

部屋に鳴り響くインターフォンの音、まだ朝も早いのに一体誰が?

【一条】
「はい?」

扉を開けるとそに立っていたのは羽子さんだった、こんな朝早くから羽子さんがどうして?

【羽子】
「あ、お早うございま……ひ、ひゃあ!」

抜けたような声を上げて羽子さんは慌てて鞄で顔を覆った、いったいどうしたのかと思ったけどすぐに納得。
俺上半身裸だ、タオルは被っているけどそんな物無いよりマシにしかなっていない。

【一条】
「あ、失礼!」

俺も慌てて扉を閉める、羽子さんもだろうけど俺までも顔が赤くなるのがわかる。
急いでかけてあったシャツを着て制服を身につけ、ちょっと照れながら羽子さんの前に再び顔を出した。

【羽子】
「あうぅ……」

そろーっと眼だけ見えるように鞄を下げ、制服姿であることを確認してから鞄を下ろした。

【羽子】
「お、お早うございます……」

【一条】
「お早うございます、さっきは失礼しました」

【羽子】
「い、いえ……いきなりだったもので私も変な声を出してしまって」

【一条】
「で、どうしたんですかこんな朝一番から?」

【羽子】
「一緒に学校に行こうと思ったんですけど、迷惑でしたか……?」

【一条】
「とんでもない、すぐ鞄持ってきますからちょっと待っててください」

……

【一条】
「あー、なんか身体の節々が痛いですわ」

【羽子】
「まだ十分に身体が回復していないんですよ、今日1日は無茶をしないでくださいね」

【一条】
「それじゃあ今日は2人でゆっくりと」

【羽子】
「学校をサボるのはいけません、ちゃんと私がついていますから具合が悪くなったら云ってください」

【一条】
「お腹痛いです」

【羽子】
「………じとーっ」

【一条】
「う、嘘ですすいません、ちゃんと学校行きますから」

【羽子】
「はい」

これは当分羽子さんには頭が上がらないかな……

【美織】
「おおーっす、お2人さん」

【羽子】
「宮間さん」

【一条】
「朝から無駄に元気だなお前は、どうやったら朝一番から元気なのか教えてもらいたいよ」

【美織】
「あたしの元気は無尽蔵だ、減ったら減った分だけすぐに戻ってくるから底知らずなのだよ誠人君」

ちっちっちと指を振る、そんな自信満々に云われてもさ……

【美織】
「……」

【一条】
「な、何? 人の顔ジロジロ見てさ?」

【美織】
「くしし、良きかな良きかな、いつものマコに戻ってるよ。
金曜日はなんかもう亡霊みたいに元気無かったもんね」

【一条】
「美織も気付いてたんだ」

【美織】
「おいおい、あれで気付かないって方がおかしいと思うわ。
マコを気にかけているのは羽子だけじゃないんだから、そこんとこよーく覚えておきなさいな」

胸を大きく反らせてどうだと意思表示する、いやだからそんなことされてもさ……

【美織】
「お、そうだ羽子、ちょいちょい」

【羽子】
「なんですか?」

【美織】
「マコが元に戻ったということは、ちゃんと介抱してあげたってことで良いのかしら?」

【羽子】
「ええ、不本意ですが彼方には感謝しています」

【美織】
「不本意ってのはちょっと引っかかるけど、大いに感謝しなさい。
そ・れ・と、あたしとの約束はどうなったのかなぁ?」

【羽子】
「ぐぅ、ど、どうしてもやらないと駄目なんですか?」

【美織】
「当然、でなかったらどうしてあたしが羽子に助言なんかするのよ。
あたしが一足先に介抱しても良かったんだぞ?」

【羽子】
「わ、わかりましたよ、やれば良いんでしょうやれば!」

ひそひそと女の子2人で内緒話をしていた羽子さんが急に声を大きく荒げていた。
どうせまた美織が無茶なことをしろって云ったんだろうけど、よく羽子さんも承諾したな。

【羽子】
「い、一条さん、驚かないでくださいね」

【一条】
「?」

驚かないでって何にだろう? 僅かに頬を染めた羽子さんがジッと下を見て、急に顔が上がったかと思うと……

【羽子】
「あむぅ……」

【一条】
「んむ!」

羽子さんの顔で視界がいっぱいになり、そのまま唇が交わされた。
後ろ頭を押さえられているために俺には逃げることもできず、逆に後ろからも押されてしまいかえって密着度が高くなる。

【美織】
「おぉ〜、朝一番からディープだよぉ、ラブラブ度マックスじゃね」

【羽子】
「んふぅ………ぷぁ……はふ、はふ」

【一条】
「はぁ、はぁ……」

【美織】
「いつもは涼しい顔してるくせに、人目もはばからずに堂々とディープキスするとは。
くししし、羽子ってば結構やーらしーんだぁ」

【羽子】
「なっ! こ、これは彼方がしろって云ったんじゃないですか!」

【美織】
「そうだったかしら?」

【羽子】
「とぼけないでください!!」

美織のいる前でいきなりキスするなんて羽子さんらしくないと思ったけど、全部美織の差し金か。
だけどまさかキスされるとは、珍しく心臓がバクバクいってるよ。

【羽子】
「今日という今日は許さないですから! 待ちなさい!」

【美織】
「きゃー、色魔に襲われるよー♪」

【羽子】
「て、訂正しなさい!」

走り去る美織を捕まえようと羽子さんも走り出す、あの2人いつの間にか随分と仲良しになったな。
羽子さんと美織の力関係は相変わらずだけど、それがあの2人にはちょうど良いのかもね。

【一条】
「俺も置いていかれないように追いますか」

止まっていてはいけない、そんな簡単なことはわかっていたはずなのに俺は止まってしまっていた。
そのことで羽子さんはおろか美織にまで心配をかけてしまっていたみたいだ……

水鏡のことはきっぱりと忘れよう、きっとあいつもそれを望んでいたんじゃないのかな?

……

【美織】
「きゅうぅ……」

教室に入ると美織が机の上で突っ伏していた、その横では肩で息をする羽子さんの姿。
なんか色々と想像できそうだけど、一体何があったのやら。

【羽子】
「はぁ、はぁ……まったく、色魔はどっちですか……」

【美織】
「いたいよぉ……」

【一条】
「何があったのか俺としては凄く気になるんですが」

【美織】
「辱められたぁ……」

【羽子】
「そんなことはしていません!」

【一条】
「まあまあ羽子さんも落ち着いて」

【羽子】
「ふん!」

ツカツカと大股で自分の席に戻り、鞄を置くと教室を出て行ってしまった。
あれは相当怒っているな、まったくこいつは何したんだよ?

【美織】
「早く行ってあげたら、このままだと授業始まってもキリキリし続けるよ?」

【一条】
「後処理は全部俺任せかよ」

【美織】
「いやまさかあたしも胸触るだけであそこまで怒られると思ってなかったからさ」

【一条】
「あのなあ……羽子さんはお前とは許容範囲が違うんだから、その辺考えて行動してくれよ」

【美織】
「それだとあたしなら胸触られても良いみたいな科白だわね?
まあ女子になら触られても何も云わないだろうけど、男子は……マコくらいなら良いかも、折角だから触ってみる?」

【一条】
「……羽子さんのところ行ってくるわ」

【美織】
「少しは悩めよ!」

……

【一条】
「おーい」

【羽子】
「きっ!」

思いっきり鋭い眼で睨まれた、美織の怒りがまだ抑えきれていないみたい。
これは確かに不味いな……

【一条】
「わ! す、すいません」

【羽子】
「あ……ご、ごめんなさい……宮間さんだと思ったものですから」

【一条】
「またあいつに弄られたらしいですね」

【羽子】
「もう散々です、なんだかまだ変な感じがしてしまって……」

【一条】
「胸触られたらしいですね」

【羽子】
「っ! あ、あの人そんなことまで喋ったんですか!」

カァっと瞬時に顔を赤く染め、口元にわなわなと怒りを露にした。
美織に対する怒りを再熱させてしまったかな、と思ったんだけど……

【羽子】
「一条さん!」

【一条】
「は、はい?!」

【羽子】
「どうしてそんなことをまた私に云うんですか!」

非常に不味い、美織に対して怒っていると思っていたけどどうやら標的は俺のようだ。

【羽子】
「そんな恥ずかしいことどうして私の前で云うんですか!」

【一条】
「や、そのえぇっと……すいません」

【羽子】
「もう知りません!」

【一条】
「あぁっと待ってくださいよー」

【羽子】
「知らない!」

結局羽子さんのキリキリは治まらず、昼食をご馳走することで事無きを得ましたとさ。
今度から発言には気をつけよう、あれもこれも全部美織のせいだ……

……

【一条】
「ふいぃ……帰るとしますか」

【羽子】
「一条さん、今日この後予定は勿論空いていますよね?」

【一条】
「随分と確定されていますね、何か付き合えって云うんですか?」

【羽子】
「もう、また忘れているんですか? もうすぐ特別テストなんですよ」

【一条】
「あ……」

そういえばそんなのあったね、うん、さっぱりすっきり頭の中から消えてたよ。

【羽子】
「ここ数日一条さんの勉強は全くはかどっていないようですから、今日からみっちりと付き添ってあげますね」

【一条】
「いや、そんなことしてくれなくても良いですよ、迷惑ですから」

【羽子】
「いいえ、私の復習にもなりますし何より一条さんに赤点を取ってもらうと困りますから」

ずいずいずいっと顔を近づけられたら俺に断ることなんかできない、ってわかってきっとやってるんだろうな。

【一条】
「うわわ、顔を近づけないでくださいよ」

【羽子】
「男性はこうやってやると弱いって聞きましたよ?」

【一条】
「まさか美織からですか?」

【羽子】
「はい」

あんのやろうまた余計なことを……

【羽子】
「勉強会、付き合っていただけますよね」

【一条】
「は、はい……」

これ以上近付かれたら色々と抑えが利かなくなるかもしれないのでとりあえず了承するしかない。
くそ、あいつもこうなると思って面白半分で教えたな。

【羽子】
「決まりですね、教室と図書館とマスターのお店、どこが良いですか?」

【一条】
「……羽子さんの部屋にしましょう」

【羽子】
「へ? 私の……?」

【一条】
「はい、他の場所は他人に見られる可能性が大きいですから。
そうと決まればグズグズせずに行きましょう」

羽子さんの手を引いて急いで歩き出す、拒否権を認めさせないためにはちょっとくらい強引な方が良い。

【羽子】
「わわ、もう、強引なんですね」

【一条】
「勉強会に出るんですから、羽子さんも少しは譲歩してください」

【羽子】
「これだけですよ……だけど2人きりっていうのも良いかもしれないですね」

引かれていた手を解き、手早く腕へと自分の腕を絡めてきた。

【羽子】
「1人で先を歩くのは駄目です、2人で一緒に、ですよ」

【一条】
「最近までの恥ずかしがりとは随分と違いますね」

【羽子】
「それはまあ、朝からあんなことをさせられたうえにしっかりと見られてしまっていますから。
この程度のことではもう動じたりはしませんよ」

……

【美織】
「くしし、良い雰囲気出すまでになったじゃないの」

【音々】
「ええ、そうですね」

廊下の影から美織と音々の2人は、中良さそうに手を組んだ2人の背中を見つめていた。

【美織】
「呆れるほどの奥手と莫迦がつくほど真面目のコンビだからどうなることかと思ったけど、案外上手くいってるみたいだね」

【音々】
「お互い気持ちに気付くと、後は結構すんなりといくものですよ」

【美織】
「こうすんなりいくとなんか面白くないのよね」

【音々】
「ふふ、そんなこと云って、誰よりも2人のことを気にしていたのは美織ちゃんでしたよね」

【美織】
「気にしてたというか、チャンスがあればマコを盗ってやろうって思ってただけで
別に羽子が心配とかそういうのじゃないから、か、勘違いしないでよ」

なんて云ってるけど、言葉の節々に照れ隠しみたいなものが見え隠れしてるよ。

【音々】
「そういうことにしておきましょうか」

【美織】
「うわ、なんかあたしの言葉は半分も信じていないって感じに流されたよ」

【音々】
「だって美織ちゃん、羽子さんに色々とアドバイスしてあげていましたよね」

ぐっ、見られてたんだ……

【美織】
「て、敵は多い方が燃えるじゃない、あたしだっていつかマコを手に入れようと」

【音々】
「はいはい、そういうことにしておきましょうね」

完全に見透かされている、こうやって笑ってはいるけど全部お見通し。

【美織】
「むうぅ……姫、甘い物食べに行くよ!」

【音々】
「はい、あんまり無茶な食べ方してお腹壊さないでくださいよ」

【美織】
「甘い物でも食べて忘れるしかない、女の子とはそういう生き物なんだよ。
姫も最後まで付き合ってよね、1人で食べるのもなんか寂しいから」

【音々】
「勿論ですよ、好きなだけ私に愚痴ってくださいね」

どうやらもうあたしに傾く可能性はほとんど無いかな、悔しいけどあたしの負けか。
あんまり認めたくないけどしょうがない。

……お幸せに、羽子。

……

それから放課後は毎日羽子さんの部屋でテスト勉強がお決まりとなってしまった。
最初は結構イヤイヤだったけど、羽子さんと2人きりの時間があると思うとそこまで嫌ではなくなってきている。

実際、勉強の方も少しずつではあるけど理解してきているし、このまま行けばテストも何とかなるかもな。

【羽子】
「ふぅ、お疲れ様でした、今日はこの辺で止めにしましょうか」

【一条】
「お、もうこんな時間なんですね」

時間はもう7時になろうかというところ、いつもは6時には止めているが明日が休みなので少し延長になった。

【羽子】
「一条さん、明日のことなんですけど」

【一条】
「まさかとは思いますけど、朝からやろうなんて云われても断わりますからね」

【羽子】
「違いますよ、えっとその明日はお休みじゃないですか……その、2人でどこか出かけませんか?」

【一条】
「そういえば最近2人でどこかに行くってこと無かったですね」

【羽子】
「ですよね、ですからたまには息抜きもかねて2人でどこかに行きたいです」

最初は誘ってきていたはずなのに、いつのまにか連れていってほしいに変わっていた。

【一条】
「どこか行きたいところでもあるんですか?」

【羽子】
「一条さんが迷惑でなかったらなんですが、もう1回電車で遠出をしませんか?」

【一条】
「羽子さんがそれで良いというのなら付き合いますよ、勉強も見てもらってますしそれに最初から暇でしたからね」

【羽子】
「ありがとうございます」

ドキドキ顔だった羽子さんがパアっと笑顔になった、なんだかこの笑顔を見るのが最近楽しくなってきてるんだよな。

【羽子】
「待ち合わせの場所や時間は前と同じでよろしいですか?」

【一条】
「ええ」

【羽子】
「ほぅ、良かった……断わられたらどうしようかと思っていたんです」

【一条】
「はは、心配しなくてもよほどのことでない限りは断わったりしませんよ」

【羽子】
「それでは、私が今ここで抱いてほしいと云えば……きゃ!」

全部云い終わる前に羽子さんに飛び掛る、いきなり来ると思ってなかったのか羽子さんの身体がビクンと震えた。

【一条】
「ほら、断わらないでしょう?」

【羽子】
「そ、そのようですね……そろそろ放していただけると」

【一条】
「それは駄目ですね、何なら最後までいっても」

【羽子】
「や、冗談は止めてください、ちょっと、私はまだ何も良いとは!」

両腕ごと抱えて抱きしめているためにちょっとやそっとじゃ解くことは叶わない。
もそもそと動く羽子さんの身体が密着してなんだか柔らかいのが当たる。

まああれだ、羽子さんの大きなあれだわな……

【羽子】
「うぅうん、放してくださいよぉ」

【一条】
「羽子さん良い香りがして凄く暖かいですから、もう少しこのままで」

【羽子】
「私はもうこりごりですよぉ、なんだか最近の一条さんは変に大胆です」

諦めたのか羽子さんの抵抗が止まる、かといって俺もこれ以上先にいこうなんて思っちゃいないさ。

PrrrrrrrrPrrrrrrrr……

携帯の着信音にまた羽子さんの身体がピクリと震える、今度は俺も腕を解いて羽子さんの身体を解放させた。

【羽子】
「ぁ……」

着信画面を見た羽子さんの顔がにわかに曇る、そういえば前も似たような場面があったな。

【羽子】
「すいません、少し外させてもらいますね」

申し訳なさそうに頭を下げていそいそと部屋を出て行った。
以前羽子さんの電話を聞いてしまった時、あの時の普段では絶対聞かない怒りを含んだ声色。

いまだにあれがなんなのか引っかかっているんだ。

【一条】
「……」

俺は自分の疑問に負けた、羽子さんには悪いと思いながらも扉を僅かに開けて耳を傾けていた。

【羽子】
「なっ! それでは話が違うじゃないですか!」

やはり今回も声の奥には怒りの感情が滲み出していた。

【羽子】
「いい加減にしてください! もうそちらの勝手に付き合うのは嫌なんです……私にだって考えていることがあるんですから」

声から怒気が消えることは無い、羽子さんと電話の相手の会話は相変わらず衝突を繰り返してるようだ。

【羽子】
「どうしてそうやって私を否定するんですか、私は私なりに……勝手ばかり云わないでください!」

【一条】
「……」

【羽子】
「もう話すことは無いですから、云っておきますけど、いくら云われても私の考えは変わらないですから」

会話の終わりを悟り、そっと開けられた扉を閉める。
だけど羽子さんをあそこまで怒らせる人物とは一体?

【一条】
「ぁ……」

頭の奥で何かに手がかかった、俺が知る中で羽子さんが嫌っていた人物というと……

【一条】
「親御さん、なのかな」

完璧を求め、羽子さんに完璧に振舞うよう厳しく云っていた両親。
リストカットを行ってしまった原因、偽りの羽子さんを作り出させてしまった存在。

それくらいしか俺に思い浮かぶ人物はいなかった。

【羽子】
「お待たせしてしまって申し訳ありません」

【一条】
「いえ、気にしないでください」

【羽子】
「一条さん、もうこんな時間ですしお腹空かないですか? マスターのお店一緒に行きませんか?」

【一条】
「はい、喜んで」

あんなに声を荒げ、冷たく会話を断ち切った直後の羽子さんとはとても思えないような。
いつものようにきりりとした笑みを見せる羽子さんを見ていると、なんだか少しだけ不安になってしまった。





〜 N E X T 〜

〜 B A C K 〜

〜 T O P 〜