夜桜の下で
まだ夜は少し肌寒いけど、桜も咲いてきて職場では花見の話が出てきている。
順番でいくと、花見の幹事は私だ。
そしてもう1人・・・・。
「場所はいつもの場所でいいよな?」
「いいと思いますよ。」
「じゃ後は、食事と飲み物か。」
「食事と飲み物は私用意しますよ。任せてくださいっ。」
「そうか?じゃ、用意はまかせるから。
荷物もちは俺がするよ。」
「そんな、先輩にさせられないですよ。」
「先輩っていっても、一緒に幹事するんだから当然だろ?
思う存分こき使ってくれ。」
「えっと、こき使うのは無理ですよ。」
「そうか?
じゃ、俺が気がけるようにするかな。
当日は2人で場所取りだからな。」
「はいっ、でも良かったですよねお互い休みで。
1人で場所取りというのも淋しいですもんね。」
「とりあえずはこんなもんだな。」
「はーい、お2人さん話し合い終わった?
そろそろオペ出しするから手伝って。」
私ともう1人の幹事が話を終えるのを待っていたかのように、今日のリーダーが私達の肩を叩いて今から業務が忙しくなることを知らせる。
そう、今は仕事中で、今日は手術が3件も入ってるからお昼からも忙しくなるのだ。
いつまでも花見の話をしているわけにもいかないから、私と先輩は立ち上がり、それぞれの仕事に戻ることにした。
花見に職場のみんなで行くのは2回目だ。
去年は新人で、入ったばっかりの職場で突然花見に連れていかれて何が何やら分からないうちに終わってしまった。
覚えているのは、先輩達と先生達のテンションが異常に高くて、そばに近寄れず端で同期と一緒に小さくなっていた。
その光景は、普段仕事でキリッとしている人達が壊れている現場だったが、とても楽しそうで、その様子を見ているだけど楽しくなった。
今年は職場にも慣れての花見、きっと去年よりも楽しく過ごせるだろうと今から楽しみにしている私。
一緒に幹事をする先輩も優しくて話しやすいから良かったな。
それに、みんなに人気がある先輩だからちょっと得した気分。
普段一緒に行動することなんてない人と当日は2人で場所取りだもんね。
ちょっと緊張しちゃうなぁ。
当日先輩が私の家まで迎えに来てくれるということで、一緒に買出しに行くことになった。
「すいません、迎えに来てもらっちゃって。」
「いいよ、それに車で一緒に移動した方が何かと都合がいいからな幹事は。」
「そうですね、じゃ甘えることにします。」
私が運転している先輩の横顔を見ながらそう言うと、小声で何かをいった気がしたので聞き返したんだけど、
先輩は何も言ってないよと言って教えてくれなかった。
先輩絶対何か言ったと思うんだけどなぁ。
そう思ったけど、これ以上聞いても教えてくれなさそうなので、違う話を始める私だった。
必要なものをすべて買った後、今日の花見の場所に向かった私達は、協力しながら桜が咲いている場所までの坂道を登った。
食べ物を運んだ時は大丈夫だったんだけど、クーラーボックスを運ぶ時が大変だった。
氷を入れたクーラーボックスはすごく重くて、私1人ではとても運ぶことが出来なかった。
「そんな重いもの運ぶのは男の仕事だろ?」
そう言って先輩は1人で持ち上げてしまい歩き出した。
「先輩待ってっ!
1人じゃきついですよ、一緒に持ちますから。」
「大丈夫だよ。
それに、いい所見せとかないとな、一緒にいるんだから。」
「え?」
先輩の言葉に驚いた顔を見せると、そんな私の様子をクスッと笑った後先輩はスタスタと歩き始めてしまった。
私は先輩が歩き出したことにしばらくして気づき、慌てて後を着いていった。
え?えっと、今先輩が言った言葉の意味って?
「さー飲むわよっ!」
先輩・先生達は仕事を終わらせ、予定の時間に何とか間に合ってくれて、
クーラーボックスで冷やしていたビールを渡すと、みんなすごい勢いで飲み始めた。
私と言えば、同期のそばでちょびちょび飲んでいたけど、幹事ということでビールがなくなった人に渡したりするのに忙しくなり、
自分が楽しむどころではなくなってしまった。
えーん、忙しいよ〜。
折角きれいに桜も咲いててゆっくり楽しく過ごせると思ってたのにぃ。
私は初めての幹事で、幹事がこんなに忙しいものだとは思っておらず、桜が風でフワフワ散る中、一所懸命幹事の仕事に没頭していった。
「もう駄目、ちょっとお酒覚ましてくる。」
同期の子にそう言って立ち上がった私は、ふらつきながらみんなから少し離れた場所に移動した。
ビールを持っていくと飲むようにすすめられてしまい、そうなると飲まないわけにはいかないので飲んでいると、酔いも回ってきてしまった。
うー、目が回ってるよー。
そう思いながら見つけたベンチに座り空を見上げると、桜が満開に咲いていてそこから薄ピンク色の花びらがヒラヒラ舞い、
花びらの雨のように私に降ってきた。
それはとてもきれいで、酔っていた私の頭も花びらを見ることで、少しずつ覚ましてくれた。
「きれー。」
「そうだな。」
私のつぶやきに答えてくれる人がいて、声がした方向に顔を向けると、先輩が立っていた。
「今日は頑張ったな。」
そう言ってウーロン茶の缶を手渡してくれた。
「ありがとうございます。」
「桜って昼に見るのと夜に見るのじゃ違うよな。
俺は夜に見る桜が好きだけど、どっちが好き?」
「私も夜に見る桜が好きです。
光の中でとってもきれいに見えるから。
それに、花びらも夜の暗さの中できれいです。」
「気が合うな俺達。」
「そうですね。」
私達はそういった後、同じベンチに座り、2人で桜を見ていた。
その間私は、先輩が昼に言った言葉や2人で場所取りをしていた時に言われた言葉が気になっていた。
「別に今日だけじゃなくてもいいんだけどな、甘えられるのは。
て、言ったんだよ車の中では。
聞こえなかったんだったら残念だなっと思ったから今言ったんだけどね。」
という言葉を聞いてから私は何も言えず、みんなが来るまで桜を見ていた。
私には先輩がどういうつもりで言ったのかは分からないけど、その言葉が私の胸をときめかせるのには十分な言葉だった。
だからと言って先輩のことが好きだとかは今まで思ったことはなかったんだけど。
「今度2人で夜桜を見にこようか。」
「2人で?」
「そう、嫌?」
「嫌じゃないですけど、どうして2人なんですか?」
「それは、お断りしたいから聞いてるのか?」
「そういうわけじゃなくて、どうして先輩が私を誘ってるのかが分からないから。」
そういった後、うつむいてしまった私に先輩は、
「やっぱりさりげなくじゃ伝わらないな。」
そう言いながら、苦笑した。
「俺は大好きな人と一緒に見たいと思ったんだよ。だから誘った。
これで伝わった?」
「私のことが好きってことですか?」
「そう言ってるだろ?俺と付き合ってください。」
私は先輩の突然の告白に、どう答えたらいいのか分からなかった。
先輩が私のことを好き?
急にそんなこと言われても、私は先輩のこと好きとか嫌いとか考えたことないから分かんないよ。
私の動揺に気づいたのか、先輩が、
「今俺と桜を見ているのは嫌か?正直に言ってくれていいから。」
と、聞いてきた。
私は先輩と今一緒に夜桜を見ている状況で考えてみたが、嫌ではなかった。
先輩が隣に座っていることで緊張と違う胸のドキドキを感じてはいたけど。
「嫌じゃないです。
先輩といるとドキドキしてしまうし。
でも、好きかって聞かれると、それは分かりません。」
私は正直に先輩に伝えた。
「そっか、分からないか。
でも、俺といることでドキドキしてくれるってことはこの先俺を好きになる可能性が高いってことだよな。
じゃ俺は、あきらめないでこれからは遠慮せず口説くことにするよ。
まず最初に、一緒に夜桜を見に行こうか。」
笑顔で私にそう言った先輩は、私の手を握り立ち上がらせると、
「戻ろうか。」
そう言って歩き出した。
私はといえば、先輩が私の手を握っている温もりは嫌なものではなかった。
胸のドキドキを強めてしまうものではあったけど。
大人しく手をつながれながら、先輩と一緒に歩く夜桜の下をまた歩きたいと思っているのはどういう気持ちになるのか分かるのは、
もうしばらく先のことだったりする。
+おわり♪+
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マチさんから頂いてまいりました、キリ番30万を私が踏んだ際にリクエストさせていただきましたものですね
桜の樹の下、まだ恋をする前の甘すぎないところがとてもよろしく出来ているのですよー♪
私のリクに答えていただいたマチさんに、深々と頭を下げてお礼の言葉とさせていただきます、マチさんありがとうございました〜。
製作者様のHPにとんでいけます
私の文章と違ってとてもラブラブでアマアマなのですよ〜(ポッ)